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18.ロクサーナ、恒例のお茶会にて
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ロクサーナです。
今や恒例となったレンブラント様のお茶会に今回もお招きいただいております。
そのたびに皇帝陛下と皇妃様にご挨拶するのですが、お二方はなにか納得したようにうんうんと頷き合いながらもお茶会に参加するご様子もなく、後は若い二人でとかなんとかでご辞退なさるのですよね。
……もしかして、お見合いと間違われてませんか? レンブラント様とはお茶会を通してフェルナンド様の書状をお渡しいただいてるので、ただそれだけのことなのですが。
「本日はいちご大福を作ってまいりました」
「まあぁ、いちご大福! わたくしの大好物ですわ!」
マリアムが嬉々として叫んだので、いちご大福がレンブラント様のお口に合わなくても、どうやらあまらせることはなさそうだとわたしはほっとしました。
「へえ、マリアムの好物か。それは期待できそうだ」
興味津々といった感じで、レンブラント様が微笑まれると、エリック様もそれに頷きました。
「料理の腕前はともかく、姉上の舌は肥えてますからね。……飲み物はいかがいたしますか?」
「……そうですね、いちご大福は生のいちごを使っていますので、緑茶か紅茶がよろしいのではないかと」
今回はマリアムではなくて、エリック様が給仕してくれるようです。わたしが少し考えたあとにそう答えると、エリック様は再び頷いて紅茶の缶を手に取りました。
「それでは、すっきりとしたこの紅茶にしましょうか。砂糖を入れるにしても控えめがいいですかね」
「そうですね。いちご大福のあんは甘めにしてますし、それがよろしいかと。それで様子を見て、あとはお好みで」
味覚は個々に違いますし、いちご大福にコーヒーでも、わたしはかまわないと思いますけどね。
「白あんもこしあんもおいしい! さすがロクサーナ様!」
「姉上、はしたないですよ。なんですか、手づかみで」
あんの違ういちご大福をそれぞれ持って食べ比べているマリアムをエリック様がたしなめます。……マリアム、それは現代日本でもアウトですよ。少しは自重しましょう。
「ああ、外側のおもちはモチモチ、あんこは滑らかかつ上品な甘さで、いちごの甘酸っぱさとのハーモニーがたまりません!!」
「へえ、そんなにおいしいんだ。どれ、わたしもいただこうかな」
うっとりしながら語るマリアムに興味を引かれたらしいレンブラント様が、こしあんのいちご大福を器用に竹楊枝で一口大に切り分けて口に運ばれました。
「ああ、これはおいしいね! マリアムの言うとおりだ。それに食感が外側と中身で違うのもおもしろいね」
「確かにそうですね。ロクサーナ様、このもちというのはなにでできているのですか?」
しろあんのいちご大福を食しながら、エリック様がきらきらした目でわたしを見ました。……もしかして作る気満々ですか?
「白玉粉で作ってます。もち米という、普段わたしたちが食べている米とは違う、粘り気のある種類の米を加工して作ったものです」
……白玉粉は自作するのが面倒なので、公爵邸の在庫を皇宮に持っていきましょうかね。それなら、エリック様以外の方にも容易に作れるでしょうし。
「ああー、白玉粉ですかー。白玉団子なんて、つるんとしておいしいですよねえ」
「へえ、そうなんだ。それも食べてみたいな」
うっとりしているマリアムの言葉を受けて、レンブラント様が興味津々という感じで言いました。
「それでは、そのうちに作りますね」
「うん、頼むよ」
……これは、早急に白玉粉を持ち込まなければならないようです。白玉団子は作りたてのほうが絶対おいしいですしね。
そんなことを考えながらいちご大福を食していると、レンブラント様が白い封筒を取り出してきました。……毎度おなじみのアレですね。
「またあの王太子ですか。返事もないのに、よくもまあ懲りずに送ってきますね」
「……うーん、暇なのかな? こんなことするよりも、やることあるだろうにね」
至極もっともなエリック様とレンブラント様の意見を聞きながら、わたしはフェルナンド様の書状を開きました。それをマリアムがわくわくした様子で見つめてきます。
『ロクサーナ
相も変わらず金と使用人を送ってこないが、まったくもってずうずうしいな。このわたしが不細工な貴様を我慢して婚約者にしてやっていたというのに、貴様には感謝の念というものがないのか。』
……そっくりそのままお返ししますよ、フェルナンド様。
あれだけエヴァンジェリスタ家におんぶに抱っこしておきながら、恩をあだで返したあなただけには言われたくありませんね。
『しかし、貴様達エヴァンジェリスタ家のような恩知らずとは違って、わたしには徳があるからな。このたび、反エヴァンジェリスタのアサートン家がわが王家の後見になることが決まったぞ。どうだ、悔しかろう!』
そこで、わたしは首をひねりました。
アサートン家が王家の後見って……、一番ありえなさそうなんですが、いったいどうなっているのでしょう。
アサートン家は、反エヴァンジェリスタといっても、実態は反王家だったはずですが。公にそう称するのがはばかられるので、わが公爵家の名を出していたにすぎませんよ。
『マデリーンがわたしに焦がれ愛人になりたがっていて、それを受け入れるかわりにアサートン侯爵家が後見になることに決まったのだ。
わたしには真に愛するデシリーがいるのでつらいところだが、ここはマデリーンの想いを受け取っておこうと思う。わたしは思いやりのある男だからな。』
えっ、マデリーン様がフェルナンド様の愛人になりたがるなんて、天と地がひっくり返ってもありえません。彼女は馬鹿王子に焦がれるどころか、蛇蝎のごとく嫌ってましたし。
……もしかしてこの馬鹿、マデリーン様に愛人にしてやるから、アサートン家が後見しろとでも言ったんじゃないでしょうか。……ええ、どう考えてもそれが正解な気がします。
それにしても、男爵家のデシリー様が正妃で、侯爵家の令嬢が愛人って、馬鹿ですか?
普通の高位貴族の令嬢にでも悪手ですが、相手はあのフェルナンド様ですからね……。一番言ってはならない反王家派の令嬢に、えらそうに愛人にしてやると言うさまが簡単に目に浮かんでしまいます。
「…………」
馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、フェルナンド様のやることがななめ上すぎて、わたしの想像が追いつきません。
いえ、彼のことだから必ずなんらかのことはやらかすだろうなとは考えていましたが、さすがにここまで馬鹿だとは思いませんでした。
それに、たぶん知らないのでしょうけれど、マデリーン様の婚約者はあのアシュトン様ですよ? 墓穴を掘るにもほどがあります。
フェルナンド様は周囲をさんざん虐げていましたけれど、実はドMなんですかね?
今や恒例となったレンブラント様のお茶会に今回もお招きいただいております。
そのたびに皇帝陛下と皇妃様にご挨拶するのですが、お二方はなにか納得したようにうんうんと頷き合いながらもお茶会に参加するご様子もなく、後は若い二人でとかなんとかでご辞退なさるのですよね。
……もしかして、お見合いと間違われてませんか? レンブラント様とはお茶会を通してフェルナンド様の書状をお渡しいただいてるので、ただそれだけのことなのですが。
「本日はいちご大福を作ってまいりました」
「まあぁ、いちご大福! わたくしの大好物ですわ!」
マリアムが嬉々として叫んだので、いちご大福がレンブラント様のお口に合わなくても、どうやらあまらせることはなさそうだとわたしはほっとしました。
「へえ、マリアムの好物か。それは期待できそうだ」
興味津々といった感じで、レンブラント様が微笑まれると、エリック様もそれに頷きました。
「料理の腕前はともかく、姉上の舌は肥えてますからね。……飲み物はいかがいたしますか?」
「……そうですね、いちご大福は生のいちごを使っていますので、緑茶か紅茶がよろしいのではないかと」
今回はマリアムではなくて、エリック様が給仕してくれるようです。わたしが少し考えたあとにそう答えると、エリック様は再び頷いて紅茶の缶を手に取りました。
「それでは、すっきりとしたこの紅茶にしましょうか。砂糖を入れるにしても控えめがいいですかね」
「そうですね。いちご大福のあんは甘めにしてますし、それがよろしいかと。それで様子を見て、あとはお好みで」
味覚は個々に違いますし、いちご大福にコーヒーでも、わたしはかまわないと思いますけどね。
「白あんもこしあんもおいしい! さすがロクサーナ様!」
「姉上、はしたないですよ。なんですか、手づかみで」
あんの違ういちご大福をそれぞれ持って食べ比べているマリアムをエリック様がたしなめます。……マリアム、それは現代日本でもアウトですよ。少しは自重しましょう。
「ああ、外側のおもちはモチモチ、あんこは滑らかかつ上品な甘さで、いちごの甘酸っぱさとのハーモニーがたまりません!!」
「へえ、そんなにおいしいんだ。どれ、わたしもいただこうかな」
うっとりしながら語るマリアムに興味を引かれたらしいレンブラント様が、こしあんのいちご大福を器用に竹楊枝で一口大に切り分けて口に運ばれました。
「ああ、これはおいしいね! マリアムの言うとおりだ。それに食感が外側と中身で違うのもおもしろいね」
「確かにそうですね。ロクサーナ様、このもちというのはなにでできているのですか?」
しろあんのいちご大福を食しながら、エリック様がきらきらした目でわたしを見ました。……もしかして作る気満々ですか?
「白玉粉で作ってます。もち米という、普段わたしたちが食べている米とは違う、粘り気のある種類の米を加工して作ったものです」
……白玉粉は自作するのが面倒なので、公爵邸の在庫を皇宮に持っていきましょうかね。それなら、エリック様以外の方にも容易に作れるでしょうし。
「ああー、白玉粉ですかー。白玉団子なんて、つるんとしておいしいですよねえ」
「へえ、そうなんだ。それも食べてみたいな」
うっとりしているマリアムの言葉を受けて、レンブラント様が興味津々という感じで言いました。
「それでは、そのうちに作りますね」
「うん、頼むよ」
……これは、早急に白玉粉を持ち込まなければならないようです。白玉団子は作りたてのほうが絶対おいしいですしね。
そんなことを考えながらいちご大福を食していると、レンブラント様が白い封筒を取り出してきました。……毎度おなじみのアレですね。
「またあの王太子ですか。返事もないのに、よくもまあ懲りずに送ってきますね」
「……うーん、暇なのかな? こんなことするよりも、やることあるだろうにね」
至極もっともなエリック様とレンブラント様の意見を聞きながら、わたしはフェルナンド様の書状を開きました。それをマリアムがわくわくした様子で見つめてきます。
『ロクサーナ
相も変わらず金と使用人を送ってこないが、まったくもってずうずうしいな。このわたしが不細工な貴様を我慢して婚約者にしてやっていたというのに、貴様には感謝の念というものがないのか。』
……そっくりそのままお返ししますよ、フェルナンド様。
あれだけエヴァンジェリスタ家におんぶに抱っこしておきながら、恩をあだで返したあなただけには言われたくありませんね。
『しかし、貴様達エヴァンジェリスタ家のような恩知らずとは違って、わたしには徳があるからな。このたび、反エヴァンジェリスタのアサートン家がわが王家の後見になることが決まったぞ。どうだ、悔しかろう!』
そこで、わたしは首をひねりました。
アサートン家が王家の後見って……、一番ありえなさそうなんですが、いったいどうなっているのでしょう。
アサートン家は、反エヴァンジェリスタといっても、実態は反王家だったはずですが。公にそう称するのがはばかられるので、わが公爵家の名を出していたにすぎませんよ。
『マデリーンがわたしに焦がれ愛人になりたがっていて、それを受け入れるかわりにアサートン侯爵家が後見になることに決まったのだ。
わたしには真に愛するデシリーがいるのでつらいところだが、ここはマデリーンの想いを受け取っておこうと思う。わたしは思いやりのある男だからな。』
えっ、マデリーン様がフェルナンド様の愛人になりたがるなんて、天と地がひっくり返ってもありえません。彼女は馬鹿王子に焦がれるどころか、蛇蝎のごとく嫌ってましたし。
……もしかしてこの馬鹿、マデリーン様に愛人にしてやるから、アサートン家が後見しろとでも言ったんじゃないでしょうか。……ええ、どう考えてもそれが正解な気がします。
それにしても、男爵家のデシリー様が正妃で、侯爵家の令嬢が愛人って、馬鹿ですか?
普通の高位貴族の令嬢にでも悪手ですが、相手はあのフェルナンド様ですからね……。一番言ってはならない反王家派の令嬢に、えらそうに愛人にしてやると言うさまが簡単に目に浮かんでしまいます。
「…………」
馬鹿だ馬鹿だとは思っていましたが、フェルナンド様のやることがななめ上すぎて、わたしの想像が追いつきません。
いえ、彼のことだから必ずなんらかのことはやらかすだろうなとは考えていましたが、さすがにここまで馬鹿だとは思いませんでした。
それに、たぶん知らないのでしょうけれど、マデリーン様の婚約者はあのアシュトン様ですよ? 墓穴を掘るにもほどがあります。
フェルナンド様は周囲をさんざん虐げていましたけれど、実はドMなんですかね?
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