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第七章:これからのこと
第72話 異世界対決2
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ハルカはしばらくしたら持ち直したようだ。
そして、二人の子供の視線に合わせるようにして、その場にしゃがみこんだ。
「ごめんね、それは無理だよ」
ハルカがそう言うと、二人の瞳に見る見る涙が溜まっていく。
ハルカは焦ったらしくうろたえていた。
「なんでぇ……」
「ままになってくれなくちゃ、やだやだっ」
ぼろぼろと涙を零す二人に、ハルカは慌てて柔らかい素材のハンカチを取り出すと、彼らの涙を拭いてやった。
しかし、優しくしたのがいけなかったのか、子供達は更に大粒の涙を零してきてハルカを困らせていた。
「わがまま言うんじゃない。そもそもハルカはおまえ達のものじゃない。俺のものだ」
「おじちゃん、きらーいっ!」
「ばかーっ!」
ぽかぽかと二人の拳を受けてもカレヴィにはいっこうに痛手にはならない。
まあ、嫌われるのは想定の内だ。
「ゆうき君、まなちゃん、そんなことしたら駄目でしょう」
老婦人がおっとりと止めに入って、ようやく二人の子供はカレヴィへの攻撃をやめた。
「ごめんね。わたしはこの人が好きだから南條さんとは結婚できないの。だから二人のママにはなれないよ。本当にごめんね」
ハルカがそう言うと、二人はえぐえぐと泣きだした。
そうすると、ハルカは心が痛むと言うように顔を歪ませ、胸を押さえた。
やはりハルカは優しすぎる。カレヴィが付いていなければ、断るのも一苦労だったろう。
「はるかさん……」
それまで黙って成り行きを見守っていたナンジョーがハルカに声をかけてきた。
「あなたを幸せにするのは、わたし達では駄目ですか」
ハルカを幸せにするのは俺だ、と声には出さずカレヴィは思う。
「ごめんなさい。ゆうき君やまなちゃんはとても可愛いと思ってます。けれど、南條さん、あなたには恋愛感情はまったく持っていません」
ハルカがはっきり告げると、ナンジョーは苦く笑った。
「……それは最初から分かっています。自分がかなり強引なことをしているということも。それでも、あなたがもうすぐ日本からいなくなってしまうと思ったらこうせずにはいられなかった」
「南條さん、勝手です。こんな一時の感情でゆうき君やまなちゃんを哀しませるようなことしないでください。変に期待持たせたりしたら残酷じゃないですか」
ナンジョーの子供達はハルカにしがみついて泣いていた。それで、ハルカとしてはナンジョーを責めずにはいられなかったのではないだろうか。
「一時の感情ではないですよ。……ですが、子供達につらい思いをさせてしまったことは確かですね。はるかさん、すみませんでした。……ゆうき、まな、ごめんな」
ナンジョーが手を差し伸べると、子供達は今度は彼にしがみついてわんわん泣いた。
もうナンジョーも反省しただろうとカレヴィは口を開いた。
「……これでハルカのことはすっぱりと諦めるんだな」
すると、ナンジョーは少し笑った。
「いえ、まだあなた方に付け入る隙がない訳ではないのでまだ諦めません」
それでカレヴィも思わずむっとしてしまった。
「しつこいぞ。いい加減に諦めろ」
「まだ結婚された訳ではないですから、まだわたしにも希望はあるでしょう? ……ハルカさん、フランスへ戻ってもまたこちらにいらした際にはぜひご連絡ください」
「は、はあ……」
ナンジョーに両手を取られて、熱心に言われたハルカは、流されてそう口にする。
それでカレヴィも嫉妬をつい止める事ができなかった。
「──ハルカ」
カレヴィの冷淡さを感じる低い声や嫉妬のこもった目で彼に見られたことで、ハルカははびくりと体を震わせていた。
──まずいな。ハルカを怯えさせるつもりはなかったんだが……。
カレヴィが反省しているその横で、ハルカが良いことを思いついたとばかりに顔を輝かせた。
「い、いえでも南條さん。実はわたし、オタクな女なんですよ」
……オタクな女とはなんだろう。
もしかして、ハルカの趣味と関係があるのだろうか。
果たして、あれは嫌われるような趣味なのか?
しかし、ナンジョーはハルカのその策に対して、実ににこやかに答えた。
「知ってますよ」
「え、え……?」
「漫画を描かれてるんですよね? サイトも拝見しました。はるかさんは可愛らしいお話を描かれるんですね。ゆうきやまなもはるかさんのサイトが大好きですよ」
すると、ハルカが羞恥からか、かーっと赤くなる。
それに追い打ちをかけるように子供達が目を輝かせて、ハルカに一生懸命に話しかけた。
「うん、きしとおひめさまのおはなしだいすきー」
「きらきらでかわいーかっこいー」
「あ、ありがとう……とても嬉しい」
ハルカは趣味の漫画にはかなりの努力をしていたらしいので、子供達が手放しで褒めたら相当嬉しそうだった。
「あらー、そのお話、わたしも読んでみたいわ」
老婦人がそう言うと、ハルカは更に真っ赤になった。
ハルカが泣きそうな顔で赤くなっている頬を覆っていたので、カレヴィはそんな顔をするなと抱きしめた。
「おばさんには今度教えますよ。……はるかさん、そんなに恥ずかしがらないでください。そんな顔をされると、無理矢理にでもあなたの婚約者から奪いたくなってしまいます」
この図を見て奪いたくなるとはどういうことだ、とカレヴィは憤った。
「おまえ……本当に図々しいな。決闘でもするか?」
「カレヴィさんに暗殺でもされそうな感じですね」
ナンジョーは笑って受けているが、その目は笑ってない。
カレヴィとナンジョーが火花を散らす様をハルカがハラハラして見ている。
すると、ふいにカレヴィでも認めるしかない美声が響いた。
「なにをやってるんだい、カレヴィ。冷静な話し合いをするために君はここに来たんじゃなかったかい」
振り返ると、そこにはアーネスのみならず、シルヴィやイアスの姿もあった。
だがなぜかティカの姿は見あたらなかった。……ハルカの親友でもあるし、途中で帰ったというのは考えづらいのだが。
「わー」
突然現れた異国人三人に驚いて、子供達がぽかんと口を開けて彼らとカレヴィを見ている。
老婦人は「なんだか目の保養ねえ」とにこにこしていた。
それで、今まで火花を散らしていたカレヴィとナンジョーは毒気を抜かれたように黙り込んだ。
「ハルカさんの求婚者さん達ですか」
ナンジョーは恋する者の鋭さですぐにそれと気づいたようだ。
もっともアーネスとイアスには既に会っているのでそれで気が付いたのかもしれないが。
「そうです。俺が今現在、ハルカの第一の求婚者になります」
シルヴィが生真面目にそう言うと、ナンジョーがふっと笑った。
「カレヴィさんの弟さんかな? とてもよく似ている」
「はい、そうです」
その笑みが彼に軽く見られたと思ったのか、いくらかシルヴィの顔が強ばる。
「いや、誤解しないで欲しいんですが、わたしが今笑ったのは、あなたが年若いからではないですよ。求婚に対して順序を付けるのがわたしには不思議でね」
「ですが、重要なことです」
ナンジョーの説明にも関わらず、シルヴィの眉間にしわが寄る。
確かに第一位となれば、ハルカを口説く権利も他の者に対して大幅に利となる。
……だが。
「ですが、恋に落ちてしまえばそんなものは関係ないですよ。結局ははるかさんの意思次第です」
その言葉に対してますますシルヴィの眉間のしわが深くなる。
「だから、ハルカは俺に惚れていると言っているだろう。いい加減理解しろ」
「求婚者の末席の兄王は黙っていてください」
すると、ハルカが焦ったようにシルヴィを見た。
「求婚者の末席……、兄王? カレヴィさんは、確かフランスの方のはずですよね」
案の定、ナンジョーはそこを追求してきた。
カレヴィとハルカはとっさにイアスの顔を見たが、彼はなぜか疲れたように首を振ってきた。
……どうした。なぜ記憶操作しないのだ。
「……なにやらおもしろそうなことが起こっている気がするんですが。皆さん、よろしかったらわたしの家で詳しくお話を伺いましょうか」
食えない笑顔で微笑むナンジョーにカレヴィは彼の本質を見た気がした。確かにこれならしつこそうだ。
……それにしても、これからどうなるというのだろうかとカレヴィは感じずにはいられなかった。
そして、二人の子供の視線に合わせるようにして、その場にしゃがみこんだ。
「ごめんね、それは無理だよ」
ハルカがそう言うと、二人の瞳に見る見る涙が溜まっていく。
ハルカは焦ったらしくうろたえていた。
「なんでぇ……」
「ままになってくれなくちゃ、やだやだっ」
ぼろぼろと涙を零す二人に、ハルカは慌てて柔らかい素材のハンカチを取り出すと、彼らの涙を拭いてやった。
しかし、優しくしたのがいけなかったのか、子供達は更に大粒の涙を零してきてハルカを困らせていた。
「わがまま言うんじゃない。そもそもハルカはおまえ達のものじゃない。俺のものだ」
「おじちゃん、きらーいっ!」
「ばかーっ!」
ぽかぽかと二人の拳を受けてもカレヴィにはいっこうに痛手にはならない。
まあ、嫌われるのは想定の内だ。
「ゆうき君、まなちゃん、そんなことしたら駄目でしょう」
老婦人がおっとりと止めに入って、ようやく二人の子供はカレヴィへの攻撃をやめた。
「ごめんね。わたしはこの人が好きだから南條さんとは結婚できないの。だから二人のママにはなれないよ。本当にごめんね」
ハルカがそう言うと、二人はえぐえぐと泣きだした。
そうすると、ハルカは心が痛むと言うように顔を歪ませ、胸を押さえた。
やはりハルカは優しすぎる。カレヴィが付いていなければ、断るのも一苦労だったろう。
「はるかさん……」
それまで黙って成り行きを見守っていたナンジョーがハルカに声をかけてきた。
「あなたを幸せにするのは、わたし達では駄目ですか」
ハルカを幸せにするのは俺だ、と声には出さずカレヴィは思う。
「ごめんなさい。ゆうき君やまなちゃんはとても可愛いと思ってます。けれど、南條さん、あなたには恋愛感情はまったく持っていません」
ハルカがはっきり告げると、ナンジョーは苦く笑った。
「……それは最初から分かっています。自分がかなり強引なことをしているということも。それでも、あなたがもうすぐ日本からいなくなってしまうと思ったらこうせずにはいられなかった」
「南條さん、勝手です。こんな一時の感情でゆうき君やまなちゃんを哀しませるようなことしないでください。変に期待持たせたりしたら残酷じゃないですか」
ナンジョーの子供達はハルカにしがみついて泣いていた。それで、ハルカとしてはナンジョーを責めずにはいられなかったのではないだろうか。
「一時の感情ではないですよ。……ですが、子供達につらい思いをさせてしまったことは確かですね。はるかさん、すみませんでした。……ゆうき、まな、ごめんな」
ナンジョーが手を差し伸べると、子供達は今度は彼にしがみついてわんわん泣いた。
もうナンジョーも反省しただろうとカレヴィは口を開いた。
「……これでハルカのことはすっぱりと諦めるんだな」
すると、ナンジョーは少し笑った。
「いえ、まだあなた方に付け入る隙がない訳ではないのでまだ諦めません」
それでカレヴィも思わずむっとしてしまった。
「しつこいぞ。いい加減に諦めろ」
「まだ結婚された訳ではないですから、まだわたしにも希望はあるでしょう? ……ハルカさん、フランスへ戻ってもまたこちらにいらした際にはぜひご連絡ください」
「は、はあ……」
ナンジョーに両手を取られて、熱心に言われたハルカは、流されてそう口にする。
それでカレヴィも嫉妬をつい止める事ができなかった。
「──ハルカ」
カレヴィの冷淡さを感じる低い声や嫉妬のこもった目で彼に見られたことで、ハルカははびくりと体を震わせていた。
──まずいな。ハルカを怯えさせるつもりはなかったんだが……。
カレヴィが反省しているその横で、ハルカが良いことを思いついたとばかりに顔を輝かせた。
「い、いえでも南條さん。実はわたし、オタクな女なんですよ」
……オタクな女とはなんだろう。
もしかして、ハルカの趣味と関係があるのだろうか。
果たして、あれは嫌われるような趣味なのか?
しかし、ナンジョーはハルカのその策に対して、実ににこやかに答えた。
「知ってますよ」
「え、え……?」
「漫画を描かれてるんですよね? サイトも拝見しました。はるかさんは可愛らしいお話を描かれるんですね。ゆうきやまなもはるかさんのサイトが大好きですよ」
すると、ハルカが羞恥からか、かーっと赤くなる。
それに追い打ちをかけるように子供達が目を輝かせて、ハルカに一生懸命に話しかけた。
「うん、きしとおひめさまのおはなしだいすきー」
「きらきらでかわいーかっこいー」
「あ、ありがとう……とても嬉しい」
ハルカは趣味の漫画にはかなりの努力をしていたらしいので、子供達が手放しで褒めたら相当嬉しそうだった。
「あらー、そのお話、わたしも読んでみたいわ」
老婦人がそう言うと、ハルカは更に真っ赤になった。
ハルカが泣きそうな顔で赤くなっている頬を覆っていたので、カレヴィはそんな顔をするなと抱きしめた。
「おばさんには今度教えますよ。……はるかさん、そんなに恥ずかしがらないでください。そんな顔をされると、無理矢理にでもあなたの婚約者から奪いたくなってしまいます」
この図を見て奪いたくなるとはどういうことだ、とカレヴィは憤った。
「おまえ……本当に図々しいな。決闘でもするか?」
「カレヴィさんに暗殺でもされそうな感じですね」
ナンジョーは笑って受けているが、その目は笑ってない。
カレヴィとナンジョーが火花を散らす様をハルカがハラハラして見ている。
すると、ふいにカレヴィでも認めるしかない美声が響いた。
「なにをやってるんだい、カレヴィ。冷静な話し合いをするために君はここに来たんじゃなかったかい」
振り返ると、そこにはアーネスのみならず、シルヴィやイアスの姿もあった。
だがなぜかティカの姿は見あたらなかった。……ハルカの親友でもあるし、途中で帰ったというのは考えづらいのだが。
「わー」
突然現れた異国人三人に驚いて、子供達がぽかんと口を開けて彼らとカレヴィを見ている。
老婦人は「なんだか目の保養ねえ」とにこにこしていた。
それで、今まで火花を散らしていたカレヴィとナンジョーは毒気を抜かれたように黙り込んだ。
「ハルカさんの求婚者さん達ですか」
ナンジョーは恋する者の鋭さですぐにそれと気づいたようだ。
もっともアーネスとイアスには既に会っているのでそれで気が付いたのかもしれないが。
「そうです。俺が今現在、ハルカの第一の求婚者になります」
シルヴィが生真面目にそう言うと、ナンジョーがふっと笑った。
「カレヴィさんの弟さんかな? とてもよく似ている」
「はい、そうです」
その笑みが彼に軽く見られたと思ったのか、いくらかシルヴィの顔が強ばる。
「いや、誤解しないで欲しいんですが、わたしが今笑ったのは、あなたが年若いからではないですよ。求婚に対して順序を付けるのがわたしには不思議でね」
「ですが、重要なことです」
ナンジョーの説明にも関わらず、シルヴィの眉間にしわが寄る。
確かに第一位となれば、ハルカを口説く権利も他の者に対して大幅に利となる。
……だが。
「ですが、恋に落ちてしまえばそんなものは関係ないですよ。結局ははるかさんの意思次第です」
その言葉に対してますますシルヴィの眉間のしわが深くなる。
「だから、ハルカは俺に惚れていると言っているだろう。いい加減理解しろ」
「求婚者の末席の兄王は黙っていてください」
すると、ハルカが焦ったようにシルヴィを見た。
「求婚者の末席……、兄王? カレヴィさんは、確かフランスの方のはずですよね」
案の定、ナンジョーはそこを追求してきた。
カレヴィとハルカはとっさにイアスの顔を見たが、彼はなぜか疲れたように首を振ってきた。
……どうした。なぜ記憶操作しないのだ。
「……なにやらおもしろそうなことが起こっている気がするんですが。皆さん、よろしかったらわたしの家で詳しくお話を伺いましょうか」
食えない笑顔で微笑むナンジョーにカレヴィは彼の本質を見た気がした。確かにこれならしつこそうだ。
……それにしても、これからどうなるというのだろうかとカレヴィは感じずにはいられなかった。
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