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第4話「家の地下室の柱に縛りつけるんだ」
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15分後、妹の瑠璃乃から「たすけて」とメッセージが届いた。
急いで漁港に向かうと、コンクリートの地面に倒れる星月姉妹が!
「二人とも!」
慌てて駆け寄って驚いた。
彼女らの頬は叩かれたように赤く腫れ、紅瑠璃にいたっては唇を切って出血していた。
「な、なにしてるんですか!」
俺は思わず目の前の男に向かって叫んだ。男のことは顔見知り程度だが知っていた。於伊津島の人たちはみんな顔見知りだ。
彼は現星月家当主で、双子の父親だ。
俺よりも頭二つでかい大男で、ラガーマンもびっくりのムッキムキな体つきをしている。
しかし、彼の右腕は付け根から切り取られていた。その昔、チュパカブラの群れと戦った際に失ったって言われてるけど、俺は嘘だと思ってる。
「君が出る幕ではない。これは家庭内の問題だ」
男がギロリと睨みつけてくる。チビってしまいそうなくらいの威圧。
でも、はなれてたまるもんか!
「養護教諭の鼎と申します。少し事情をお聞かせ願えますか」
一緒に来ていた鼎先生がすかさず俺と父親との間に立った。
「この子らが〝海の主〟を狩ると言い出したものですから、無理だと跳ね除けただけです」
「だからって、ぶたなくても……」
「この子らは昔から言うことを聞きませんからな。こうして体で覚えさせとるんです」
すると突然、鼎先生に向かって拳をふりかぶった。
「先生も喰らいたいですかな? 私は、誰であろうと言うことを聞かない方は殴らせていただきますが」
なんて野郎だ。自分の意見に沿わないと暴力をふるうなんて、サンドウィッチマンのコントに出てくる園長先生みたいじゃないか!
「おわかりいただけたなら、お帰りください。私はこれから二人を『再教育』しますので」
「『再教育』って……!」
双子の親父はギロリと俺のことを睨みつける。
「家の地下室の柱に縛りつけるんだ。そして1時間に1回、竹刀で〝教育〟する。『はい』と言うまで何度も、何度も」
なんてこった。戸塚ヨットスクールもびっくりの教育方針を持ってる家庭がまだあるなんて……。
——ふざけてやがる。
「我が星月家では代々このようにして優秀な素潜り師を輩出してきました。何人たりとも意見することは許しません」
俺は足元に倒れる二人を見た。
あのときは気楽に頼んでしまったが、きっと二人はとてつもない苦しみを背負う覚悟で、俺の身を案じてくれたんだ。
——いったい、どれだけの勇気が必要だっただろう。
キッと上を向く。そこには鼎先生に視線をもどした男がいた。
「これ以上の問答は無用。どうぞ、お帰りください————」
あぁ、問答は無用だ。
拳でしかわからせることのできないヤツは、拳でわからせるしかない!
俺は男の右頬に痛烈な一撃をお見舞いした。
人を殴るなんて、子供のころ近所の子と柿を取り合ったとき以来だ。大人の体は固くて、拳が砕けたんじゃないかってくらい痛い。
でも、それだけのことをしてやらないと、俺のマグマが収まらない。
双子の親父は大きくのけぞって、地面に倒れた。
豆鉄砲を食らった鳩のような様子だった男の顔はみるみる変わっていく。
「キサマ……なにしやがる……!」
男が起き上がるやいなや、俺は五体投地した。
「すみません。でも、そうじゃないと俺たちの話を聞いてくれないような気がして」
心臓がバクバクしている。今にも頭を踏まれるのではないかという恐怖が湧き上がってくる。
でも——
「二人が〝海の主〟を獲ると言い出したのは、俺のせいなんです。俺が1時間に1回イカを食べないと死んでしまう体になってしまって、島にイカがなかったからお願いしたんです。昔、二人が泳いでいるのを見たことがあったので————」
それは今年の5月。
短い春が過ぎ、汗ばむ太陽が照りつける休日だった。俺はバイトに向かうため、海沿いの道路を自転車で走っていた。
ふと、視界の隅で岸壁に足を投げ出すスク水姿の双子を見つけた。
かと思ったら2人とも下にある海へと落ちていった。岸壁から海面まで1メートル以上はある。
『マジかよ!』
慌てて岸壁から覗き込むと、
そこには人魚がいた。
まだ波の高い海の中を、凪の空を飛ぶ鳥のように、二人の人魚はキャッキャと笑いながら自由奔放に泳いでいた。
(……きれいだ)
まるで印象派の絵画でもみるかのように、俺はその光景に釘付けになっていた。(おかげでバイトに遅刻しかけたけど)
「ひと目みて確信しました。彼女たちは島の誰よりも自由に泳ぐことができる。きっと、〝海の主〟も獲ることができる、と。
どうか、どうか二人を信じてやってくれませんか?」
土下座したまま唾をゴクリと飲む。
やがて、目の前から重い声が聞こえてきた。
急いで漁港に向かうと、コンクリートの地面に倒れる星月姉妹が!
「二人とも!」
慌てて駆け寄って驚いた。
彼女らの頬は叩かれたように赤く腫れ、紅瑠璃にいたっては唇を切って出血していた。
「な、なにしてるんですか!」
俺は思わず目の前の男に向かって叫んだ。男のことは顔見知り程度だが知っていた。於伊津島の人たちはみんな顔見知りだ。
彼は現星月家当主で、双子の父親だ。
俺よりも頭二つでかい大男で、ラガーマンもびっくりのムッキムキな体つきをしている。
しかし、彼の右腕は付け根から切り取られていた。その昔、チュパカブラの群れと戦った際に失ったって言われてるけど、俺は嘘だと思ってる。
「君が出る幕ではない。これは家庭内の問題だ」
男がギロリと睨みつけてくる。チビってしまいそうなくらいの威圧。
でも、はなれてたまるもんか!
「養護教諭の鼎と申します。少し事情をお聞かせ願えますか」
一緒に来ていた鼎先生がすかさず俺と父親との間に立った。
「この子らが〝海の主〟を狩ると言い出したものですから、無理だと跳ね除けただけです」
「だからって、ぶたなくても……」
「この子らは昔から言うことを聞きませんからな。こうして体で覚えさせとるんです」
すると突然、鼎先生に向かって拳をふりかぶった。
「先生も喰らいたいですかな? 私は、誰であろうと言うことを聞かない方は殴らせていただきますが」
なんて野郎だ。自分の意見に沿わないと暴力をふるうなんて、サンドウィッチマンのコントに出てくる園長先生みたいじゃないか!
「おわかりいただけたなら、お帰りください。私はこれから二人を『再教育』しますので」
「『再教育』って……!」
双子の親父はギロリと俺のことを睨みつける。
「家の地下室の柱に縛りつけるんだ。そして1時間に1回、竹刀で〝教育〟する。『はい』と言うまで何度も、何度も」
なんてこった。戸塚ヨットスクールもびっくりの教育方針を持ってる家庭がまだあるなんて……。
——ふざけてやがる。
「我が星月家では代々このようにして優秀な素潜り師を輩出してきました。何人たりとも意見することは許しません」
俺は足元に倒れる二人を見た。
あのときは気楽に頼んでしまったが、きっと二人はとてつもない苦しみを背負う覚悟で、俺の身を案じてくれたんだ。
——いったい、どれだけの勇気が必要だっただろう。
キッと上を向く。そこには鼎先生に視線をもどした男がいた。
「これ以上の問答は無用。どうぞ、お帰りください————」
あぁ、問答は無用だ。
拳でしかわからせることのできないヤツは、拳でわからせるしかない!
俺は男の右頬に痛烈な一撃をお見舞いした。
人を殴るなんて、子供のころ近所の子と柿を取り合ったとき以来だ。大人の体は固くて、拳が砕けたんじゃないかってくらい痛い。
でも、それだけのことをしてやらないと、俺のマグマが収まらない。
双子の親父は大きくのけぞって、地面に倒れた。
豆鉄砲を食らった鳩のような様子だった男の顔はみるみる変わっていく。
「キサマ……なにしやがる……!」
男が起き上がるやいなや、俺は五体投地した。
「すみません。でも、そうじゃないと俺たちの話を聞いてくれないような気がして」
心臓がバクバクしている。今にも頭を踏まれるのではないかという恐怖が湧き上がってくる。
でも——
「二人が〝海の主〟を獲ると言い出したのは、俺のせいなんです。俺が1時間に1回イカを食べないと死んでしまう体になってしまって、島にイカがなかったからお願いしたんです。昔、二人が泳いでいるのを見たことがあったので————」
それは今年の5月。
短い春が過ぎ、汗ばむ太陽が照りつける休日だった。俺はバイトに向かうため、海沿いの道路を自転車で走っていた。
ふと、視界の隅で岸壁に足を投げ出すスク水姿の双子を見つけた。
かと思ったら2人とも下にある海へと落ちていった。岸壁から海面まで1メートル以上はある。
『マジかよ!』
慌てて岸壁から覗き込むと、
そこには人魚がいた。
まだ波の高い海の中を、凪の空を飛ぶ鳥のように、二人の人魚はキャッキャと笑いながら自由奔放に泳いでいた。
(……きれいだ)
まるで印象派の絵画でもみるかのように、俺はその光景に釘付けになっていた。(おかげでバイトに遅刻しかけたけど)
「ひと目みて確信しました。彼女たちは島の誰よりも自由に泳ぐことができる。きっと、〝海の主〟も獲ることができる、と。
どうか、どうか二人を信じてやってくれませんか?」
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