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第31話
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「大谷さん!!」
「治部よ。すまぬな、ごほっ。」
吉継は咳をし、支えられながら円の中に加わった。
「変わった座り方をしておるな…。」
吉継は、辺りを見回しながら言った。
「はい。この方が何か皆が顔を見ながら話せそうで…。」
「刑部殿。この大事に遅れてまいるとはいかがなものかな?」
大阪城の使者は遅れてきた吉継に冷たく言い放つ。
「何と!!大谷さんは…。」
「すまぬな。この生かされた命ではあるものの、病は冷酷にもわしの体を蝕んでおるようで、ちと遅れてしもた。」
「ふん。まあ良い。して治部殿。どう申し開きするおつもりか。」
津久見の方へ視線をやりながら、使者の者は言う。
「う…。」
答えに詰まった津久見を見て、吉継が口を開いた。
「使者の者よ。」
一同の視線がまた、吉継に集まる。
「そもそも、この戦、豊臣家自体の軍は、ほんの数百。しかも戦には一切参加しておりませぬな。」
「ん?」
「まだお若い秀頼公を西軍の大将にしたところで、勝ち目はない。故に、この戦、豊臣家の中の『内輪揉め』という形で、中立の立場を貫こうとしておったのではござらんか?」
「ぬぬ…。」
「それが勝機が見えてた聞くや、何故家康を討たなかったのか?とは、都合の良い話ではござらぬか?」
「う…。」
「それに、大阪城で傍観されていた、お主たちには知らぬと思うが、西軍が優勢だったとは、治部の働きがあったこそじゃ。」
「何…?」
「その様子では何も知らぬようじゃな。では、何故ここに朽木や脇坂達がおらぬ。それに小川や赤座の姿も無いのう。」
「…。」
「知らぬか?やつらは、家康と通じ、寝返ったのじゃ。家康の調略はそれだけではない。ここにいる者の中にも家康からの寝返りの打診を受けた者が何人か混ざっていよう。」
「何と!?」
使者は、円になっている武将達の顔を見回した。
数人の将は、気まずく下を向いていた。
「その者達が、裏切っていれば、西軍は完全に負けていた。裏切る者・動かぬもの。これがこの戦の全てじゃ。必死に戦った者の方が少ない。これが事実じゃ。」
「…し、しかしその裏切りは朽木達のみに至り、形勢は有利であったのであろう。」
「それは治部の働きのお蔭じゃ。寸での所で、治部の動きによって、西軍の大敗は回避できたのじゃ。」
「むむ…。」
「もし、それが無ければ、西軍は敗退。後に、家康は大阪城に攻め込んで来て、豊臣家の殲滅をはかってきたであろう…ごほん。」
そう言うと、吉継は咳をした。その咳は止まらなかった。
そこに、一人の男が口を開いた。
「確かに私は、内府殿(徳川家康)に付く気でござった。」
広間がざわめく。
小早川秀秋であった。
「小早川さん!」
「治部殿が、来られるまでは。」
精悍な顔つきが一段と、漢の顔になっている。
「治部殿に、言われた『戦の無い世』を作りたい。との言葉で私は心を揺さぶられ、裏切らずにおれました。刑部殿の言う様に、内府殿からの密約もございましたが、あの時の島津隊の咆哮で、気が変わりました。」
と、島津義弘の方を見る。
「そうか、そうか坊ちゃん。ははは。」
と、義弘は笑った。次は義弘が続いた。
「わしも、合戦中は何もせんで、機があれば薩摩に引き返そうと思っておったが、治部殿の言葉に何故か感銘するものがあっての、叫ぶたけならと、力一杯叫んでやったわ。」
「…。」
使者は言葉が出ない。
「治部殿は、まるで人が変わった様じゃな。このわしを動かさせるとはな。ははは」
義弘は豪快に笑った。
「ごほっ。使者の方よ。お分かり頂けたか。それに、この場の諸将の中でも気まずい者がおるでな。」
と、吉継が言った。
「かの戦、南宮山に陣取った、安国寺殿らの軍は、動かなかった。いや、動けなかった。なんせ、山の麓で頑と動かぬ岩が邪魔をしておったからな。」
と、吉川広家の方を見て吉継は言う。
広家の顔は青ざめ、下を向いている。
「もし、小早川隊が裏切り、南宮山の軍も出せなかったら、我々はどうなっておったか、そちでも分かろう。」
「…。」
「全ては、治部の働きのお蔭じゃ。戦に負けておったとなれば、その後の家康がどう出るかも、安易に想像がつくであろう。」
「……。」
「だから、都合の良いと、わしは言ったのじゃ。分かったら、急ぎその身を大阪城へ走らせ、淀君に伝えてまいれ。」
「…。」
沈黙が流れる。
使者は、むくっと立ち上がると、外に出て行ってしまった。
「ふ~。」
津久見は大きくため息をつく。
「大谷さん!ありがとうございます!!」
「何、本当の事を言ったまでよ。」
満面の笑みで吉継は答え、
「して、この後はどうする治部よ。天下の政まつりごとでもするかの。」
と、言った。
「楽しそうじゃな治部殿。」
島津義弘が続く。
津久見は、極度の緊張と天下の政と言う壮大な重圧に耐えきれず、
白目を剥いて、後ろに倒れていた。
第31話 完
「治部よ。すまぬな、ごほっ。」
吉継は咳をし、支えられながら円の中に加わった。
「変わった座り方をしておるな…。」
吉継は、辺りを見回しながら言った。
「はい。この方が何か皆が顔を見ながら話せそうで…。」
「刑部殿。この大事に遅れてまいるとはいかがなものかな?」
大阪城の使者は遅れてきた吉継に冷たく言い放つ。
「何と!!大谷さんは…。」
「すまぬな。この生かされた命ではあるものの、病は冷酷にもわしの体を蝕んでおるようで、ちと遅れてしもた。」
「ふん。まあ良い。して治部殿。どう申し開きするおつもりか。」
津久見の方へ視線をやりながら、使者の者は言う。
「う…。」
答えに詰まった津久見を見て、吉継が口を開いた。
「使者の者よ。」
一同の視線がまた、吉継に集まる。
「そもそも、この戦、豊臣家自体の軍は、ほんの数百。しかも戦には一切参加しておりませぬな。」
「ん?」
「まだお若い秀頼公を西軍の大将にしたところで、勝ち目はない。故に、この戦、豊臣家の中の『内輪揉め』という形で、中立の立場を貫こうとしておったのではござらんか?」
「ぬぬ…。」
「それが勝機が見えてた聞くや、何故家康を討たなかったのか?とは、都合の良い話ではござらぬか?」
「う…。」
「それに、大阪城で傍観されていた、お主たちには知らぬと思うが、西軍が優勢だったとは、治部の働きがあったこそじゃ。」
「何…?」
「その様子では何も知らぬようじゃな。では、何故ここに朽木や脇坂達がおらぬ。それに小川や赤座の姿も無いのう。」
「…。」
「知らぬか?やつらは、家康と通じ、寝返ったのじゃ。家康の調略はそれだけではない。ここにいる者の中にも家康からの寝返りの打診を受けた者が何人か混ざっていよう。」
「何と!?」
使者は、円になっている武将達の顔を見回した。
数人の将は、気まずく下を向いていた。
「その者達が、裏切っていれば、西軍は完全に負けていた。裏切る者・動かぬもの。これがこの戦の全てじゃ。必死に戦った者の方が少ない。これが事実じゃ。」
「…し、しかしその裏切りは朽木達のみに至り、形勢は有利であったのであろう。」
「それは治部の働きのお蔭じゃ。寸での所で、治部の動きによって、西軍の大敗は回避できたのじゃ。」
「むむ…。」
「もし、それが無ければ、西軍は敗退。後に、家康は大阪城に攻め込んで来て、豊臣家の殲滅をはかってきたであろう…ごほん。」
そう言うと、吉継は咳をした。その咳は止まらなかった。
そこに、一人の男が口を開いた。
「確かに私は、内府殿(徳川家康)に付く気でござった。」
広間がざわめく。
小早川秀秋であった。
「小早川さん!」
「治部殿が、来られるまでは。」
精悍な顔つきが一段と、漢の顔になっている。
「治部殿に、言われた『戦の無い世』を作りたい。との言葉で私は心を揺さぶられ、裏切らずにおれました。刑部殿の言う様に、内府殿からの密約もございましたが、あの時の島津隊の咆哮で、気が変わりました。」
と、島津義弘の方を見る。
「そうか、そうか坊ちゃん。ははは。」
と、義弘は笑った。次は義弘が続いた。
「わしも、合戦中は何もせんで、機があれば薩摩に引き返そうと思っておったが、治部殿の言葉に何故か感銘するものがあっての、叫ぶたけならと、力一杯叫んでやったわ。」
「…。」
使者は言葉が出ない。
「治部殿は、まるで人が変わった様じゃな。このわしを動かさせるとはな。ははは」
義弘は豪快に笑った。
「ごほっ。使者の方よ。お分かり頂けたか。それに、この場の諸将の中でも気まずい者がおるでな。」
と、吉継が言った。
「かの戦、南宮山に陣取った、安国寺殿らの軍は、動かなかった。いや、動けなかった。なんせ、山の麓で頑と動かぬ岩が邪魔をしておったからな。」
と、吉川広家の方を見て吉継は言う。
広家の顔は青ざめ、下を向いている。
「もし、小早川隊が裏切り、南宮山の軍も出せなかったら、我々はどうなっておったか、そちでも分かろう。」
「…。」
「全ては、治部の働きのお蔭じゃ。戦に負けておったとなれば、その後の家康がどう出るかも、安易に想像がつくであろう。」
「……。」
「だから、都合の良いと、わしは言ったのじゃ。分かったら、急ぎその身を大阪城へ走らせ、淀君に伝えてまいれ。」
「…。」
沈黙が流れる。
使者は、むくっと立ち上がると、外に出て行ってしまった。
「ふ~。」
津久見は大きくため息をつく。
「大谷さん!ありがとうございます!!」
「何、本当の事を言ったまでよ。」
満面の笑みで吉継は答え、
「して、この後はどうする治部よ。天下の政まつりごとでもするかの。」
と、言った。
「楽しそうじゃな治部殿。」
島津義弘が続く。
津久見は、極度の緊張と天下の政と言う壮大な重圧に耐えきれず、
白目を剥いて、後ろに倒れていた。
第31話 完
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