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隠さない、その喜び

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鷹尾たかおからダブルデートを頼まれたんだって? つまり横井よこいさんのデートの相手は俺だよ、よくOKしたね」

 今日の仕事をしっかりと終えて、私が帰る時間に合わせて帰る準備を始めた梨ヶ瀬なしがせさんと駅まで歩いてる。
 鷹尾さんとの話が済んで部署に戻ると、そこにはもう梨ヶ瀬さんが帰ってきていて。部署の社員を自身の周りに集めて何か話をしていた。
 ……あれから嫌がらせはピタリと止んで、良かったんだけど。

「断れる状況じゃなかったですからね、鷹尾さんも意外と手強いですし。梨ヶ瀬さんも無理せず断ってはいかがですか?」

「うん、何の冗談? こんなチャンスを俺が潰すわけないでしょ、もしかして横井さんのそれって照れ隠し?」

 忘れていたいのにこうして梨ヶ瀬さんが話題にするから、嫌でも彼との遊園地を想像してしまう。もういっそ、眞杉ますぎさんを攫って逃げてしまおうかなんて考えているくらい。
 鬱陶しい梨ヶ瀬さんの言葉に、どっと疲れてしまう。どこをどう聞けばこれが照れ隠しに聞こえるんですか!

「相変わらずのプラス思考で本当に羨ましい。そういう梨ヶ瀬さんは今回の話がとても嬉しそうでなによりです」

 思い切り嫌味で返してやった、これで少しはスッキリするかと思ったのだけど……

「うん、鷹尾が気を利かせてくれて本当にラッキー。こうして横井さんとデートが出来るんだし嬉しくて当然だよね」

「なっ……!?」

 いきなり何を言い出すのよこの男は、今まで中途半端に気のあるふりしかしなかったくせに。そんな事を言葉にするなんて反則だ!




「や、やめてくださいよ、そういうの! 対応に困ります」

 普段の梨ヶ瀬なしがせさんも苦手なタイプではあるけど、こんな風に普段言わなそうなことを言葉にしてくる彼はもっと苦手だ。
 捻くれてるくせに、こんな時にだけ素直にならないで。仮面被ってるくせに、私に素顔を見せようとしないで。
 そう言いたいのに……

「へえ、横井よこいさんにはこういう攻略法が良さそう。勝手に駆け引きしていた俺は間違ってたんだな」

 そういうのばかり目敏く気付かないで! 駆け引きされても、されなくても私は攻略される気なんてありませんから。
 理由は分からないけれど、今日の梨ヶ瀬さんはとにかく機嫌が良い。私がどれだけ彼を睨んでも、一向に動じない。

「攻略法って……恋愛もゲームみたいな感覚ですか、梨ヶ瀬さんは」

 しっかりと「モテる男は違いますね」という嫌味も付けて言ってみる。もしそうだとしても、この人ならほとんどのを楽々クリアーしてしまうのだろう。

 ……私は、そのうちの一つにはなりたくない。

 過去の恋愛は引きずらないタイプだが、だからといって綺麗な恋愛ばかりしてきたわけでもない。何度も言われたお決まりの別れの言葉に傷つかないわけじゃない。
 わりとミーハーなフリもしてるけど、本当は恋愛に消極的になっている。だから梨ヶ瀬さんのように気持ちが読めない男性と恋愛なんて本当に考えられないの。


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