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貴方に攫われるなんてお断り
第六話
しおりを挟む「美菜さんは、どうしてこの話をそう強引に進めたがるんだい? そんなに早く琴に出て行って欲しいのか、それとも……」
その優造の言い方に琴はズキンと胸を痛める、分かってはいたことだが言葉にされると心に刺さる。継母の本音なんて、ずっと前から琴だって気付いてはいたのに。
しかし継母の美菜は優造の言葉に顔を真っ青にさせる、まるでそれが図星だというような反応に琴も優造も信じられない気持ちになった。
「美菜さん、君はまさか……?」
「ち、違うの! 私は何も……っ」
そんな美菜に注目が集まったその時、部屋の扉がもう一度大きく開き息を切らせた准一が中へと入ってきた。彼はさっきの美菜のように怒りで顔を真っ赤にしている。
さすがにそんな准一に琴が申し訳なく思っていると……
「どういうことですか、美菜さん! これでは約束と違う、頼まれた援助の話は無かったことにさせてもらいますよ!」
准一の言葉にその場にいた全員の視線が美菜へと向かう、まるで信じられないというように。
「美菜さん? 援助というのは何の話なんだい、僕はそんなの一言だって……」
「え? でもお父さん、この旅館は今とても経営が厳しいって……」
そう継母から琴は聞かされ、見合いを受ける覚悟を決めたのだ。旅館の経営者である琴の父がその話を知らないのはあまりにもおかしかった。
もしかして加瀬が何か知っているのではないかと彼を見るが、加瀬はしらっとした顔をして音羽夫妻の様子を眺めているだけだ。
「何を言ってるんだ、琴? 旅館の経営は好調だし、今度別館を建てるか考えているくらいで……」
経営者である父が言うのならば本当なのだろう。二人の会話を聞いた継母はガタガタと震え、准一と彼の姉は騙されたことを知って怒りで真っ赤になっている。
「どういうことですか、美菜さん?」
旅館への援助だと信じていた准一とその姉が美菜に詰め寄ると、彼女は「違うの、違うのよ」と繰り返し後ろに下がる。しかしそんな彼女に加瀬がとどめを刺すような言葉を口にした。
「援助なんて言いながら、彼女はその金を自分のものにするつもりだったんだろ? 琴の存在を上手く利用してな」
「……そのために、私を?」
それはあまりにも酷すぎる話で、聞いた琴はショックで頭の中が真っ白になる。まさか本当に継母はそのお金欲しさに琴を准一に嫁がせようとしたのか?
「美菜さん、本当なのか? 君はそんな事のために琴を……?」
「違うわ! 私はそんなつもりじゃなくて、本当にこの旅館のためを思って!」
ショックを受けたのは琴だけではない、夫である優造は真っ青な顔で美菜に問い詰めている。まさか自分の娘がそんなことに利用されようとしていたなんて、彼は思いもよらなかったようだ。
妻である美菜を信じ疑うことをしなかった優造、彼はそれがどれだけ琴を苦しめていたのかも知らなかったのだ。
「旅館の経営に問題はない、美菜さんにもそう言ったはずだ! 君は僕の娘になんてことを……!」
「これはどういうことなの、美菜さん! ちゃんと私たちにも説明して頂戴」
琴が話すことが出来なくても、優造と准一やその姉が美菜を問い詰め逃がしたりはしない。三人に迫られて美菜は諦めるようにその場にへたり込んで俯いた。
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