愛しい君へ

yuki

文字の大きさ
1 / 1

愛しい君へ

「……てめ、なに人んちで勝手にくつろいでんだよ」

季節は真夏。家に帰ると、これでもかと寒いくらいにエアコンをガンガンに掛け、アイス片手に俺お気に入りのソファに足を伸ばしては、まるで自分ちかのようにDVDを観ている沙也さやの姿があった。

「あ、ゆう。おかえりー」
「……さっみ」

なんだよ、これ。テーブルの上に置いてあるエアコンのリモコンを取って見たら、設定温度は16度。即座に、設定温度を一気に温度を上げた。

「……ちょっと。なに観てんの」
「んー?AV。あったからさ」
「………」


平然と答える彼女。いやらしいシーンも沙也は、普通にアイスを食べながらテレビ画面を見つめている始末。部屋には女の喘ぎ声が響く。あったからって、観るか?普通。

「……面白いの?これ」

やっと俺の顔を見てくれたと思ったら、発した言葉がこれ。

「……さあ」

俺は、首を傾げた。

「……試してやろっか?」

彼女に近付き、ソファに跨がって上目遣いする沙也の顎を持ち上げた。

「……要らない」

しかし、返ってきた言葉は、あまりにも冷淡だった。

「これ。捨てといて」
「……は」

目の前に突き出されたのは、食べ終えたアイスの棒。

「ふあー、ねむた……」

それだけ言って、膝に掛けていたらしいタオルケットを頭が隠れる位まで、すっぽり被ってしまった。

「ねぇ、これ。俺のなんだけど」

彼女が被ったタオルケットの裾を引っ張る。これ俺愛用の。結構お気に入りなんだけどな。

「うん」

……うんって。覆われたタオルケットから、少し篭った声が聞こえた。

「いいでしょ、べつに」
「いいけどさ」

…沙也だから別に。だからと言って、人んちで自由すぎんだろ、こいつ。

「……いいんだ」

タオルケットから少し顔を覗かせた彼女は、ふは、と小さく笑った。

「……あ、アイスあるよ。冷凍庫」

思い出したように、買ってきたことを告げる彼女。

「おまえが食べたかっただけだろ」
「うん。まあね」

「つーか、こんなところで寝てたら風邪引くぞ」
「大丈夫。ちゃんと被ってるから。部屋めっちゃ寒くしてさ、毛布とか被るの。私、これめっちゃ好き」
「だから、それ俺のだって」
「そりゃそうだよ、悠の部屋にあるんだから」
「………」

……呆れた。返す言葉も見つかんねぇから。

「……ちょっ」

なぜかひとりでいい気分になっているこいつを、なんだか無償に壊してやりたくなって、不意打ちのキス。なんか分かんねぇけど、無償に腹が立つ。いい加減こっちだって限界なんだよ。

「ゆ、う……っ」

いいところで沙也じゃない誰かの高いアン…ッ、という喘ぎ声が重なる。未だに付いたままの、アダルトビデオかららしかった。

……うぜえ。エアコン同様に、躊躇うことなく画面の電源を落とした。

「沙也。なんでさ、ひとりでこんなん観てたの」
「……置いてあったから」
「だからって観ねぇだろ、普通」

やっぱりどう考えても、沙也の行動が可笑しくて、ふっ、と笑ってしまった。

「……いつも、これ観て抜いてんの?」
「ぶっ。…つか、それ本人に直接聞くもんでもねぇだろ」
「あー、そうなのか?えぇ、うーん……」
「そこ悩むの」

あー、おもしれぇ……。つかやっぱ、こいつ頭おかしいわ。うん、絶対に。

「もういい、私帰る」
「じゃあ、なんで俺んち来たの」
「…悠に逢いたかったから。って私に言わせんの、これ」
「はは」
「あー、もうやだ。恥ずかしい。」
「なんで」
「ていうか悠。いい加減に、ここから退いてよ」
「やだ」
「……なんで!」

愛しい君へ
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた

アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。 高校生くらいから何十回も告白した。 全て「好きなの」 「ごめん、断る」 その繰り返しだった。 だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。 紛らわしいと思う。 彼に好きな人がいるわけではない。 まだそれなら諦めがつく。 彼はカイル=クレシア23歳 イケメンでモテる。 私はアリア=ナターシャ20歳 普通で人には可愛い方だと言われた。 そんなある日 私が20歳になった時だった。 両親が見合い話を持ってきた。 最後の告白をしようと思った。 ダメなら見合いをすると言った。 その見合い相手に溺愛される。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

あなたがそのつもりなら

素亭子
恋愛
リリアーナはランス侯爵からの求婚をうけて結婚したが、わずか一年で夫は愛人を持った。リリアーナの仕返しの話です

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

私だけが愛して1度も笑ったことの無い夫が、死んだはずの息子を連れてもどってきた

まつめ
恋愛
夫はただの一度も私に笑いかけたことは無く、穏やかに夫婦の時間をもったこともない。魔法騎士団の、騎士団長を務める彼は、23年間の結婚生活のほとんどを戦地で過ごしている。22歳の息子の戦死の知らせが届く。けれど夫は元気な息子を連れて私の元に戻って来てくれた。

行かないで、と言ったでしょう?

松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。 病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。 壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。 人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。 スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。 これは、春を信じられなかったふたりが、 長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。

幸せになれると思っていた

里見知美
恋愛
18歳になったら結婚しよう、と約束をしていたのに。 ある事故から目を覚ますと、誰もが私をいないものとして扱った。