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夜更けのクラインフェルト伯爵邸。
私の部屋の窓から、静かな月の光が差し込んでいる。
机の上には、一通の報告書。王宮の知人から、極秘に届けられたものだ。
「…まあ」
報告書を読み終えた私は、思わず小さく息を漏らした。その内容は、私の予想を上回り、そしてある意味では予想通りだった。
『アルフレッド殿下、財務官の諫言を無視し、再び国庫より多額の金を引き出し。名目は「王家の威信を保つための交際費」なれど、その金のほとんどが、ミルティ男爵令嬢への贈答品購入に充てられている模様』
報告書には、購入されたドレスや宝飾品のリストまで、詳細に記されていた。
「愚かな殿下。そして、浅はかなセラフィーナ嬢」
私はペンを取り、手帳に新たな事実を書き加える。
セラフィーナ嬢の焦りは、手に取るようにわかった。社交界で孤立した彼女が頼れるのは、もはやアルフレッド殿下ただ一人。彼に依存し、甘え、貢がせることでしか、自分の価値を保てないのだろう。
そしてアルフレッド殿下は、彼女の涙と甘言を「愛の証」と信じ込み、正義感に駆られて暴走を続けている。自分が国の大切な財産を、私的な恋愛感情のために食い潰しているという自覚すらない。
「これで、外堀は埋まりましたわね」
公金横領。これは、単なる恋愛沙汰では済まされない、国家に対する背信行為だ。動かぬ証拠は、着実に集まりつつある。
コンコン、と控えめなノックの音。
「お嬢様、マリーでございます」
「ええ、入りなさい」
入ってきたマリーは、一枚の招待状を盆に乗せて、私の前に差し出した。
それは、王家主催で開かれる、建国記念の舞踏会への招待状だった。
「…最高の舞台が、整ったようですわね」
私は招待状を手に取り、ふっと微笑んだ。
きっと、アルフレッド殿下は、この舞踏会でセラフィーナ嬢を新しいパートナーとして華々しく披露し、私とクラインフェルト家への当てつけにするつもりだろう。国費で買った、目も眩むようなドレスと宝石で彼女を着飾らせて。
しかし、その晴れ舞台は、あなた方の断罪の舞台へと変わるのです。
「マリー、わたくしも、この舞踏会のために新しいドレスを仕立てなければなりませんわ」
「かしこまりました。マダム・エヴァにご連絡を?」
「いいえ」と私は首を振る。「今回は、別のところに頼みます。…目立ちすぎず、しかし、誰よりも気品のあるドレスを」
主役は、あくまで殿下とセラフィーナ嬢。私は、彼らを引き立てるための、静かな額縁に徹する。真実が明らかになった時、そのコントラストがより鮮やかになるように。
「それから、父様にお伝えして。そろそろ、国王陛下に直接お会いして、『ご相談』したいことがある、と」
「かしこまりました」
マリーが静かに一礼して、部屋を出ていく。
私は再び窓の外に目をやった。静かな夜空に浮かぶ月が、まるでこれからの展開を面白がっているかのように、煌々と輝いていた。
アルフレッド殿下、セラフィーナ嬢。
あなた方が踊る最後のワルツの曲は、もうわたくしが選んで差し上げましたわ。
どうぞ、お楽しみに。
私の部屋の窓から、静かな月の光が差し込んでいる。
机の上には、一通の報告書。王宮の知人から、極秘に届けられたものだ。
「…まあ」
報告書を読み終えた私は、思わず小さく息を漏らした。その内容は、私の予想を上回り、そしてある意味では予想通りだった。
『アルフレッド殿下、財務官の諫言を無視し、再び国庫より多額の金を引き出し。名目は「王家の威信を保つための交際費」なれど、その金のほとんどが、ミルティ男爵令嬢への贈答品購入に充てられている模様』
報告書には、購入されたドレスや宝飾品のリストまで、詳細に記されていた。
「愚かな殿下。そして、浅はかなセラフィーナ嬢」
私はペンを取り、手帳に新たな事実を書き加える。
セラフィーナ嬢の焦りは、手に取るようにわかった。社交界で孤立した彼女が頼れるのは、もはやアルフレッド殿下ただ一人。彼に依存し、甘え、貢がせることでしか、自分の価値を保てないのだろう。
そしてアルフレッド殿下は、彼女の涙と甘言を「愛の証」と信じ込み、正義感に駆られて暴走を続けている。自分が国の大切な財産を、私的な恋愛感情のために食い潰しているという自覚すらない。
「これで、外堀は埋まりましたわね」
公金横領。これは、単なる恋愛沙汰では済まされない、国家に対する背信行為だ。動かぬ証拠は、着実に集まりつつある。
コンコン、と控えめなノックの音。
「お嬢様、マリーでございます」
「ええ、入りなさい」
入ってきたマリーは、一枚の招待状を盆に乗せて、私の前に差し出した。
それは、王家主催で開かれる、建国記念の舞踏会への招待状だった。
「…最高の舞台が、整ったようですわね」
私は招待状を手に取り、ふっと微笑んだ。
きっと、アルフレッド殿下は、この舞踏会でセラフィーナ嬢を新しいパートナーとして華々しく披露し、私とクラインフェルト家への当てつけにするつもりだろう。国費で買った、目も眩むようなドレスと宝石で彼女を着飾らせて。
しかし、その晴れ舞台は、あなた方の断罪の舞台へと変わるのです。
「マリー、わたくしも、この舞踏会のために新しいドレスを仕立てなければなりませんわ」
「かしこまりました。マダム・エヴァにご連絡を?」
「いいえ」と私は首を振る。「今回は、別のところに頼みます。…目立ちすぎず、しかし、誰よりも気品のあるドレスを」
主役は、あくまで殿下とセラフィーナ嬢。私は、彼らを引き立てるための、静かな額縁に徹する。真実が明らかになった時、そのコントラストがより鮮やかになるように。
「それから、父様にお伝えして。そろそろ、国王陛下に直接お会いして、『ご相談』したいことがある、と」
「かしこまりました」
マリーが静かに一礼して、部屋を出ていく。
私は再び窓の外に目をやった。静かな夜空に浮かぶ月が、まるでこれからの展開を面白がっているかのように、煌々と輝いていた。
アルフレッド殿下、セラフィーナ嬢。
あなた方が踊る最後のワルツの曲は、もうわたくしが選んで差し上げましたわ。
どうぞ、お楽しみに。
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