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島津義弘
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「ほれ!治部殿。」
顔を優しく叩かれ、津久見は目を覚ました。
「しっかりせんかい。」
と、丸坊主のおじちゃんに起こされる。
治部とは石田三成の官位の名前であり、他の者からは大体こう呼ばれていた。
「すみません。気を失ってしまったようで…。」
と言い、津久見は今一度その男をジロジロと見つめた。
ごつい丸坊主に、立派な口髭。首には大きな数珠を巻いている。
「島津…義弘さん?」
「さん?どうした治部殿。」
「いや、島津義弘殿ですよね。」
「いかにも。」
さすが薩摩守。左近に負けじ劣らずの気迫であった。
だがその凄味は左近でもう慣れつつあった。
(ここは相手の気迫にのまれないことか…)
と、津久見は考えた。
義弘は、自分の椅子に座りなおし、
「して、何故この合戦中に我が陣に?」
と、言ってきた。
(ん?確かに。何でだ?)
津久見は手を顎に当て、上を向いて考えた。
(歴史では、島津軍は徹頭徹尾、戦に参加せず、西軍の敗戦と共に1500の兵で家康の目の前を通過。敵中突破を果たしてそのまま船で薩摩に戻ったんだっけ?その時残った兵は十数人程だったとか…。)
「治部殿?」
「あっ、はい!」
「して、いかがいたした?」
睨むように津久見を見ながら言う。
既に津久見が来た理由を知っているような様子であった。
(どうせ兵を出せと言ってくるのだろう)
と、義弘は考えていた。
(島津は動かん。いざとなれば敵中突破で薩摩に戻る)
とも決めていた。
しかし、津久見は意外な一言を発する。
「桜島って勇壮ですよね」
と、笑顔で言った。
突拍子もない一言に義弘は気が抜けたように
「ん?治部殿。なんと?」
「え。いや。桜島って勇壮だなあって。」
「治部殿は薩摩に来られたことがおありか?」
「ええ。まあ。一度旅行で。」
「りょこう?」
「いや。あの見聞を広めに。」
「左様であったか。」
津久見は幼少期に一度、両親に連れられて鹿児島へ旅行に行った事があった。
鹿児島の天文館通りで「白くま」という、かき氷を食べた思い出と、桜島が荘厳で勇壮に見えたのを幼心に覚えていたのであった。
「ここにいる家臣の皆さまも桜島好きなんですかね?」
屈託のない笑顔で津久見は言う。
「そりゃそうじゃ。薩摩の者で桜島が嫌いなものはおらん。」
義弘は不思議そうに、でも、どこか故郷を褒められた喜びが表情に出ていた。
「それでしたら。戦が終わったら、一緒に見ませんか?桜島。」
「ん?治部?」
「ここにいる皆さまも桜島を見たいと思っていると思いますよ。」
「そりゃそうじゃ。だから我らは…」
義弘が答えるより先に津久見は言った。
「動かない。」
義弘は驚きながら声を出した。
「ぬぬ。」
「そうですよね。」
…。
(見抜かれておるのか。それに今日の治部はどこか変じゃ。いつものような高飛車な態度でもないし…)
「でもこのままじゃ皆で桜島見れませんよきっと。」
「何故じゃ。」
「わたしが負けるからです。」
「なんと?まだ始まったばかりじゃぞ。」
「分かってるはずです。義弘さんなら。」
「ん~。」
「一人も殺さないで良いです。動かなくてもいいです。ただ…。」
「ただ?」
「ただ、さっき私がここに来た時の様に大きな声でずっと叫んで下さい。」
「なんと。馬鹿にしておるのか?」
「いえ。私あまり戦が好きじゃないようでして。できたら…。」
「できたら?」
「皆が生きて故郷に戻れれば良いかなって。それだけです。では。」
と言い放つと、津久見はすたすたと島津の陣の幕を上げて出て行った。
陣を出た瞬間に、緊張から解き放たれたからか足ががくがくしてきた。
「あ~また小便したくなってきた。」
と、近くの木に駆け寄る。慣れたものである。
「ふ~。島津のおっちゃんどう出るかな…。」
と、考えていると隣から
バチバチバチバチバチバチ!
と、音が聞こえた。
「まさか、左近?」
と、隣を見る。
そこには、義弘が大声で笑いながら、隣で左近にも負けない程勢いよく小便をしていた。
「おっちゃん…。」
と、津久見は言うと、そのまま後ろに倒れた。
第7話 完
顔を優しく叩かれ、津久見は目を覚ました。
「しっかりせんかい。」
と、丸坊主のおじちゃんに起こされる。
治部とは石田三成の官位の名前であり、他の者からは大体こう呼ばれていた。
「すみません。気を失ってしまったようで…。」
と言い、津久見は今一度その男をジロジロと見つめた。
ごつい丸坊主に、立派な口髭。首には大きな数珠を巻いている。
「島津…義弘さん?」
「さん?どうした治部殿。」
「いや、島津義弘殿ですよね。」
「いかにも。」
さすが薩摩守。左近に負けじ劣らずの気迫であった。
だがその凄味は左近でもう慣れつつあった。
(ここは相手の気迫にのまれないことか…)
と、津久見は考えた。
義弘は、自分の椅子に座りなおし、
「して、何故この合戦中に我が陣に?」
と、言ってきた。
(ん?確かに。何でだ?)
津久見は手を顎に当て、上を向いて考えた。
(歴史では、島津軍は徹頭徹尾、戦に参加せず、西軍の敗戦と共に1500の兵で家康の目の前を通過。敵中突破を果たしてそのまま船で薩摩に戻ったんだっけ?その時残った兵は十数人程だったとか…。)
「治部殿?」
「あっ、はい!」
「して、いかがいたした?」
睨むように津久見を見ながら言う。
既に津久見が来た理由を知っているような様子であった。
(どうせ兵を出せと言ってくるのだろう)
と、義弘は考えていた。
(島津は動かん。いざとなれば敵中突破で薩摩に戻る)
とも決めていた。
しかし、津久見は意外な一言を発する。
「桜島って勇壮ですよね」
と、笑顔で言った。
突拍子もない一言に義弘は気が抜けたように
「ん?治部殿。なんと?」
「え。いや。桜島って勇壮だなあって。」
「治部殿は薩摩に来られたことがおありか?」
「ええ。まあ。一度旅行で。」
「りょこう?」
「いや。あの見聞を広めに。」
「左様であったか。」
津久見は幼少期に一度、両親に連れられて鹿児島へ旅行に行った事があった。
鹿児島の天文館通りで「白くま」という、かき氷を食べた思い出と、桜島が荘厳で勇壮に見えたのを幼心に覚えていたのであった。
「ここにいる家臣の皆さまも桜島好きなんですかね?」
屈託のない笑顔で津久見は言う。
「そりゃそうじゃ。薩摩の者で桜島が嫌いなものはおらん。」
義弘は不思議そうに、でも、どこか故郷を褒められた喜びが表情に出ていた。
「それでしたら。戦が終わったら、一緒に見ませんか?桜島。」
「ん?治部?」
「ここにいる皆さまも桜島を見たいと思っていると思いますよ。」
「そりゃそうじゃ。だから我らは…」
義弘が答えるより先に津久見は言った。
「動かない。」
義弘は驚きながら声を出した。
「ぬぬ。」
「そうですよね。」
…。
(見抜かれておるのか。それに今日の治部はどこか変じゃ。いつものような高飛車な態度でもないし…)
「でもこのままじゃ皆で桜島見れませんよきっと。」
「何故じゃ。」
「わたしが負けるからです。」
「なんと?まだ始まったばかりじゃぞ。」
「分かってるはずです。義弘さんなら。」
「ん~。」
「一人も殺さないで良いです。動かなくてもいいです。ただ…。」
「ただ?」
「ただ、さっき私がここに来た時の様に大きな声でずっと叫んで下さい。」
「なんと。馬鹿にしておるのか?」
「いえ。私あまり戦が好きじゃないようでして。できたら…。」
「できたら?」
「皆が生きて故郷に戻れれば良いかなって。それだけです。では。」
と言い放つと、津久見はすたすたと島津の陣の幕を上げて出て行った。
陣を出た瞬間に、緊張から解き放たれたからか足ががくがくしてきた。
「あ~また小便したくなってきた。」
と、近くの木に駆け寄る。慣れたものである。
「ふ~。島津のおっちゃんどう出るかな…。」
と、考えていると隣から
バチバチバチバチバチバチ!
と、音が聞こえた。
「まさか、左近?」
と、隣を見る。
そこには、義弘が大声で笑いながら、隣で左近にも負けない程勢いよく小便をしていた。
「おっちゃん…。」
と、津久見は言うと、そのまま後ろに倒れた。
第7話 完
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