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契約結婚を前向きに考えて
契約結婚を前向きに考えて7
しおりを挟むこんな前向きな事を誰かに話したのはいつぶりだろう? 発作が頻繁に出るようになって、ずっと出来る事より出来ない事を考えるようになっていた。
父や母もそんな私の事を心配する事はあっても、無理してがんばれという事は一度もなかったから。
最初はこのまま気持ちを押し殺し、三年が過ぎるのを待つことだけなんだと思ってたの。けれどそうやって後ろ向きばかりでいるのはやめようって、もっと自分の本音と匡介さんに向き合うべきなんだって……
「……変わったな、杏凛は。いや、昔の君に戻ったというべきなのか?」
「昔の私……ですか ?」
懐かしそうに目を細めて私を見つめる匡介さん、彼の言う昔の私っていったいどういう事?
確かに私たちは親同士の付き合いもあり、子供のころからそれなりに顔を合わせる機会も多かった。だけどその度に匡介さんからジロリと睨まれてばかりで、居心地の悪さを感じていた記憶がある。
……そう言えば私はまだ匡介さんにその理由をきちんと聞いたことが無かった。
「ああ。昔の杏凛はとても活発な女の子で、俺はいつも君がどこかにいなくならないかとハラハラしながら見ていたからな」
「ええっ!?」
意外な告白に私は驚き、ここが静かなブックカフェだというのに大きな声を出してしまった。匡介さんが私を睨んでいたのは、そんな理由からだったの?
確かに子供の頃の私は今と違いどちらかと言えば行動力のある子だった。父や母からも当時の私には手を焼いたと何回も笑い話にされてしまうほどに。
そんな私があまり記憶にないようなことも、年上の匡介さんは覚えていたりするの……?
「杏凛のことならなんでも覚えている。君が七歳の夏、親戚の集まりで退屈してしまい庭の木に登って落ちたことも、九歳の雪の日に自分を雪だるまにしようとして凍えかけたことも。それに……」
「も、もういいです! もう十分分かりましたから!」
なんでそんなことまでしっかり覚えてるの? しかも私の子供の頃の黒歴史ばかりを選んだように話すなんて、匡介さんは意地悪だわ。
木に登ったのは綺麗な蝶が止まっていたからだし、雪だるまになろうとしたのだってちょっとした好奇心だった。後で両親にめちゃくちゃ怒られてしまったけれど。
そう言えば木から落ちた時や雪で凍えかけた時……私を助けてくれたのは誰だった?
「いつだって君はそんな調子で、いろんな意味で危なっかしかった。だから、俺は……」
「匡介さん?」
ほんの一瞬、何を思い出したのか匡介さんの顔が曇ったような気がした。けれど彼はすぐに顔を上げるといつもの強面な無表情に戻りアイスティーのカップに口をつけた。
そんな彼の態度にモヤモヤしたものを感じる、あの新婚初夜と同じように……匡介さんは何かを私に隠してるんじゃないかって。
……もしあの夜の事も含めて、この人を問い詰めたら私たち夫婦はどうなるのだろうか?
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