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本編

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「エリアは本当にそれで良いんだね」
「兄さま、サイシュ辺境伯さまから実家へ帰れと言われたのです。それに私がいつまでも隣に居る事は出来なかったの。こうなるのは当然ですわ」

インタ子爵家へ向かう馬車の中で、兄妹の話に割って入ったのはシェキだ。

「可愛いエリアちゃんは、ずーっとインタ家に居れば良いの。何なら一緒に王都へでも遊びに行く? 他国でも良いわね」

少しでも明るくなれるよう、シェキは話しかけたがエリアは笑って頷くだけで、すぐ顔を外へ向けてしまう。


何か話しかければ返事をするものの、元気の無いエリア。それはインタ子爵家へ戻ってからも同じで、何かを忘れるように自警団と共に街道を守る為、昼夜関係なく街へ降りていた。

その間にサビース夫妻は王都へ旅立ち、エリアの父であるインタ子爵は娘と話そうとするがやんわりと避けられている。

サビースには、勝手にエリアを嫁に出した事を怒られ。一年経たず帰ってきたエリアからは避けられ、インタ子爵は毎夜号泣しているとか。


そんな、インタ子爵宛に届いた手紙は正に待ち望んでいた物であった。
奇しくも、この日はエリアがサイシュ辺境領へ旅立った日から丁度一年経った日である。



「エリア! エリアはどこだ!」

屋敷中を走り回る父さまを見つけ、エリアは何かあったのかと慌てて側へ駈け寄った。

「父さま、魔獣ですか! それとも野盗ですか!」
「エリア、びっくりしないように。いや、絶対びっくりする。そうだ、こうしちゃおれん、早くドレスへ着替えて執務室へ来なさい」

いつも、あ、とか。う、しか言わない父さまが屋敷の者達へテキパキ指示を飛ばす。

「ナラついにこの時が来たぞ… お前はエリアをこれでもか!って位、可愛く仕上げてくれ」
「お言葉ですが、エリアお嬢様はいつも可愛らしくて御座います」
「そうなんだけど、うん。そうなんだよ。だけど今よりもっと可愛くしてくれ」

ナラはその言葉に、瞳をキラーン! と輝かせるとエリアの前に立つ。

「お嬢様、最高に可愛くなりましょう。最近は男性の服ばかり身につけナラは寂しくて、ご結婚のお話を聞いてドレス姿すら見れなく直ぐ旅立ってしまわれた事が本当に寂しくてどうやってお嬢様を着飾るかを夢想するしか出来ませんでしたが! 今からナラの夢が叶いそうです。さぁさぁ行きましょう」

熱量が凄いわよナラ…

あまりの勢いにエリアは首をコクコク縦に振るしか出来ない。

「髪も肌も思いっきり磨きますよ。ほら、皆さん行くわよ!」

何かを言える雰囲気は無く、エリアはナラのなすがまま身体も髪も磨かれ、いつ仕立てたのか淡いピンク色のドレスを着せられていた。





怒涛の展開に何がなにやら全く分からないまま、着飾った姿で執務室のソファで待つ事数分。

ノックの音がして、父さまが来たのだと立ち上がったエリアの視線の先に居たのは。

「サイシュ辺境伯さま…」
「もう、辺境伯じゃない。俺は」

何かを言いかけた時、父さまのわざとらしい咳払いがする。

「立ち話もなんだ。ケンブ殿はこちらへ、エリアもそのまま座りなさい」

一人がけのソファに父さまが座り、私とサイシュ辺境伯さまは対面で座った。

「エリア、紹介しよう。この度インタ子爵家の自警団長となったケンブ殿だ」
「え? 父さま… 何のお話?」

対面に座るのは、どこをどう見てもサイシュ辺境伯さまである。辺境伯さまが自警団長?

「辺境伯の座はシベツに渡してきた。俺は最初からシベツの方が辺境伯に相応しいと言っていたが、なかなか奴が引き受けてくれなくてな」

「そ、それでだな。行き先が無くなったケンブ殿をうちで雇う事に」
「父さま! はかりましたわね!」
「いや… だからね。エリアには幸せに」
「サイシュ辺境伯さま! 貴族としての矜持を忘れてしまわれたのですか!
私は… 私は何事も一所懸命な旦那さまを尊敬しておりましたのに」

エリアの言葉に父は、あ、とか。う、とか…

「違う! 俺は何よりもエリアと共に生きていたい。その為なら貴族としての矜持など捨ててしまおう」

ケンブの真剣な眼差しは、最後に別れた時と同じ。

「シベツは、父の弟の子どもだ。母親が平民で結婚を認められず駆け落ちしたが、シベツが五歳の時に事故で両親が亡くなり。俺の親がシベツを知ったのは、弟夫婦を長年探していた事を知った行商人が一人残されたシベツを連れてきた時だそうだ」

ケンブより年上のシベツは、引き取られてからシベツの従僕となると誓ったらしい。両親が亡くなってからケンブの補佐を完璧にやったシベツを見て、何度か身分を公表しようと説得していたが、シベツは頑として首を縦に振らなかった。

「エリアがインタ子爵家へ帰ってから、俺はシベツを辺境伯とする為に色々していて… すまない。迎えに来るのが遅くなった」

「サイシュ辺境伯さま。それで? 私の為? シベツの気持ちを無視して?」

キッと睨みつけた私に、ケンブさまはゆっくり立ち上がった。

「その通りだ。俺は自分の気持ちだけを優先した、だが。エリアと共に生きる事の方が俺には大切だった。シベツも最後は納得してくれた。
だからはっきり言ってくれ… 例え離縁になろうとも俺はエリアの言葉に従う」

好きな人にここまで言われ、気持ちがグラついてしまう。だけど私もずっと考えていた事がある。

「一度、離縁致しましょう。」

「やはり… そうだよな。分かった離縁に同意しよう」

目の前に跪くケンブは、力なく項垂れたが。

「父さま! 私を除籍なさって下さいませ」
「エリア! いきなり何の話だい」

空気と化していたインタ子爵は、愛娘の発言にびっくりして問い詰めようとした。

「可愛い娘を除籍など出来る訳が」
「貴族としての矜持を私も貫く事が出来ないの、ずーっと考えていたわ。血を繋ぐ事が出来ない私に何が出来るか」

愛娘の気持ちが痛いほど分かる。分かるのだが、何の罪も無い愛娘を除籍など。

「だからね。父さま、私は貴族の矜持を手放してしまうほど、真っ直ぐで愚かで優しくてお馬鹿なケンブさまと同じなの。お似合いの二人でしょ? だから平民として結婚しようと思うの」

「エリア!」

ケンブはエリアの身体を抱き上げると、嬉しさのあまりクルクルと回りだした。

「ケンブさま、こんな私を好きになってくれてありがとう」
「愛しているよエリア」
「私も愛しております」



こんな展開になると思わなかったインタ子爵だったが、嬉しそうに笑う愛娘に目頭が熱くなる。

「して、平民となりどうするのだ? このままインタ子爵家で働くのも良いが」
「父さま、私ケンブさまと護衛団を作ろうと思いますの。兄さま達が立ち上げた商業ギルドの人達や旅人が安全に街道を通れるように、警護する為の団体ですわ」

「それはかなり壮大な夢だ。各領地には自警団が居る。その領域を侵す事にも成りかねない」
「そうですわね父さま。でも私、サイシュ辺境領とインタ子爵家で学びましたの。誰もが安全に暮らすにはどうすれば良いか、インタ子爵家では当たり前のように領民や領地を訪れる者を守ってきましたわ。だけど、それは当たり前では無かったのですの。サイシュ辺境領へ行く道で学んだの、街道を行き来する商人とも色々な話をしたわ。
そして国の盾として働くサイシュ辺境領の自警団でも平時の時は大丈夫でも、有事の際に起こる悲劇も。
自警団と一緒に誰よりも早く駆けつける事が出来れば傷付く者は少なくなるのではと」

「確かに、貴族として国へ要請を出しても国から騎士団の出発許可が出るまで、何度も書類のやり取りをしなければならない」

「そうなのです。だけど各地にある商業ギルドと同じように、各地へ支店を置いておけば情報は早く届きますわ」

エリアの考えはケンブには前衛的過ぎて、すぐ頷く事は出来なかったのだが。エリアの言った事を考えると悪くない話だと感じた。

「サビースの商業ギルドで、ひとつ部署を作れば大丈夫だろう。だけど簡単じゃないよ」
「大丈夫よ、だって私は一人じゃないもの」

エリアに見つめられ、ぽーっとなったケンブだったが、キリリッと顔に力を入れ頷く。

「貴族では無いからこそ、出来る事もあるはずだ。それに働く場が無い者たちの受け皿にもなるのではと」

実際、誰でも自警団へ入れる訳では無い。領地によって異なるが、身元保証人は必ず必要で、自領なら試験を受けられても他領からの入団はなかなか厳しい。
サイシュ辺境領でも、貴族の下で雇う事になる為。いくら身元がはっきりしていようと他国から来た者たちを雇う事は無い。

「除籍しようと、いつでも帰って来るんだよ」
「もちろんですわ。私は父さまの娘で幸せよ」


それからすぐ、サイシュ元辺境伯ケンブとインタ元子爵家エリアの離縁は認められ。その後二人は平民となった。





「そう言えば、結婚は二度目なのに結婚式は初めてね」
「ゔっ… そ、それは」

王都にある商業ギルドの一室で、ケンブとエリアは結婚式の予定を話し合っていた。

「可愛いエリアちゃんにドレスも着せなかったのですか?」

ドレスの冊子を捲っていたシェキはケンブに鋭い目を向けたが、

「エリアも単身、馬で向かったしね。ケンブだけを責めちゃいけないよ」

サビースはシェキを窘めるけど、いつの間に兄さまとケンブさまは仲良しさんになったのかしら?

ん? と思うけど。仲良しさんは良い事よね。

しかし、和気あいあいとした部屋へ駆け込んできた人は顔面蒼白だった。

「シェキさま! 今知らせが来てあの女性が又やらかしたみたいです!」

「あの女性… って。まさか」
「はい。サイシュ辺境領から連れてきたアイリーンって名前の」

「アイリーン?!」

ケンブは名前を聞いて驚いたが、サビースは余裕の笑みを浮かべた。

「あーぁ」
「お義姉様なら大丈夫だと思っていたのよ。でも変ね…」

兄夫婦の会話が分からないエリアは、隣で固まってしまったケンブを放置して会話に加わる。

「アイリーンさんって、あのアイリーンさんの事ですの?」
「そう、自称未来の辺境伯婦人になるアイリーンね」

まだ、諦めて無かったのね。それより今のサイシュ辺境伯はシベツさまなのに。

「奥様と行儀見習い達の前で、サイシュ辺境伯の子どもを身籠ったと叫んだらしく。しかも大公夫妻に監禁されたとか」

彼はよほど慌てて来たのか、声も震えていた。

「大丈夫? こちらに座った方が良いわよ」
「いえ! そ、そんなシェキさまとサビースさまの前で俺如きが座るなど!」

今度は身体も震えてしまったから、医者を呼んだ方が良いかしら?

「サビース殿、アイリーンの事なら俺が」
「ケンブが出て行けば余計拗れると思うよ、それよりあの義姉が易易とバカ女に発言させた方が気になるな」

考え込む兄さまに、シェキお義姉様は微笑み私を呼んだ。

「可愛いエリアちゃん、良い機会だから大公家へ行きましょう。兄夫婦も可愛いエリアちゃんと会いたがっていましたし、両親も可愛いエリアちゃんと話したがっていたわ」
「お会いするのは久しぶりで嬉しいのですが、今は平民となり気軽に会いに行くのは」

ガッと目を見開くシェキお義姉様は、私の方へツカツカ歩み寄るといきなり頭を抱きかかえた。
ポヨンポヨンの大きなお胸に顔を挟まれ息が出来ませんわ!

「身分なんて関係ないわ! 私の可愛い義妹のエリアちゃんが望むなら、王宮だろうと入れるようにするわよ」

「シェキ殿! エリアを離してくれ!」

ベリッと隣に居たケンブさまが、シェキお義姉様から離してくれたおかげで息が出来たわ。うん、ポヨンポヨンのお胸は凶器になるなんて新たな発見でしたが、私のお胸は…

「俺はエリア自身が好きだ、胸は関係ない」

考えている事が分かったのかしら? でもケンブさま、それは私のお胸が小さいって言っていますの。

「そうじゃなくてだな。俺が好きになったのはエリアの全てなんだ」

今度は真っ赤な顔のケンブさまに、抱きしめられてしまったわ。

「ケンブ、結婚前に私の前で妹に何をしているのかな」
「いや! サビース殿これは」
「そうよ! そんなに力いっぱい抱きしめたら可愛いエリアちゃんが潰れちゃうじゃない」

こんな軽口を言い合えるとは、シェキお義姉様ともケンブさまは仲良しさんになっていたなんて、ほっこりしちゃいます。

「そう言えば、ケンブさまはアイリーンさんと大人の関係があったのですか?」
「っ! 俺はまっさらな男だぁぁあ!」

ケンブの胸から、ヒョコッと顔を出したエリアの爆弾発言にケンブが叫び。サビースとシェキはケラケラ笑うと言う修羅場を終えて、四人は大公家へ向かう馬車へ乗り込んだ。

「ケンブはまっさらな男だったんだな」
「まさか、そう来るとは思いませんでしたわ」

未だ、ケンブをからかうサビース夫妻とエリアの腰に抱きつくケンブの頭をよしよしと撫でるエリア。

「それより、アイリーンさんは大公家に何故居るのですか?」

「鍛え直しかしら? サイシュ辺境領での事は全て分かった上で、しっかり自分が何をしたか理解させようとね」

シェキは最初、僅かな金を渡して王都へ放り出すつもりであったが、サビースから、もしその事実をエリアが知れば悲しむと言われ、実家である大公家へ相談したのだ。

『元は貴族ですか、ならば貴族として使用人に迎え入れましょう。本当に自分が貴族としての誇りがあるならば更生するでしょう』

自分と違い高位貴族として生きてきた義姉に任せれば、可愛いエリアちゃんも悲しまずに済むと思っていたのだ。




今は兄夫婦が取り仕切る大公家へ着くと、四人は馬車から降りた。

「ここへ来るのも久しぶりですわ」
「エリアおねーちゃま!」
「ジューク!」

玄関で待っていた大公夫妻と長男のジューク。エリア大好きなジュークは馬車から降りた瞬間、エリアの身体へ飛びついた。

「シブヤ義兄上、シーン義姉上。お久しぶりです」
「サビースの話は聞き及んでいるよ」
「お義姉さま、厄介事を頼んで申し訳ありません」
「いいのよ、シェキもエリアも可愛い私の義妹だもの。それより中で話しましょ」


キリリッとしたケンブは、サビースに連れられ男性陣と別室へ。
残されたシェキとエリアは、シーンと共に応接間へ向かう。

「ジュークはお父様の所へ行きなさい」
「僕はエリアおねーちゃまと一緒にいる!」
「ダメよ、可愛いエリアちゃんはもうすぐ結婚するんだから。いつまでもジュークと遊んでいられないの」

シェキの言葉に、ガーン!と固まるジュークを素早く回収するメイド達。流石大公家の使用人だわ。

「ジュークも居なくなった事だし、シェキが気にしているのはアイリーンの事ではなくて?」
「そう、お義姉様ともあろう人がバカ女如きに!」

意気込むシェキとは逆にシーンはゆったりとカップを持ち上げて、ゴクリと一口飲んだ。

「私が来るよう言いましたの。貴族としての心構えを教えて差し上げようとしましたのに」

悪意など全く無さそうな可憐な笑みを浮かべたシーンは、とても子どもを持つ母親には見えない。

「貴族としてですか? あのアイリーンさんが立ち回れるとは思いませんが」

エリアの言葉に、ふわりと笑みを深めたシーンは詳細を教えてくれた。


他家の令嬢も行儀見習いとして受け入れている大公家。もちろんアイリーンが本当に男爵家の令嬢でも、行儀見習いに来ているのは男爵家より上の子爵家の令嬢も居る。

最初は大人しかったが、行儀見習いで来る令嬢は14~16歳の若い世代。対してアイリーンは二十歳、幼い頃から礼儀作法を習ってきた令嬢と違い。何も分からないアイリーンが嘲りの対象となるのは当然とも言える。

もし、ここで歳は関係なく教えを請う態度があれば違ったのだが。


『私はサイシュ辺境伯夫人になる女性なのよ! あんた達とは立場が違うんだから』

捨てられ辺境として有名なサイシュ辺境伯、その辺境伯の妻と名乗る事で嘲りは更に強くなった。

辺境の地なんて田舎で何も無いのに、国から多額の費用を貰う役立たずだと。

黙って見ていたシーンは、行儀見習い達を集め。辺境伯の地位とサイシュ辺境領地の役割を教えた後、アイリーンを呼び勝手にサイシュ辺境伯の名前を出した事を叱責した。

「そうしたら、あの子。何を思ったのか、サイシュ辺境伯の子を身籠ったとか。あと何だったかしら?
そうそう! 大公家に監禁されたらしいわ」

「では、正式な場では無かったのですね」
「そうよ。でなければ、あの子を人前へ出す訳無いじゃない」

ホッとしたシェキとは逆に、エリアはムカムカしていた。

「アイリーンさんは、ケンブさまやサイシュ辺境領を自分の見栄の為に利用したのですか? そして行儀見習いの方々もサイシュ辺境領の事を見下したのですか?」
「そうね、怒って良いと思うわ。サイシュ辺境領で過ごした事をあの子達にも教えてくれないかしら」


シーンはメイドに指示を出すと、同じお仕着せを着た少女達が部屋に入ってきた。

「エリア様。シーン様から教えて頂きました。噂話を信じてしまった事、本当に申し訳ありません」

一番年上だろう少女が頭を下げ、他の少女も同じように頭を下げた。

「今の私は平民ですわ、皆さん頭を上げて下さいませ。
大人が話す事を真実と思ってしまう事は誰しもが経験する事ですわ。

私だってサイシュ辺境伯さまと結婚の話を聞いた時は、父さまが押し付けられたのだと思いましたの。

でも、実際。サイシュ辺境領でケンブさまとお会いして、この目でサイシュ辺境領地を見て感じたのは…」

椅子を用意して、少女達を座らせるとエリアは自分で見てきた事を話しだした。

国の盾としてサイシュ辺境領で生きて行く領民達。その多くが自警団と関わり、時に命を落す事もある。
それを束ねる辺境伯としての責任と、女性や子どもしか田畑を耕す者が居ない事実。当然、国からの支援があれど豊かとは言い難い。

「なので、私。領内をまわり、皆さんからお話を聞いて考えましたの。厳しい環境の中で何が出来るのかを。

その時、年配の女性から見せて頂いた織物が素晴らしくて絶対売れると確信しましたわ!」

話に引き込まれた少女の一人が、エリアに聞いた。

「うちの領内でも、私が出来る事はあるでしょうか… 小さな領地ですが領民達は私の家族みたいに思っていて」
「探しましょう、一緒に考えてみましょう。その思いが伝わるだけで、きっと貴女の領地で住まう方々は嬉しく思いますわ!」
「わ、私にも出来ますか」

エリアの話を聞いた少女達の目は輝いている。



「お義姉様、可愛いエリアちゃんを利用しましたわね」
「あら、シェキも分かっていて連れて来たのよね」
「予想はしていましたけど、それよりバカ女はどうするおつもりですか?」
「ふふふ… それはね」


その日、アイリーンは馬車に乗せられ静かに修道院へ旅立った。
更生の機会も与えられたのに、大公家と辺境伯を貶めた罪人に成り下がったのだ。

「男爵家へ打診したのよ、でも引取りは拒否されたわ。この先は彼女次第で修道院を出る事も出来るわよ」

シーンの言葉に、深く感謝したシェキ。

「お義姉様の慈悲深き温情に感謝致します」

大公家へ対し平民が逆らうなど、死罪になっても何らおかしくない。
あのバカ女アイリーンが、それに気がつくかは本人次第だろう。


少女達に囲まれて、屈託なく笑うエリアを見て二人は心が癒やされる。

「それより、エリアのドレスは決まったのかしら?」
「お義姉様、私が選ぶんですからね!」
「私も一緒に選びたいわ。きっとキャシー様と親友であったお義母様もそう言われるわよ」

エリアの母親であるキャシーは、シェキの母親とは親友であった。
その昔、キャシーは女性で初めての騎士として王宮へ仕えた。キャシーの存在で女性も騎士へなる道が開かれたのは事実。なのに、結婚すると言い騎士団をスッパリ辞めてしまう。
シェキが母親から聞いた話では、一目惚れした男性を守りたいから騎士を辞めたと、笑っていたらしい。

貴族をスッパリ辞めてしまうエリアとそっくりだ。


『「あらあら、エリアキャシーにお話してくれる? きっと今より少しだけ楽になれると思うの」』

少女達と話すエリアの向こう側に、シェキとシーンはキャシーを見た気がした。

「本当にエリアちゃんは、キャシーさまとそっくりね」
「そうですわね」

穏やかな昼下り。エリアと少女達の笑い声にシェキとシーンは微笑んだ。
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