ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに

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1章 警察署編

16話 <中>

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「ま、待てっ……!」

 パァンッ

 目の前のロッカーから銃声の音が聞こえた。しかし弾がどこから撃ち出されたかがドア越しで見えていなかったため、弾がどこに飛んだのかも分からなかった。

 弾が俺に当たらず後ろの壁に当たったと思い、後ろを向くがどこにも弾の跡は見当たらなかった。

 なら弾は一体どこへ飛んでいったのか。もしかして不発だった?いやそもそも拳銃じゃ無い可能性だって……あれ?

 (何だ……?左胸の辺りがジンジンと熱い気がする……)

 俺はジンジンと熱く感じる場所に手を当てる。胸の辺りに当てている右手の感触は妙なベタつきを感じた。

 胸から手を離し恐る恐ると手の平に視線を向ける。そこには真っ赤な液体が手の平全体にべっとりとこびり付いていた。

 俺はその信じられない……いや信じたくない光景に、目を大きく見開きながら動揺をする。

 (えっ……は?何だよこれ……何で俺の手にこんな赤いのが……)

 俺はこれが自分の血なのだと時間をかけて理解し始める。理解し始めた時俺は自分の血が見えるこの状況の悍ましさと、ジンジンと熱かった箇所からの痛みが急速に膨れ上がってきた。

「あっ……あがっ、ぁあぁっ……!」

 あまりの痛みにまとまな言葉が出てこなくなっていた。俺は痛みを抑えるように胸の辺りを手で抑えるが、段々と全身から力が抜けていくのを感じ膝を地面についてしまう。

 そして手で体を支える余力も無くそのまま体をうつ伏せにして前に倒れ込む。

 (何で俺……ここで寝て……いるんだ?)

 思考がぼんやりとしてしまい自分の状況すら把握する事ができなくなっていた。辛うじてできるのは目の前の光景を見ることだけであった。

「……冬夜?」

 視界に映るのは右のドアから顔を出す奏であった。銃声を聞きここまで来たのだと思った。

「冬夜!ど、どうしてこんな事に……!?」

 奏は不安そうな顔で俺のそばに近寄る。そして俺の体を仰向けにして自分の膝に俺の頭を乗せる。そうすることで見つける、俺が倒れ込んでいる原因となるモノを……。

「血がっ……しかもこれは銃弾……?」

 銃弾が俺の体に貫通して埋まっている状況に、奏の顔からは血の気がサッと引いていくのが見えた気がした。

「そ、そんな……と、冬夜?大丈夫よね?」 

 奏は俺が軽傷であることを願うような目を向ける。俺は自分が助かるべく俺を撃った奴に協力をしてもらおうと考える。

 なので俺は声を出して奏に、ロッカーに人が潜んでいる事を伝えようとするが……

「うっ……あぁ……」

 (声が出せない……?まさか俺は死ぬのか?)

「何とか言ってよ冬夜!ねぇってばぁ……!」

 奏は俺の前でまた涙を流して泣きじゃくる。俺は声を出して大丈夫だと安心させてやりたかったがそれすらもできずにいた。

 (すまないな……最後まで、面倒見てやれなくて……)

 俺は虚な目をそっと閉じた。

「!!……嫌っ……嫌ぁ!お願い目を開けてっ!私を一人にしないで……!」

 ギィッ

「!?」

 目の前でロッカーのドアがゆっくりと開かれる。その中から現れたのは警察官の制服を纏った20代くらいに見える男性であった。

「も、もしかして……僕が……?」

 その警察官であろう男性は信じられないものを見るような目で私のそばにいた冬夜を見下ろしていた。

「あ、貴方は……?」

 私は何故ロッカーから警官が出てきたのかが分からず、ただ呆然とその人間を見上げていた。そしてふと片手に持っている拳銃を見つける。

 私はロッカーから出てきた拳銃を持つ男性を見て、状況的にこの男がその武器で冬夜をこんな風にしたのだと察する。

 そしてその事に大きな憤りを感じる。

 (貴方が冬夜をっ……!許せない、許せない……けど今はそれよりも冬夜をどうにしかしないと!)

 男性が目の前で寝ている冬夜に対して呆気にとられているのを見て、自分がしっかりしないといけないと感じた。

 冬夜を助けられるのは自分しか居ないと思い、嘆く暇は無いと言い聞かせて自分を奮い立たせようとする。今までの恩を返すべく、今すべき事を考える。

「そこの貴方!私は銃弾の弾を取るのとその後包帯を巻きたいから急いで救急箱を持って来て!」
「えっ、あ、あぁ……」

 その男性は突然命令されて事に驚きつつ、言われた通り救急箱を慣れていなそうな手つきで探し始める。そのオロオロとしたのろい動きは如何にも新人の警察官らしいと感じた。

「早く!」
「わ、分かってるよ!あ、あれ……?ここじゃ無い……ここでも無い……」
「冬夜……まだ諦めないでっ」
「……あった!」
「こっちに早く!」
「ああ!」

 救急箱を急いでこちらに運ぶ。私はその箱からガーゼとピンセット、消毒液となるものと包帯をその箱から取り出し並べる。

「……ふぅ、できる。いえやるのよ、やるしか無いのよ……」

 覚悟を決める。こんなのやった事は無いけど……やるしか無いのだ。こんな男に冬夜を任せるなんてできる訳がない。

 幸い弾は左胸と肩の間で、ぎりぎり内臓には当たっていないはずだ。私は心臓辺りに耳を当てて心音を聞く。まだ心臓は動いていた、しかしその鼓動は弱々しくなっている。

 助かる可能性はある、今は撃たれたショックで倒れ込んでるだけ。根拠は無いがそう信じる他無かった。

 私は冬夜の服の裾を首まで上げて裸を露わにする。男の裸を初めて見るが、恥ずかしがっている暇は無い。早く銃弾を抜いて消毒をし、出血を止めなければいけないと思った。

 ピンセットを手に取り、胸辺りの銃弾を抜き取ろうとする。私のピンセットを持つ手は震えていた、その震える手をもう片方の手で抑える。

 (絶対に死なせないっ……!絶対に……)

 私はなるべく震えを抑えながら銃弾に狙いを定める。誤って銃弾が奥に食い込んでしまえば内臓に傷がつく可能性がある。だから丁寧に抜き取る必要があった。

 丁寧に抜き取るには平常心でいなければいけない。落ち着かせるのだ自分を……。

 (……冬夜、今度は私が貴方を助ける番よ)

 震えを止める。ピンセットは銃弾を掴む。後は周りを傷つけないように抜き取るだけ。

 (ゆっくり……ゆっくりよ……)

 ゆっくりと銃弾を持ち上げる。綺麗な真上への直線を描くように。

「やった……」

 安心するのはまだ早い。抜いた瞬間出血が激しくなるのだ、私はガーゼで出血を抑えながら、横から消毒液をかけて菌を消毒する。

 (後は包帯を巻くだけ……)

 私は緊張した面持ちで包帯を巻き付ける。

「……終わった。後は起き上がるのを願うだけ……」

 私にできる事はもうこれだけ。後は起き上がるのを願いながら待つしか無い。心臓辺りに耳を当てて心音を聞く、まだ心臓は微弱だが動いていた。

 (冬夜っ……冬夜っ……)

 私は両手を重ねて祈る。

 私の対処の一部始終見えいた男性はずっと立ち尽くして黙ったままだった。ずっとそのままでいるかと思ったら急に口を開いた。

「……僕は悪く無い」
「……は?」

 私は衝撃的な発言が聞こえ、苛立ちを隠そうともせずその男性を見上げる。男性は私の視線に気がつく素振りを見せず、ずっと寝ている冬夜を見ていた。

 そしてその男性は何とゆっくりと引き攣った笑みを浮かべた。

「へっ、へへ……僕は悪く無い。たまたまそこにいたこいつが悪いんだ……そうだ絶対にそのはずだ」
「貴方何を言って……」
「僕は悪く無いっ!悪く無いんだぁー!」
「ひっ……!?」

 現実から逃避するように声を荒げて自分を正当化させようとする男性。私はこの不安定で狂気じみている男性に恐怖を感じてしまう。

「なぁ君もそう思うだろ?」
「あ、貴方が撃ったのよ……貴方のせいじゃないっ!」
「違うっ!違うよぉっ!」
「!?」

 その男性は突然私の首根っこを掴み、ロッカー近くのデスクに押し倒すように抑えつける。

「あっ……あがっ……!」
「僕はゾンビだと思ったんだ!ゾンビだと思ったら仕方ないじゃないかっ……」
「うっ、うぐ……」

 首を掴む強さは依然強いままだ。私あまりの苦しさに両手を使って相手の手を引き離そうとするが、その両手も男性に掴まれ私の頭の上に抑えつけられてしまう。

 さらにその男性は自分の下半身を私の両足の間の股に擦り付ける。

「!?うっ……うっ~~~!」

 私の顔を見る男性は、荒い鼻息を出しながら卑しい笑みを浮かべる。

「分からないなら分からせてあげるよ……君の身体にね。刻み込んであげるよ俺という男を……」
「っ~~~~~!」
「僕に服従しろ……僕無しで生きられない身体にしてあげるよ」

 首根っこから手を離し、その手は私の胸部に触れる。

「ぷはっ……嫌っ!触らないでよぉ……!」

 そう言っても目の前の男性はますます笑みを溢すだけであった。

「楽しませてくれよ……」

 人間は極限状態に陥ると本能が働いて子孫を残そうとするという話を聞いたことがあった。

 それが本当だとするなら、私が今からされる行為は……

「安心してよ……痛くはしないさ」

 凌辱りょうじょくだ……。



 

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