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百合の匂いに誘われて
月に誘われて
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今夜は月が綺麗だなぁと、部屋の窓から直接、庭に出てお散歩中。
神兵が必ず護衛に付く神子である俺だけど、庭をそぞろ歩きするぐらい、ひとりでもいーよーねー。
空を見上げれば、真っ暗なキャンバスにキラキラ輝く幾つもの星々。
んー、異世界の星空はすごく綺麗だね? 街の灯りが乏しいからだろうな。
月は真ん丸でデカイ!
鮮やかなレモンイエローの月明かりに煌々と照らされると、自分が浄化されていくようだ。
まあ、そんなことで俗物が聖人になるわけじゃないけど。
上を見てぼんやり歩いていたら、整備された芝からガサガサと茂み深い所まで来てしまった。
ツバキさんにバレたら怒られるから戻ろうかと踵を返したそのとき、同じ月に照らされた美丈夫を見つけてしまった。
あれは……ユリウス殿下。
昼間に会った時よりはラフな格好で、夜空に浮かぶ月を切なげに見つめている。
おいイケメン……、何をやっているのだ……。
見つからないうちに、そおっとそこを離れようとしたら、お約束の音がパキッと鳴った。
「誰だ?」
鋭い誰何に、俺は茂みをガサガサ言わせて姿を現す。
さっきの音は、俺が踏み折った枯れ枝の音。
「……神子様」
「こんばんは。あー、と神子じゃなくてルイな」
「なんでこんなところに……」
呆然としたまま、俺を質問攻めにするのか! イケメン。
「いやぁ、月を見ていたら、つい」
「月ですか?」
「そう。あんた……じゃなくてユリウス殿下も見てたでしょ、月。今夜の月は真ん丸で綺麗だね」
ヤバいヤバい。もう少しで王子殿下を、あんた呼ばわりするところだった。
俺の言葉にユリウス殿下は、上を見て「ああ、確かに」と呟いた。
え? 月を見ていたんじゃないの?
「綺麗ですね……」
俺に顔を向けて、笑顔一発!
ほんとこいつ、顔面偏差値が無駄に高いなーっ。
「神子……。ルイ様。いくら神の庭内といえ、おひとりで歩くのはお止めください。危ないですよ」
「んー、ちょっとした散歩のつもりだったんだけどね。ユリウス殿下こそ、こんなところで何をしてんの?」
「聖痕者として神の庭内に部屋を賜っているので、私も散歩です。今日はいろいろとありましたから……。ルイ様、本当に今日は……」
「ああ、いい。いい。謝ってくれなくても。ユリウス殿下以外の人たちの失敗だからねぇ」
そんなにイケメンに謝られ続けて、変な性癖に目覚めたくないしね。
俺が部屋に戻ろうとすると、近くまで一緒にと言われた。
護衛のつもりだよね? 夜這いじゃないよね?
だって、この世界同性婚もありだし、恋愛指向に異性同姓の違いがないっていうし。
王族ともなれば世継ぎの問題があるから、そういうわけにはいかないんだろうけど。
無言で、ただ隣で歩いて、俺の部屋の灯りが見えた頃、俺は気になっていたことを口に上らせていた。
「弟のことどう思ってる?」
ピタッとユリウス殿下の足が止まる。
俺も足を止めて、ユリウス殿下の顔を仰ぎ見る。
背が高いな、こいつ。ムカつく!
「弟……ですか?」
「ああ。悪いと思ったけど、ちょっとサハラーン国の話を聞いてみた。王位を争う兄弟のわりには、弟は兄べったりな感じだったし」
クスッと笑うユリウス殿下。
「そうですね。あいつはライバルの私のことを、兄として慕ってくれている」
お兄ちゃんの顔で笑うユリウス殿下。でも、ちょっと複雑そう。
「ユリウス殿下は? 嫌いじゃないの? 憎んでないの?」
「さて、そんな風に思う時間はありませんでした。目まぐるしく自分の周りが変わっていく。そんな中、母上と自分を見失わないので精一杯で」
今度は悲しそうな顔。
「そうですね。周りが信用できないと荒んだときに、混じり気の無い好意を示してくれる弟に、救われたこともありました」
今度は自嘲気味に微笑んで。
んー、なかなか複雑な人だな……。
「流されるままじゃ、変わらないよ」
ポツリと言葉が漏れた。
訝し気に見つめるユリウス殿下の視線を避けて、月を見上げる。
「神子に救いを求めても変わらない。変えることができるのは……自分だけだ」
そう、ユリウス殿下が俺に期待しても、俺はそれに応えることはできない。
俺の言葉に呆然とするユリウス殿下をその場に残して、俺は自分の部屋へと走って戻った。
だって、運命を世界を変えるのは、いつだって神様じゃない。
変えたいと行動する無力な一人なのだから。
神兵が必ず護衛に付く神子である俺だけど、庭をそぞろ歩きするぐらい、ひとりでもいーよーねー。
空を見上げれば、真っ暗なキャンバスにキラキラ輝く幾つもの星々。
んー、異世界の星空はすごく綺麗だね? 街の灯りが乏しいからだろうな。
月は真ん丸でデカイ!
鮮やかなレモンイエローの月明かりに煌々と照らされると、自分が浄化されていくようだ。
まあ、そんなことで俗物が聖人になるわけじゃないけど。
上を見てぼんやり歩いていたら、整備された芝からガサガサと茂み深い所まで来てしまった。
ツバキさんにバレたら怒られるから戻ろうかと踵を返したそのとき、同じ月に照らされた美丈夫を見つけてしまった。
あれは……ユリウス殿下。
昼間に会った時よりはラフな格好で、夜空に浮かぶ月を切なげに見つめている。
おいイケメン……、何をやっているのだ……。
見つからないうちに、そおっとそこを離れようとしたら、お約束の音がパキッと鳴った。
「誰だ?」
鋭い誰何に、俺は茂みをガサガサ言わせて姿を現す。
さっきの音は、俺が踏み折った枯れ枝の音。
「……神子様」
「こんばんは。あー、と神子じゃなくてルイな」
「なんでこんなところに……」
呆然としたまま、俺を質問攻めにするのか! イケメン。
「いやぁ、月を見ていたら、つい」
「月ですか?」
「そう。あんた……じゃなくてユリウス殿下も見てたでしょ、月。今夜の月は真ん丸で綺麗だね」
ヤバいヤバい。もう少しで王子殿下を、あんた呼ばわりするところだった。
俺の言葉にユリウス殿下は、上を見て「ああ、確かに」と呟いた。
え? 月を見ていたんじゃないの?
「綺麗ですね……」
俺に顔を向けて、笑顔一発!
ほんとこいつ、顔面偏差値が無駄に高いなーっ。
「神子……。ルイ様。いくら神の庭内といえ、おひとりで歩くのはお止めください。危ないですよ」
「んー、ちょっとした散歩のつもりだったんだけどね。ユリウス殿下こそ、こんなところで何をしてんの?」
「聖痕者として神の庭内に部屋を賜っているので、私も散歩です。今日はいろいろとありましたから……。ルイ様、本当に今日は……」
「ああ、いい。いい。謝ってくれなくても。ユリウス殿下以外の人たちの失敗だからねぇ」
そんなにイケメンに謝られ続けて、変な性癖に目覚めたくないしね。
俺が部屋に戻ろうとすると、近くまで一緒にと言われた。
護衛のつもりだよね? 夜這いじゃないよね?
だって、この世界同性婚もありだし、恋愛指向に異性同姓の違いがないっていうし。
王族ともなれば世継ぎの問題があるから、そういうわけにはいかないんだろうけど。
無言で、ただ隣で歩いて、俺の部屋の灯りが見えた頃、俺は気になっていたことを口に上らせていた。
「弟のことどう思ってる?」
ピタッとユリウス殿下の足が止まる。
俺も足を止めて、ユリウス殿下の顔を仰ぎ見る。
背が高いな、こいつ。ムカつく!
「弟……ですか?」
「ああ。悪いと思ったけど、ちょっとサハラーン国の話を聞いてみた。王位を争う兄弟のわりには、弟は兄べったりな感じだったし」
クスッと笑うユリウス殿下。
「そうですね。あいつはライバルの私のことを、兄として慕ってくれている」
お兄ちゃんの顔で笑うユリウス殿下。でも、ちょっと複雑そう。
「ユリウス殿下は? 嫌いじゃないの? 憎んでないの?」
「さて、そんな風に思う時間はありませんでした。目まぐるしく自分の周りが変わっていく。そんな中、母上と自分を見失わないので精一杯で」
今度は悲しそうな顔。
「そうですね。周りが信用できないと荒んだときに、混じり気の無い好意を示してくれる弟に、救われたこともありました」
今度は自嘲気味に微笑んで。
んー、なかなか複雑な人だな……。
「流されるままじゃ、変わらないよ」
ポツリと言葉が漏れた。
訝し気に見つめるユリウス殿下の視線を避けて、月を見上げる。
「神子に救いを求めても変わらない。変えることができるのは……自分だけだ」
そう、ユリウス殿下が俺に期待しても、俺はそれに応えることはできない。
俺の言葉に呆然とするユリウス殿下をその場に残して、俺は自分の部屋へと走って戻った。
だって、運命を世界を変えるのは、いつだって神様じゃない。
変えたいと行動する無力な一人なのだから。
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