「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」

第164話 サタナハマアカ ②

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 サタナハマアカの提案の真意に気づくことができたのは、アンフィスとステラ、それにアリスだけだった。

 だからアリスは何も言わなかった。
 レンジを含めたここにいる者たちが、自分をどうするか、その返答次第ではこの場にいる全員を見捨てようと思った。

 ブライとセーメーもまた気づいていた。
 彼らもアリス同様、この場にいる者たちの判断を見守ることにした。


 草詰アリスと次元の精霊フォラスを匣の中に入れれば、アカシックレコードにはたどり着けるかもしれない。
 だが、それは、ふたりにその身を犠牲にさせるということだった。


「ぼくが前の世界で、その匣に魔装具を入れようとしたとき、魔装具は永遠に失われるとソラシドは言った。
 そこに魔装具だけじゃなく魔人が入れるのか?
 その場合、アリスやフォラスはどうなるんだ?」

「消えるわ」

 レンジのその問いには、ステラが答えた。

「俺とピノアが、ブライやお前の親父と戦ってたとき、そしてお前たちが飛空艇で助けに来てくれようとしたとき、ステラはお前を眠らせた後、自分を犠牲にしようとした」

 アンフィスは、ステラの言葉を補足するように説明をはじめた。

「俺は事前にソラシドや飛空艇の持つ機能を把握していた。
 だから、いつかステラかピノアが自分を犠牲にするようなことがあるんじゃないかと考えた。
 主が不在だったあいつの主になることで、ステラやピノアが自分を犠牲にすることを絶対に許すなって命じてたんだ」

 自分が眠らされていた間にそんなことがあったのか、とレンジは思った。

 アンフィスが事前にそうしてくれていなければ、ステラはそのとき死んでいただろう。
 それどころか、ステラを失った自分たちは、前の世界でブライに敗北していたに違いなかった。

 ブライは大厄災を起こし神となり、彼が作る新世界にはレンジたちが現れることも、あらゆる時代あらゆる世界から『我々』を壊滅させるためにこの場に集うこともなかった。


「じゃあ、それは許可できないよ」

 レンジは言った。

 しかし、サタナハマアカは、

「ツクヨミ、アリス様とフォラス様を匣に入れた場合、アカシックレコードにたどり着ける可能性は?」

「成功確率は100%です。
 皆様の持つ力と、匣の持つ力についてはすでに把握しております。
 現状、おふたりに犠牲になって頂くしか、アカシックレコードにたどり着く方法はありません」

「だそうですが、ご許可は頂けませんか? レンジ様。
 もっとも私がエゥデュリケから持ち込んだものをどのように使うのかは、すべて私に権限があり、レンジ様にご許可を頂く必要はないのですが」

 と、他に方法がないことを提示してみせた。

「サタナハマアカ、君は何を考えている?」

「父・ソラシドは、私を生み出す際、ステラ女王様とピノアお姉さまの幸せを何よりも優先するよう作りました。
 私は、おふたりの幸せとは、すべてが終わった後もレンジ様と共にこの世界に生きることであると認識しています。
 レンジ様が『我々』を壊滅させたあと、何をなさろうとしているのかも理解しています。
 それを精霊たちが許可したであろうことも」

 だから、彼にとって精霊たちは排除すべき存在、そういう認識なのだという。


「レンジ……?
 あなた、一体何をしようとしているの?
 精霊たちは何をあなたに許可したの?」

 ステラは震える声で言った。
 レンジは一度、彼女やピノアの目の前で自害をした。
 そのときの光景を思い出し、血の気が引いた。

「座標がわかっているんだ。
 犠牲になるのはぼくだけでいいだろう?」

 フォラスは、はぐらかすようにそう言った。

「フォラス様だけでは成功確率は2%にまで低下します」

 ツクヨミはすぐに算出結果を伝えた。

「なぜそこまで低下する?」

「フォラス様もわかっておられるはずです。
 アリス様は、元々は『我々』が産み出した存在。
 しかし、レンジ様のために『我々』の意に反し、リバーステラを二度も作り替える手伝いをなされた。
 そのために、『我々』はテラを産み出し、偽物のレンジ様までをも用意して、アリス様を閉じ込めた。
 テラはアリス様を閉じ込めるための牢獄に過ぎなかった。
『我々』にとって、アリス様はそれほどまでに危険な存在であり、そして同時に『我々』が根城とするアカシックレコードにたどり着ける唯一の存在です。
 ジパングのふたりの女王は、アカシックレコードにアクセスすることはできても、その場所の存在は知らない。
 それに、フォラス様や精霊の皆様にとっても、アリス様の存在はレンジ様同様に許すことができない。
 あなた方は、レンジ様がなさろうとしていることを許可した。
 だが、それをレンジ様にさせるつもりはない。
 その前に排除する気なのでしょう?
 ちょうど良いではないですか。
 アリス様を排除でき、アカシックレコードにたどり着ける。
 アリス様は、ステラ様やピノア様の幸せを脅かしかねない。私にとっても排除すべき存在です。
 精霊の方々からフォラス様おひとりが犠牲になることで、アリス様を排除でき、アカシックレコードにたどり着くことができる。『我々』を壊滅させられる。
 あとは」


「もうやめろ」

 アンフィスは言った。

「お前がステラやピノアの幸せを願うなら、ふたりを泣かせるな」

 サタナハマアカは、その言葉を聞くまで、ステラとピノアが泣いていることに気づかなかった。
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