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第三部3章 思惑の全能神と真白き光の眠り姫 編
9.終焉の秤⑤
しおりを挟む「消えている筈だったって……何で、そんな」
『抑えきれなくなったんだ。人をな…それに、魔導を分けた事で、箱庭が不安定になった。疲弊しきった箱庭は修復不可能だ。だから、光に終焉の秤をかけるしかなかった。ほぼ、消滅という一択しかない裁定をな』
世界の命運を、アルシディア一人に?
「勝手が過ぎるだろ?滅ぶしか選べないものを、ただ一人に選ばせるだと?てめぇら神はどこまで酷になれる⁉︎」
バルドが神三人を侮蔑のこもった眼差しで睨め付ける。
つくづく勝手だと思ってたけど…神様って、ホントに残酷だ。
「……何故、アーシル…光でなくてはならなかった?」
冷たく昏い声音が聞こえ、はっとなる。
ギルの顔は表情が一切ない。湧き上がる怒りを必死に抑えている様に、俺の方が辛くなる。
ギルにとって、アルシディアは特別な存在。
苦しめられてたって、今更知らされても怒りしか湧いてこないのは理解できる。
『光の魔導が癒しの力を持っている事は知っているだろ?』
ルー様の問いに頷いた。
それは、この世界に来た時に、俺も教えてもらったから知ってる。
無から有を創り出せる存在……
あれ?それ、まさか……
『気づいたな?逆もまた然りなんだよ。有を無に帰す者。治癒と消滅は表裏一体。女神の光の魔導にしか出来ねぇんだよ』
本人が望む望まぬに関わらず、せざるを得ない。
でも、だったらなんで?
『箱庭が消滅してないのは、何でか、か?』
消滅しかないって言ってたのに、箱庭が残っているのは…
『アウフィリアが理を変えたからだ』
「理をって…それは」
『アルシディアを異世界に飛ばした。だから、この箱庭が消滅するという、この箱庭の理をも変えてしまった』
箱庭の理自体を変えた。
「それ、ちょっと…いや、かなりか……とんでもないことなんじゃ?」
『とんでもないどころじゃないな。本来なら、あっちゃならない事だ。箱庭の理が変わるって事は、この世界に生きる者すべての理が変わるって事だ』
厳しい顔のルー様に、アウフィリアがバツが悪そうに顔を背ける。
話が大きすぎる!
箱庭創った女神とはいえ、やっていい範囲超えてるんじゃ?
言葉もなく呆れる俺に、ルー様も苦笑いだ。
『自分が創り出したものだ。初めて、となれば尚更だろう。もう駄目だから壊せと言われて納得できんのも分からないでもない。アウフィリアは私情に走った。その結果、異世界に光を逃すという暴挙に出たんだ。裁定が下されず、光を失った箱庭は消滅も出来ず、再生も叶わない…秩序が乱れた箱庭の余波が、他の神が創り出した箱庭に影響を及ぼし兼ねない事態にまでなってな………』
「一旦、ルーがこの箱庭の核となり、裁定が下されるまで支えるという処置をとったのだ」
ルー様が眠りについていたのはそんな理由。
ルー様……女神とはいえ、女の人が一人で世界一つ支えるって…
無言で見つめる俺に、ルー様がフッと柔らかく微苦笑する。
「聞いた話がそれなら、腑に落ちん事や、偶然にしては出来過ぎな事が多いような気がするがな?」
「確かに……そもそも、我が闇堕ちしたは、アーシルを失ったが為…別の世界に飛ばされたアーシルの事は、ラゼルから聞いた。その上で、異世界召喚を行ない引き戻した。これは、偶然か?」
「それに関しては、儂がちと細工をな。アルシディアにルーの力の一部を付与した。光の転生者の特定、この世界に戻って来やすくするための布石ぞ。まぁ、ラゼルは謀が好きだでな。何かしらか騒動起こすは分かっておったからの」
「………………………………」
はっはっはっ!と、得意満面に笑う全能神様。
「ルーは箱庭を支える為、眠りについた。かなり魔導を消耗するのは分かっておったで。アルシディアの中にルーの魔導を入れ、この世界に戻ったなら戻せるよう力を溜めておいて貰った。まぁ、戻すまでにいろいろあり、かなり時間はかかったがの。最終、こうなるよう、方々、手を回したが。上手くいって良かった」
うんうんと、満足そうに頷く全能神様曰くーーーー
アルシディアが守りとして俺につけていた眷族とは別に、全能神様配下の眷族をつけたり。
ディオンが裁定者としてきちんと思った展開に回していってるか、アウフィリアを装って探り入れたり。
神の台座を発動されて箱庭を壊されたらいろいろややこしくなるからと、ラゼルと一緒に封印する為、アウフィリアに眷属していた、ラトナたちの父親族長に接触、台座の鍵が俺に渡るよう根回ししたのも……
「サラタータ、も?」
「うむ。まぁ、炎の魔導にあそこで死なれてはいろいろ都合がの。だから、あの護衛の………名前は何といったか?まぁ、よい。あの者に光が渡るのを確認し、ほど良き時に炎が戻るよう施した」
ヴィクトール。ヴィクターを魔族に変えたのは全能神様。
てっきり、ラゼルだと思ってたけど……
聞けば聞くほど、出るわ出るわ。
それにしても………
「神は、人の理に不可侵なんじゃねぇの?」
「アウフィリア程では……『あるだろうがッッッッ!!』
ルー様の蹴りが、全能神様の後頭部にめり込む。
そのまま倒れる全能神様の頭を、ルー様がグリグリ踏みにじる。
また、このパターン…
『なんかやってるとは知ってたが、ここまでとは…』
「痛いぞ、ルー。あぁ、でもルーの足の感触が♡」
『黙れ、ど変態!!』
じょ、女王様、、、
「全能神様…ここまでやった理由って…」
「理由?理由か?それは……」
ルー様……とりあえず、足退けて?何、言ってるか分かりません。
ドン引いてる俺たちの視線に、ルー様がさすがにバツが悪そうに足を退く。
「痛たた~…、ふぅ~、ルーは乱暴屋さんだのう?でも、好き♡」
照れっと言う全能神様に、ルー様がすわっと目を吊り上げる。
話進まない…
「理由はルーの為ぞ?早く起きてくれねば、儂と遊べんではないか」
「「「『…………………………………………』」」」
それが何だと言わんばかりな、全能神様の言葉に、ルー様は怒りマークを何個も浮かべてこめかみを押さえ、残りの俺たちは絶句。
「さて、悪ふざけはここまでだの」
いや…ふざけてたの、全能神様だけです。
半ば呆れる俺に、全能神様が手の平を向けた。
光の帯が流れ出し、結界内の俺の周りを複雑に取り巻いていく。
「え!ちょ、何だ、これ⁉︎」
「アヤ!貴様、何を⁉︎」
俺の悲鳴と、バルドの怒号が重なる。
全能神様ののんびりした声だけが、場にそぐわない。
「何とは異な事よ。終焉の秤。いつまでも始めぬわけにはいかぬて…で、あろう?」
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