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最終話

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「…と…の…。」

激しい頭痛の中そう聞こえた。

「と…の…。」

意識が少しずつ回復していくのが自分でも分かる。

「殿…。」

今度ははっきりと聞こえた。

津久見はバサッと起き上がる。

「いててて。」

と、頭を抑える。

「殿大丈夫でございますか?」

男が寄り添う。

(殿…?)

ハッと津久見は声を掛ける男の方を見た。そして泣いた。

そこには島左近が立っていたのである。

「殿、泣いていらっしゃるのでございまするか?」

(左近ちゃん!!!!!!戻って来れたんだ!あの日に!)

津久見は言いかけながらその場を立ち上がり周りを見渡した。

間違いない。あの日の光景と一緒だ。

もやのかかる

関ケ原だ、

「殿…。」

左近が心配そうに言う。

「案ずるな左近。少し眩暈《めまい》がしただけじゃ。」

「左様でございまするか。」

「左近状況は。」

「は。西軍はほぼ予定通り着陣しております。家康も桃配山に入ったとの報せが先程。」

「そうか。分かった。」

津久見は左近の報告を聞き、小さく頷いた。

(左近ちゃん逢いたかったよ~!!!!)

表情には出さないが、心ではすぐにでも飛びつきたかった。

「モヤが面倒じゃな。」

津久見が言う。

「左様でございまするな。」

左近が答える。

そんな中、

パーン!!!

と、銃声音が関ヶ原に鳴り響いた。

「何事じゃ、見て参れ!!!」

「は!!!」

と、左近に言いつけると早馬が急いで津久見の陣へやってきた。

(井伊、松平隊。宇喜多へ発砲。)

津久見は一人思った。

「敵軍。井伊、松平隊!自軍宇喜多様へ発砲!のち、開戦されました!」

伝令はそう言うとまた戻って行った。

「始まったか。殿、先手を取られましたぞ!」

「ああ。では…。」

と津久見は立ち上がると、陣の外へ出て扇子を開き、西軍諸兵に向かって

「皆の者!!豊家の大事ぞ!!憎き家康を討つのじゃ!!!それ!!!!」

と、大声で叫んだ。

(…。)

ブオーン、ブオーン!

法螺貝がけたたましく鳴り響く。

「うおら!!!!いけ~!!!!」

そこらで怒号が飛ぶ。

津久見は陣へ戻り、椅子に座る。

「殿、では行って参りまする。」

と、左近は津久見に言う。

「ああ。存分に戦ってまいれ。」

「はっ。」

(…。)

◇◆◇◆

暫くすると伝令が入る。

「敵方、藤堂高虎隊、お味方大谷刑部隊と開戦!刑部様優勢!以上!」

「あい、わかった。」

津久見で低い声で答える。

「御免!!」

伝令は引き戻る。

矢継ぎ早に次の伝令が入って来た。

「島左近様 相手方 井伊隊の中将 児島春景 打ち取り!」

(…。)

「こちらがその首でございまする。」

伝令は木箱を開ける。

(…………)

津久見は何度も白目を剥きそうになるが必死に耐え

「あい、わかった。」

と伝えた。

◇◆◇◆
『戦況は一進一退。』

左近が状況を報告してきた。

「そうか。左近。大坂城におられる毛利殿に早く出陣するように早馬を送れ。」

「かしこまりました。」

「それに日和見している小早川金吾に早く山を下りて家康を目指せと伝えよ。」

「はっ。」

(…。)

そこへ伝令が入る。

「朽木・脇坂隊が寝返りまして候!」

「何!!!!???」

近くにいた左近が叫んだ。

「あい、わかった。」

津久見は淡々と言う。

「殿、これでは形勢が不利になりまするぞ。」

左近が津久見に向かって言う。

「分かっておる。」

と、津久見は言うと立ち上がり、

「左近。島津隊へ早く出陣せよと尻をたたいてまいる。」

「かしこまりました。」

「重成ついて参れ!」

と、津久見は陣幕を出ながら言う。

そこへ主の出発の為、馬を引く者があった。

「これに。」

「ああ。」

(…。)

平岡であった。

「重成、参るぞ!!!!」

津久見は馬に鞭打って島津の陣を目指した。

道中ではいくつもの死骸が転げ落ち、声にならない声で必死に助けを求める者もいた。

津久見はそれらから目を反らすことなく、受け止める。

「父上。」

「島津隊でございます。」

「うむ。」

少し森がかった所に島津隊の陣はあった。

「義弘殿はおられるか!!!」

「何ね。」

島津豊久だ。

「お主では話にならぬ。義弘殿はいずこへ。」

「何じゃて!!!??」

津久見は豊久越しに陣の奥を見た。

そこには焚火を焚き僧兵と共に経を唱える義弘の姿があった。

「島津はここに来て、臆病風にでも吹かれたか!!早く軍を動かすのじゃ!」

津久見は義弘に向かって言う。

義弘は動じず経を唱え続けていた。

そこへ

「邪魔じゃ!島津は島津の戦いをする。お主には関係ないこったい!」

と、津久見の肩を押す。

「……。左様でござるか…。それでは…御武運を。」

と、津久見は振り返り、馬に乗った。

「重成。この足で小早川金吾のけつを叩いて参れ!」

「はっ。」

重成は松尾山へ急いだ。

(…。)

◇◆◇◆
津久見は陣に戻る。

早馬が次から次へと入る。

「横山喜内様、織田有楽斎様へ斬りつけまでいったものの、その配下によって討ち死に!!!」

(…。)

「伝令!!!島左近様負傷!!!」

(…。)

津久見は一連の報を受けると、立ち上がり

「大筒を用意せえ!!!」

と下知を下す。

ゴロゴロと大筒が運ばれ、設置される。

そして、扇子を戦場へ向け

「放て!!!!」

と号令を出す。

ドーーーーン!!!

彼方遠くの戦場に弾は着弾。

多くの徳川方の兵が命を落とす。

(…。)

◇◆◇◆
大筒の効果で状況は均衡していた。

その時であった。伝令が入る。

「伝令!!!家康本陣桃配山より下山!!!その後松尾山へ向かって発砲!!」

陣内がざわめく。

そしてまた伝令が入る。

「こ、こ、小早川隊!!大谷勢に向かって出陣!!!!」

「なんと!!!!」

陣内は混乱を極める。

(…。)

津久見は陣を出て、三成隊に

「討ってでよ!!」

と、下知。

「おおおおおお!!!!!」

と、三成軍はかかってくる敵を迎撃していった。

戦況は津久見にでも分かる。

圧倒的不利だ。

暫くしてまたもや伝令が飛び込んで来た。

「大谷隊潰走!!!!!」

「…。」

側近が言う。

「殿、もはや…。」

「…。」

「ここは一度大垣へ戻り立て直しましょう。」

「…。」

津久見は考え、そして言った。

「撤退!!!!」

その号令の元、一気に三成隊は退く。

東軍の執拗な追撃で津久見についている兵はいつしか誰もいなくなってしまった。

津久見は伊吹山の東にある相川山を越えて春日村に逃れた。

その後、春日村から新穂峠を迂回して姉川に出た津久見はは、曲谷を出て七廻り峠から草野谷に入った。

そして、小谷山の谷口から高時川の上流に出、古橋に逃れた。

しかし9月21日、家康の命令を受けて三成を捜索していた田中吉政の追捕隊に捕縛されてしまった。

◇◆◇◆
9月22日、大津城に護送されて城の門前で生き曝しにされた。

その後家康と会見。

「…。」

「…。」

二人とも無言であったが二人の目には光るものがあった。そしてお互い小さく頷いた。

9月27日、津久見は大坂に護送され、9月28日には小西行長、安国寺恵瓊らと共に大坂・堺を罪人として引き回された。

そして10月1日、安国寺恵瓊を先頭に小西行長、そして三成は後ろ手に縄で縛られ、京の六条河原へ向かっていく。

その周りには多くの群衆が一目見たさに、沿道を埋める。

(さあ…。)

と津久見は胸を張り馬に揺られる。

(終わりにしよう。…。)

小西と安国寺恵瓊には、馬を引く兵と、後ろには槍を構える兵が二人配置されていた。

しかし、津久見にだけ、横にもう一人兵が配置されていた。

その兵は、笠を深くかぶり下を向いている。

(????)

津久見は不思議に思った。

その瞬間。

その兵は笠を放り投げた。

津久見は唖然とした。

そこにいたのはであった。

「殿。誠楽しい日々でございました。あの日忍びとして私めを引き取って頂いてから、毎日が輝いておりました。感謝しております。では。」

「え!!!!!ちゃん!!???」

津久見は関ヶ原の合戦が始まって以来、であった。

が、急なの登場にそれが崩れた。

せんは颯爽と一粒の涙を残し消えて行った。

(なんでだ!?)

そこに群衆の中から大きな声がした。懐かしい声だ。

「よ!!!豊家の守護者よ!!!!また一緒に海を渡ろうぞ!」

「!!!!!!!?????」

村上武吉の姿がそこにはあった。

沿道はざわつく。

「さらば!治部よ!」

と、最後にニヒルな顔で言うと、走り去って行った。

(なんでだ!!!??)

津久見は混乱した。

そして、もう少し進むと六条の町の方から叫び声がした。

「うおおおおおおおおおおおおお!」

なんとそこには義弘と秀秋の姿が。

「こう叫ぶと気が晴れる!!!」

義弘が言う。

「こう叫んで私は変われた!!」

秀秋が言う。

そして二人は

「お見事な生き様!あっぱれ!」

と叫ぶと街へ消えて行った。

(??????????)

一行は足を一瞬緩めるが、構わず進んだ。そして六条河原に到着した。

川岸にゴザが敷かれそこに三人は等間隔に膝をつかされた。

「徳川内府の御指示の元、天下の大悪人の処刑を行う!」

徳川方の兵が関ヶ原の顛末の言上が行われ

「故に、ここに三人を斬首す。」

後ろでは坊主らしきものがお経をあげている。

河原に集まった野次馬は静まり返る。

「まず、安国寺恵瓊」

と、声がするや、安国寺恵瓊の首は落とされた。

「次に、小西…。」

と言おうとすると遮るように行長が叫んだ。

「治部よ!!!!堺の統治、難儀じゃったが、充実した日々じゃったわ!」

と、言い終わるや、行長の首は落とされた。

「小西さん!!!」

津久見は大粒の涙を目に言った。

「次に西軍大将…」

と兵が言うと。

「ヒヒ――ン!」

と、馬のいななきが聞こえた。

六条河原の反対岸に砂塵と共に、馬にまたがる男が二人現れた。


すると

「あああああん。ああああああああああああああん。何で…。あああああん!」



津久見は大声で泣き始めた。




「西軍大将にして豊家の柱、そしてなにより私の主君でありよ!!!」



そこにはシップにまたがる左近の姿が。

横には笑顔の平岡がいた。


「まことあっぱれな国造りでしたぞ!!!あなたとおれて良かった!さらば友よ!!!!」

と、シップの腹を蹴り走り出した。

「白目を剥く殿が好きでした!!しからば!!!」

平岡が後に続く。

「あああ。」

津久見は大声で泣く。

群衆はここに来て命が惜しいのかとヒソヒソ話をしている。

「これで、これで良かったんだ。」

と泣きながら言う。

「皆…楽しい日々を…。」

津久見は泣きながら叫んだ。

「ありがとうございました!!」

「石田三成。」

首が落とされた。







◇◆◇◆
スッと目が覚めた。

後頭部の痛みがある。

津久見はムクッとベッドに起き上がると、隣を見た。

そこには紛れもなく、島森がいた。

島森もベッドの上に起き上がる。

二人とも顔を合わせ、

フッと、鼻で笑い合った。

そして津久見は言った。

「島森。三宮のパチンコ屋でも行くか。」

「ああ。」

と、島森は答え笑った。


天竜川へで逢いましょう 完
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みんなの感想(2件)

スパークノークス

お気に入りに登録しました~

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花雨
2021.08.15 花雨

作品登録しときますね♪

岩 大志
2021.08.15 岩 大志

コメントありがとうございます。
50話まで書き溜めてありますので随時更新させて頂きます☆

解除
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