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第99話

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津久見は電車に乗って、三宮に向かった。

三宮の街も自分の知っている三宮ではない。

秀頼の銅像が置かれてたり、シップの銅像が置かれてたり…。

津久見は理解した。

(自分が過ごしたあの日々は、そのまま続いている事を。)

何がどうなってこうなっているのかは分からない。

でもその答えが天竜川に行けば何か分かる気がした。

そう思い、地下鉄を乗り継ぎ新神戸駅に着いた。

新幹線のチケットを買う。

博多発の新幹線【くろだ】は浜松止まりだ。
というより、浜松から先は新幹線の路線がない。つまり、終点だ。

津久見は【くろだ】のチケットを買って新幹線に飛び乗った。

1時間半後浜松に着いた。

ここからは在来線に乗って天竜川の近くの駅に向かうことにした。

その時だったスマホから緊急アラームが鳴った。

「地震か???」

と思い、スマホを見る、そこには驚きのメッセージが書いてあった。

「東日本国より飛翔体を確認、万が一の為に避難して下さい」と。

(どういう事だ!東日本国から飛翔体?)

電車は次の駅で緊急停止するという。

 津久見は電車を降りて、タクシーを拾った。

「お客さんさんどちらまで?」

とら聞かれら天竜川のほとりまでと伝えた。

タクシーは走り出す。

「運転手さん…。あの…。」

「何ですか?」

「さっきの緊急アラームで、飛翔体って?」

「あぁあれね。」

と、タクシーの運転手は運転しながら言う。

「実際ミサイル見たいのが飛んできたのは一度だけで、それもどこに打ったのか分からない位の小さなミサイルで、被害は無くて…」

「???」

「それ以来何回も打って来るんですが、全部天竜川に落ちたりするんですけど、もうそれが…ふふふ。」

運転手は笑いを堪えている。

「どうしたんですか?」

「いや、その打って来る物が滑稽で…。」

少し笑いながら

「花火みたいなものを打ち込んで来るんですよ。」

運転手は笑った、

(…。)

「あー人が多くなって来ましたね、お客さんこっからは歩いて行って頂けますか?」

「え?」

と津久見は外を見た。

そこには人・人・人…。

大群衆がそこにいた。

(謁見祭り前夜祭…か。)

津久見は左近の描かれたお札で払い、喜内の肖像画が描かれたお釣りのお札を受け取り、タクシーを降りた。

凄い人の数である。

屋台も沢山出ており、凄く賑わっている。

「はい、安いよ安いよ~薩摩の新鮮なお芋の焼き芋だよ~創業400年のお味をご堪能下さい~。」

「お守りはいかがねー、スマホのストラップ型だよ~。豊家の郡、幸村、吉治、重成…沢山あるよー」

(ふっ。面白いな…)

群衆を掻き分けながら、津久見は進む。

「ねーあのお殿様また来るのかなぁ~。」

若い女性の声がした。

(!!!!!)

「ちょっと良いですか!!!」

「え?」

津久見はその女性に話しかけた。

「今言ったお殿様の事です!」

「あ~徳川国王の事ですか?」

「国王???」

「え、知らないんですか?」

「ひ、東日本国は徳川家が…国王に?」

「何も知らないんですね?100何年か前に国王制に変わってそこに代々将軍職を担ってた、徳川家が国王になられたんですよ?」

「??????」

「時には紙をバラまいて」

「紙?」

「『会いたい』って、書いてある紙が、バラまかれるんですよ。もう良いですか?第8代真田テンソルジャーズの舞台始まっちゃうんで。」

と言うと女性は、群衆の中に消えて行った。

「…。」

◇◆◇◆
謁見祭り当日

群衆の目は天竜川にかかる橋に置かれている小屋に集中している。

「来るかな。」

と、天竜川左岸を埋め尽くした群衆が口々に言う。

ある男は望遠鏡を持って今か今かと楽しみにしている。

その男の近くに津久見はいた。

「ぶおーん!!!」

法螺貝の音がした。

「来るぞ来るぞ!!!!!」

「ははっはは。何しに毎年来とんねん。はははは。」

酒に酔った男はそう叫んで大声で笑った。

皆一同笑う。あざけ笑うかのように。

「来た!!!!!!」

望遠鏡の男が言う。

「こけるか!!こけるか!!」

(!!!!!!!)

「あっこけよった!!!!!」

望遠鏡の男が言うと、群衆はまた一段と笑った。

もうそこに津久見の姿は無かった。

群衆を強引に掻き分け橋に近づいて行く。

「どいてください!!!」

「なんや!?」

群衆の目が津久見に集まる。

「通してください!!!」

尚も前に進もうとする。

そこに、さっきの酒に酔った男が現れた。

「兄ちゃん。あかんで、皆並んで見てるねんから~」

津久見は耳をかさず前へ進もうとする。

「ちょ、兄ちゃん、行儀がなってへんぞ!!!」

と、酔っ払いは津久見の肩を乱暴に引っ張ると、右頬を殴りつけた。

津久見は後ろへ尻もちをつく。

口を切ったか、血が流れている。

だが、津久見は血を拭うことなく叫んだ。

「行かなきゃいけないんです!!!会わなきゃいけないんです!!!」

酔っ払いは呆気に取られながら笑った。周りも笑う。

「兄ちゃんが東日本国の国王に会わなきゃ?ははははは。」

津久見は立ち上がると、また突き進んでいく。

一連の騒ぎを見ていた群衆は心なしか道をあけた。

変な人間。

そう思ったのかもしれない。

やっとの思いで津久見は橋にたどり着いた。

だが、そこには2人の警備員が警棒を持って警備に当たっている。

津久見は

「あの~通して頂けますか?」

「ん?」

「あの~逢いたいんです。」

「何言ってんだこいつ。」

と、隣の警備員話しかける。

「あ~酔っ払いか?はい、帰った帰った!!」

と手を振る。

「いや、でも、逢わなきゃ…。」

津久見は警備員の目を見て言う。

「兄ちゃん、逢いたい言うても、もう謁見の時間は終わるぞ?」

「え??」

「誰も会いに来ないのに、待ったってしょうがないだろ。」

そこにまた

「ぶおーん!!!」

と、法螺貝の音が響く。

「ほら、お終いだ。」

「そんな!!!!」

群衆のどこからか、何のためか分からない拍手が起こった、それが広がり皆拍手をする。

それは称賛の拍手ではない。

どこか馬鹿にした様な拍手にも感じる。

(………。)

津久見はそれを感じ取り、強く拳を握った。

そして、

「うお!!!!!!!!!!!!!」

と言いながら、強引に突破しようとした。

不意を突かれた警備員の間をすり抜け、橋を全力で走る。

「待ってくれ!!!!」

と、津久見は叫ぶ。

すると足が絡んで転んでしまった。

すかさず警備員が取り押さえる。

「こいつ!!!!!!なんてことを!!!!」

小屋ではあと20m程か。

津久見はうつ伏せにされ後ろ手に手を固められる。

「う…。」

「自分何してんか、分かってんのか!!」

警備員は津久見を抑えながら叫んだ。

その騒ぎを知った東日本国の兵が小屋の小窓からその様子を見に来た。

そこには取り押さえられながら何か叫んでいる。完全防音のこの部屋からは何を言っているのかは分からない。

(いあおい?)

口元の動きでそう見えた。

こういう狼藉者は数年に一度現れる。なので、気にもしていなかったが様子がおかしいので、一応国王に伝えた。

「いあおい?」

国王は口元を目を細め見ながら考えた。

そして言った。

「その者を小屋へ。」

「え!!!???」

「命令じゃ。」

「は、はっ。」

と、兵は答えると、小屋の横に走り、津久見を取り押さえている警備員に向かって、

「国王がお逢いになられる。持ち物を全て置いて、こちらへ参れ。」

「えええ??」

警備員は驚き手を緩める。

津久見はスッと立ち上がりリュックの中から扇子だけを取り出し、小屋に向かった。

群衆は見た事の無い光景を口を開けてみている。

さっきの兄ちゃんが謁見の場に…。と。

津久見は東日本国の兵に身体検査をされ、扇子の持ち込みだけ許しを得た。

津久見は西日本国側のドアから部屋に入った。

国王の姿は無い。

部屋の中は誰もいない。とても綺麗な応接間の様な場所であった

津久見は机に座り、前方にある、東日本国側のドアが開くのを唾を飲みながら待った。

ガチャっと扉が開いて一人の男が入って来た。

津久見は立ち上がる。

太陽の逆光でその顔は見えない。

が、その男の体は小刻みに揺れている。

「ごくり。」

津久見はまた唾を飲んだ。

すると男は猛然と走りだし、津久見に抱き着いた。

そして言った。

「逢いたかった~!!!!!!!!」

「…。」

見知らぬおじさんがいきなり抱擁してきたのだ。未だに津久見は確信が持てない。

そして国王は言った。

「津久見~!!!!!!」

と。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

津久見は抱きしめる男の両肩を掴み目を見た。

「島森か!!!!????」

「そうや!!!!!!」

「島森~!!!!!!!!」

二人は抱き着く。

なんと、現代の東日本国の国王は島森だったのである。

島森であって島森でない、自分の知らない姿の島森と抱擁を続けた。

二人とも目からは涙が溢れ、流れ落ちる鼻水なんかどうでもよかった。

「やっぱり…来てくれたんやな…。」

島森は嬉しそうに言った。

「ああ。もしかしてお前…。」

津久見は冷静になって言った。

「ああ。俺も徳川家康として大往生して、死んだ。これで終わりって思ったら、いきなり誰かのお腹から生まれた赤子になっててん。意識はあんねんで。で、なんやかんや育てられて、家綱って名前つけられてな…。」

「!!!」

「次は家継、家治、家慶ってずっと徳川家の将軍として生まれ変わんねん。」

「輪廻転生か…。」

「ああ。もう分けわからん。今は徳川康吉やすよしって言うねん。」

「康吉?何代目だ?」

「20代目や。」

「よくそこまで徳川家を安泰させたな…。俺もこの扇子が実家から届いて何か変な気がしたんだよ。」

と、津久見は扇子を見ながら言った。

「そんなんあったんやな。ああ。大変やったで。激動やった。ほんでもう疲れた…。」

いつも明るい島森の顔がどっと曇った。

「そうか、俺は石田三成として生涯を全うして、この世界に戻って来た。」

「ええなあ。」

「そしたら俺の知ってる世界じゃなかった。」

「そりゃそやわな。俺らで日本を二つに割っちまったんだからな。」

「その世界が今も続いてるんだな…。」

「ああ。困ったもんや。いくら死んでも徳川家の嫡男に生まれ変わるねんで、もう止めて欲しいわ。」

「…。」

津久見は黙り込んだ。

「ん?どうしたん?」

「いや、どうしたらお前を救えるのかを考えてた。」

「そんなん…できひんやろ?どうしたらええ?」

「分かんない。」

「なんや~。」

「でも俺はこの世界でお前と別れて生きて行く事なんてできない。」

「なんて?」

「お前だけ輪廻の渦に巻き込まれるなんて…耐えられない。」

津久見は島森の目をしっかり見ながら言った。

「ありがとな…。でも、無理や。もう400年も繰り返してる。」

「だからだ。だから…お前を救いたい。」

津久見は尚も島森を見つめる。

「どうする気や。」

「もうこの世界…。意味が分からなくなってる。」

「そやな。」

「だから…。」

と、津久見は島森の耳元で囁く。

「え!!そんな…」

「考えられるとしたらもうこれしかない。それにこの世の中で俺だけのうのうと、生きて行こうとはさらさら思ってない!」

「…。」

島森は黙り込む。

「友を救いに来たんだ。400年前と同じようにな。」

島森は涙をこらえ、頷いた。

「やろう。」

「…。」

「行くぞ!!!!」

と、津久見は扇子を握りしめ、走って扉を飛び出していった。

その扉は…。



東日本国がの扉であった。



即座に島森は後を追いかけるように外にでた。

そして言った。

「狼藉者じゃ!!!!!境界線を越えたぞ!!!!撃て!!!!」

東日本国側の兵は一斉に銃口を津久見に向ける。

バン!バン!バン!バン

一斉に容赦なく津久見の体を銃弾が通過する。

津久見は吹っ飛びその体は川に落ちて行く。

(友よ。待っててくれ)

薄らぐ意識の中津久見は扇子を握りしめながら、天竜川へ落下した。



次回:最終話です。
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