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第八章:騒動再び
第85話 婚約誓約書
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「……それは俺達に力を貸してくれるということですか? 言っておきますが、元老院側にはシルヴィが付いているのですよ」
「ああ、知ってるよ」
カレヴィが信じられない気持ちで言うと、ディアルークはなんでもないことのように肩を竦めた。
「シルヴィは可哀想だが、今回は泣いてもらう。なんといってもおまえ達二人は想い合っているんだからな」
「本当ですか!」
それを聞いてカレヴィとハルカが色めき立った。
ディアルーク達の協力があれば元老院を説得するのもだいぶ楽になる。
「ああ。ただし、ハルカの発作はなんとかしないとな。カレヴィの子を産めないのは元老院にとっては格好の攻撃材料になるだろう」
「それは……」
そこでハルカが俯いてしまった。
ハルカの発作については、習いになってみないと、子を作れないかどうかの判断は難しいだろう。
ただ、カレヴィはその段階になればハルカにも発作が出るような気がしていた。
そしてカレヴィはなるべくハルカにそういった苦しい思いをさせたくないと思っていた。
「最悪、子が出来なくてもいい。俺はハルカさえいればよい」
「カレヴィ!」
すると、抗議するようにハルカが叫んだ。
どうやらディアルーク達の目を気にしたらしい。
「まあ、純愛ねえ」
ニーニアが感動したように両手で頬を包み込んだ。
「それだと、元老院は妾妃を娶れと言ってくるぞ。分かってるのか、カレヴィ」
苦虫を噛み潰したような顔でディアルークが言ってくる。
「それは分かっています。ですが、出来ればハルカには苦しい思いをさせたくないのです。もちろん妾妃の件は断ります」
「カレヴィ……」
ハルカはカレヴィの言葉に感動したようで泣きそうな顔になっていた。そして、彼に抱きつこうとしたところではっとしたように離れる。
「わ、わたし、発作が出ないように頑張ります。千花も手を繋ぐところから頑張れと言ってくれてますし……それでも難しかったら、千花に協力を仰いで強化魔法をかけてもらうことも出来ると思います」
ティカの強化魔法は確かに頼もしい。
いざとなったら彼女に協力を仰ぐしかないとカレヴィも考えていた。
「ですから、たとえ千花を利用することになろうとも子は成します」
そのハルカの宣言にカレヴィは思わず呆然とした。
知らない間にハルカはここまで強くなったのか。
ハルカはディアルークを真剣に見つめて宣言すると、ディアルークも真面目な顔で彼女を見つめた。
そしてしばらく見つめ合った後、ディアルークはくっと笑い出した。
「最強の魔女も利用しようってか。おまえの婚約者候補は、えらい肝の据わり方をしているじゃないか、カレヴィ」
「ハルカ……」
ハルカがとても美しく見え、カレヴィはなおも呆然と彼女を見た。
「女のハルカがこうまで決めてるんだ。カレヴィ、おまえも腹をくくれ」
「──もちろんです」
ハルカがこうまで子を成すと言っているのだから、それに頷かない手はない。
そして、おもむろにカレヴィがハルカの肩を抱くと、彼女は少し涙ぐんだ。
カレヴィはそんなハルカが愛しく、今すぐ口づけたいと思ってしまった。
「まだ安心するのは早いぞ。今すぐ婚約誓約書を作れ。俺達が署名してやる。……そうすれば、元老院も文句の付けようもない誓約書が出来上がるだろう」
「確かにそれならば、文句は付けられませんね。……ゼシリア、儀式用の紙とペンを持ってきてくれ」
カレヴィが控えていたゼシリアに命ずると、彼女はすぐさまそれを携えてきた。
カレヴィは大きく婚約誓約書と書いた後、両名の婚約をここに誓うと書いて、署名した。
「ハルカ、この下に署名を」
「うん」
すると、ハルカが泣き笑いのような顔になった。しかし、書類に署名をするので我慢したのだろう。その頬に涙は流れなかった。
そしてハルカがカレヴィの署名の後に署名した。
「この両名の婚約を我らは認める、と……、ほらニーニア」
「了承しましたわ。はい、書きました」
ディアルークから受けて、ニーニアが婚約誓約書に軽やかに署名する。
「では、これをマウリスに預ければいいな」
ディアルークがニーニアから誓約書を受け取って、カレヴィ達を見回した。
「──お待ちください」
すると、その場に涼やかな声が響いた。
「千花!」
すぐさまハルカが名を呼ぶと、ティカがその場に現れた。
この大事な話にティカを入れないで進めたの少々まずかったか。
カレヴィは内心で顔をしかめた。
「……そこにわたしの署名も入れさせてください」
この申し出にはカレヴィも驚いた。
「千花! それって……っ」
「はるかの幸せのためなら、わたしも喜んで力を貸すよ。はるか、わたしの力いくらでも利用して」
「千花……!」
さっきのハルカの宣言をティカは聞いていたらしい。
ティカはカレヴィとハルカの仲を反対している感じだったので、こんなふうに進んで協力してくれるとはカレヴィは思わなかった。
「最強の魔女が署名するなら、もっと話が早いな」
ディアルークがティカにカレヴィとハルカの婚約誓約書を渡すと、彼女はその一番最後に署名した。
「ちか、千花、ありがとう……っ、ごめんね」
ハルカは感動したように涙を流してティカに言った。
「謝らないでよ。わたしの方がはるかにもっと謝らないといけなくなっちゃうから。はるか、今まで振り回してごめんね」
「ううん」
ハルカは涙が溢れるままに首を横に振ると、ティカに抱きついた。
するとティカはあやすようにぽんぽんとハルカの背中を軽く叩いた。
「本当にティカ殿が男でなくて良かった。そうしたら俺はハルカに会えなかっただろう」
「カ、カレヴィッ」
それでハルカは慌てたようにティカから離れた。
しかし、最強の女魔術師は動じた気配もない。それどころかカレヴィにこんなことを言ってきた。
「そうですね。そしたらみすみすはるかをライバルに差し出すなんて真似、絶対しませんね。わたしが女で良かったですね、カレヴィ王」
「まったくだ」
ティカの艶やかな笑みを受けてにやっとカレヴィが笑う。
「ち、千花、カレヴィ」
先程の肝の据わり具合が嘘のように、ハルカがおろおろしてそんな二人を見ていた。
「ああ、知ってるよ」
カレヴィが信じられない気持ちで言うと、ディアルークはなんでもないことのように肩を竦めた。
「シルヴィは可哀想だが、今回は泣いてもらう。なんといってもおまえ達二人は想い合っているんだからな」
「本当ですか!」
それを聞いてカレヴィとハルカが色めき立った。
ディアルーク達の協力があれば元老院を説得するのもだいぶ楽になる。
「ああ。ただし、ハルカの発作はなんとかしないとな。カレヴィの子を産めないのは元老院にとっては格好の攻撃材料になるだろう」
「それは……」
そこでハルカが俯いてしまった。
ハルカの発作については、習いになってみないと、子を作れないかどうかの判断は難しいだろう。
ただ、カレヴィはその段階になればハルカにも発作が出るような気がしていた。
そしてカレヴィはなるべくハルカにそういった苦しい思いをさせたくないと思っていた。
「最悪、子が出来なくてもいい。俺はハルカさえいればよい」
「カレヴィ!」
すると、抗議するようにハルカが叫んだ。
どうやらディアルーク達の目を気にしたらしい。
「まあ、純愛ねえ」
ニーニアが感動したように両手で頬を包み込んだ。
「それだと、元老院は妾妃を娶れと言ってくるぞ。分かってるのか、カレヴィ」
苦虫を噛み潰したような顔でディアルークが言ってくる。
「それは分かっています。ですが、出来ればハルカには苦しい思いをさせたくないのです。もちろん妾妃の件は断ります」
「カレヴィ……」
ハルカはカレヴィの言葉に感動したようで泣きそうな顔になっていた。そして、彼に抱きつこうとしたところではっとしたように離れる。
「わ、わたし、発作が出ないように頑張ります。千花も手を繋ぐところから頑張れと言ってくれてますし……それでも難しかったら、千花に協力を仰いで強化魔法をかけてもらうことも出来ると思います」
ティカの強化魔法は確かに頼もしい。
いざとなったら彼女に協力を仰ぐしかないとカレヴィも考えていた。
「ですから、たとえ千花を利用することになろうとも子は成します」
そのハルカの宣言にカレヴィは思わず呆然とした。
知らない間にハルカはここまで強くなったのか。
ハルカはディアルークを真剣に見つめて宣言すると、ディアルークも真面目な顔で彼女を見つめた。
そしてしばらく見つめ合った後、ディアルークはくっと笑い出した。
「最強の魔女も利用しようってか。おまえの婚約者候補は、えらい肝の据わり方をしているじゃないか、カレヴィ」
「ハルカ……」
ハルカがとても美しく見え、カレヴィはなおも呆然と彼女を見た。
「女のハルカがこうまで決めてるんだ。カレヴィ、おまえも腹をくくれ」
「──もちろんです」
ハルカがこうまで子を成すと言っているのだから、それに頷かない手はない。
そして、おもむろにカレヴィがハルカの肩を抱くと、彼女は少し涙ぐんだ。
カレヴィはそんなハルカが愛しく、今すぐ口づけたいと思ってしまった。
「まだ安心するのは早いぞ。今すぐ婚約誓約書を作れ。俺達が署名してやる。……そうすれば、元老院も文句の付けようもない誓約書が出来上がるだろう」
「確かにそれならば、文句は付けられませんね。……ゼシリア、儀式用の紙とペンを持ってきてくれ」
カレヴィが控えていたゼシリアに命ずると、彼女はすぐさまそれを携えてきた。
カレヴィは大きく婚約誓約書と書いた後、両名の婚約をここに誓うと書いて、署名した。
「ハルカ、この下に署名を」
「うん」
すると、ハルカが泣き笑いのような顔になった。しかし、書類に署名をするので我慢したのだろう。その頬に涙は流れなかった。
そしてハルカがカレヴィの署名の後に署名した。
「この両名の婚約を我らは認める、と……、ほらニーニア」
「了承しましたわ。はい、書きました」
ディアルークから受けて、ニーニアが婚約誓約書に軽やかに署名する。
「では、これをマウリスに預ければいいな」
ディアルークがニーニアから誓約書を受け取って、カレヴィ達を見回した。
「──お待ちください」
すると、その場に涼やかな声が響いた。
「千花!」
すぐさまハルカが名を呼ぶと、ティカがその場に現れた。
この大事な話にティカを入れないで進めたの少々まずかったか。
カレヴィは内心で顔をしかめた。
「……そこにわたしの署名も入れさせてください」
この申し出にはカレヴィも驚いた。
「千花! それって……っ」
「はるかの幸せのためなら、わたしも喜んで力を貸すよ。はるか、わたしの力いくらでも利用して」
「千花……!」
さっきのハルカの宣言をティカは聞いていたらしい。
ティカはカレヴィとハルカの仲を反対している感じだったので、こんなふうに進んで協力してくれるとはカレヴィは思わなかった。
「最強の魔女が署名するなら、もっと話が早いな」
ディアルークがティカにカレヴィとハルカの婚約誓約書を渡すと、彼女はその一番最後に署名した。
「ちか、千花、ありがとう……っ、ごめんね」
ハルカは感動したように涙を流してティカに言った。
「謝らないでよ。わたしの方がはるかにもっと謝らないといけなくなっちゃうから。はるか、今まで振り回してごめんね」
「ううん」
ハルカは涙が溢れるままに首を横に振ると、ティカに抱きついた。
するとティカはあやすようにぽんぽんとハルカの背中を軽く叩いた。
「本当にティカ殿が男でなくて良かった。そうしたら俺はハルカに会えなかっただろう」
「カ、カレヴィッ」
それでハルカは慌てたようにティカから離れた。
しかし、最強の女魔術師は動じた気配もない。それどころかカレヴィにこんなことを言ってきた。
「そうですね。そしたらみすみすはるかをライバルに差し出すなんて真似、絶対しませんね。わたしが女で良かったですね、カレヴィ王」
「まったくだ」
ティカの艶やかな笑みを受けてにやっとカレヴィが笑う。
「ち、千花、カレヴィ」
先程の肝の据わり具合が嘘のように、ハルカがおろおろしてそんな二人を見ていた。
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