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攫われて見るパリの街並みは
第三話
しおりを挟む「でも、それなら私でなくても……」
「俺だって異性ならだれでもいい訳じゃない、あんたを妻として選んだ俺の目疑うようなことを言うな」
ハッキリとそう言ってくれれば琴だって嬉しくなる。今は自分に自信が無くても、加瀬といればいつかもっと自分を好きになれるかもしれない。そんな風に思える気がして、だんだん勇気が湧いてくる。
俺の妻、その言葉はやはり特別な気がして、琴は気持ちがふわふわしてくるようだった。
「……そんな嬉しそうな顔されると、照れるんだけど」
「こ、これはスイーツが美味しいからで! 別に俺の妻が嬉しかったわけでは……っ!」
嘘の下手な琴には加瀬を騙すような上手い言い訳も思いつかなくて。顔を真っ赤にしてブンブンと手を振るが、そんな彼女の様子に加瀬は顔をニヤつかせる。
とても意地悪な笑顔なのに、胸がときめいてしまうのはどうしてなのか。琴は戸惑うばかりで……
「俺の妻、って言葉が嬉しかったんだ? ずいぶん可愛い事を言うんだな、俺の奥さんは」
「また、そうやって!」
言い方を変えてくる所が加瀬らしい、そうやって琴の反応を見て楽しんでいる。初心な妻が愛おしくて仕方ないと言うように。
そんな加瀬の遠回しな愛情表現は、ほとんど彼の愛妻には伝わっていないようなのだが。
「さて、そろそろ行くか。のんびりしていたらすぐに時間が無くなるぞ」
「え? あ、はい!」
琴が食べ終わるのを見計らったように加瀬がそう言って席を立つ、琴も慌てて立ち上がり彼の後を追った。そうやって加瀬を追う姿が可愛らしいと周りに思われてるとも知らず。
小柄な琴が背の高い加瀬について歩くにはどうしても早足になる、気付いてるのに加瀬がそれを直そうとしないのも彼女の可愛いその様子を見ていたいから。
……そんな事には気付かず琴は加瀬の隣を歩いている。
「このままいけばエトワール凱旋門だ、せっかくだし登ってみるか?」
「登れるんですか⁉」
目をキラキラと輝かせる琴に吹き出しそうになるのを堪えて、加瀬はそうだと頷いた。二人は凱旋門へと続く地下歩道へ向かい、凱旋門の入場口へ。
料金を払い二人で螺旋階段を上っていく、エレベーターは身体の不自由な人たちが主に使い基本は階段で上がっていくらしい。
途中には休憩所もあり、休んで話す人なども見られた。
「うわ、綺麗ですね……」
展望台から見るパリの街は美しく、すぐ傍にエッフェル塔まで見られた。琴は本当に自分がパリにいるんだと実感していた。
「これがこれから琴が暮らしていく街並みだ。どうだ、やっていけそうか?」
そう言って尋ねられると、本当は琴の中に少し迷いがある。数日前まで自分がこんな所にいるなんて想像もしなかったのだから。
それでも、加瀬が傍にいてくれればなんとかなる気がして彼女は……
「やっていきたいと思ってます、自分に出来る事はやらなきゃ気が済まないので」
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