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外伝2 触れる指先ーエリオー

*好きだから受け入れられない事もある⑤

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「何をなさってるんですか…貴方は。ラキティス、様」

我ながら可愛くない言葉だと呆れてしまう。
再度、ラキティスから溜め息をつかれ、顔を背けた。
体の奥に走った疼きに、歯と唇を噛みしめ声を堪える。

「ラキティス様!!」

クリスティアンが喜声をあげ、ラキティスに抱きついていく。
僕はまともに身動き取れず、床に倒れ込んだまま。
フェイスは突然の事に茫然自失。
状況から見たら異様な光景だ。
まともな感覚の持ち主なら、狼狽えて場を取り繕おうとするものだ。
クリスティアンの目は狂気に満ちていた。
今更ながらにそれに気づきゾッとなる。

「あゝ、ラキティス様……おしたいしております!僕に相応しいのは貴方様だけです!貴方は僕のもの……誰にも渡さない!!」

うっとりしたままラキティスを見上げるクリスティアンの姿は異様にすぎる。
それに、クリスティアンの言葉は全部自分を主にしている。
無言のまま、ラキティスがクリスティアンの肩に手を置いた。
嬉しそうに顔を綻ばせるクリスティアンに、僕の胸の奥がズキリと痛み、目を逸らせた。

「離れろ」
「ッッ⁉︎」

感情のこもらない冷たい言葉が発せられ、ラキティスの手がクリスティアンの体を突き放した。
口元に笑みをいたまま、クリスティアンが首を傾げる。

「ラキティス様?」
「まともじゃねぇな……」

顔を顰め、ラキティスがクリスティアンに背を向けた。

「ラキティス様!何を?僕はこちらなのに!!」

ラキティスが向かう先が僕である事に気づき、クリスティアンがほとんど悲鳴のような金切り声をあげた。

「関係ない…そもそも、俺はを回収に来ただけだ。お前を捕縛すんのも、裁くのも俺じゃない。腹は立つがな」
「ラキティスさ……ぁ、……ッ!!」

と言われたところで、ラキティスの腕に抱き上げられた。
途端に怖気おぞけにも似た強烈な刺激が走り、体がビクビクッと戦慄いた。
横抱きにされ、体に触れるラキティスの腕の感触に、僕の肌が異常なほど過敏な反応を示した。
ただ触れているだけだ。なのに、この感じ。

「ふっ、、ぅッ、、!!」

気を抜くと、口からあえぎが溢れそうで、慌てて口を手で塞ぐ。

「い、や!!いやぁーーーーーーーーーーーーッッ!ラキティス様ッッッッ!!そんな奴、構わないでよーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

クリスティアンが狂ったように喚き出す。
ほとんど狂人だ。やはり、クリスティアンの様子が変すぎる。

「身柄を拘束する!動くな!!」

鋭い声が聞こえ、バラバラと数人の人が部屋へと入ってきた。
先陣に立ち、テキパキ采配していくのは、淡いスミレ色の髪の美人としか言いようのない……

「セレスト、、様?」
「無事………とは、言えないようだな?まぁ、最悪な状況は回避できたようだが」

呆れたように言った後、ホッとしたようにセレストの顔が和らいだ。

「セレスト!エリオは⁈」

飛び込むように部屋へ入ってきたその姿に、ラキティスの腕の中で唖然としてしまう。
あまりの有り得ない状況さに、グッタリ感が増したような気がする。
まったく、、何をしでかし、何を言うか分からないところがありまくりだとは思ったが、予想の外をいくとはこの事だ。

「アヤ……………………何、してんの?」
「エリオが連れ去られたって聞いたからじゃん!大丈夫なのか⁉︎なんもされてねぇ⁈」

矢継ぎ早にわぁわぁ騒ぐアヤに、頭が痛くなりそうだ。

「されてないよ……」

とは言えないが、本格的にされる前だったから、まぁ、未遂と言っていいだろう。

「マジで⁈ならいいけど!攫った黒幕は?こいつら、単独じゃねぇだろ?」
「アヤ……うるさい」
「仕方ねぇじゃん!俺ンとこから攫われたって分かって、めっちゃ焦ったんだぞ⁈それに……」
「アヤ、騒ぐな!エリオの無事を確認したいって駄々こねるから、仕方なく連れてきたんだ。言っておくが、殿下に知られたら俺は知らんぞ?釈明は自分でしろ」
「セレスト⁉︎助けてくんないのか⁇バルドにバレたら……」
「知らん!!」

青くなるアヤに、セレストが冷たく言い放つ。
どうやら、皇太子殿下に内緒で、無理やり僕の救出についてきたらしい。
おかしいと思った。
アヤは女神の光の魔導。稀有な存在だ。
近衛騎士のセレストが危険極まりないこんな場所に連れてくるわけがない。それは、アヤを溺愛する皇太子殿下も同じく。こんな愚行ぐこうを許すわけがないのだ。
と、いうか……僕を助けるためにアヤがそんな事したって分かれば、僕こそ殿下からとがめられるんだけど?

「僕も知らないからね?アヤ………」
「エリオまで⁉︎ひど……ッ!」

半泣きになるアヤに思わず笑い、途端に、体に走る疼きに身を竦める。
薬には大抵の耐性を持っているが、これは使ヤツだ。
本格的にまずいかもしれない……

「セレスト様。これは連れ帰っても?」
「ああ、構わない。というより、早く連れ帰らなければ良くないようだ。任すぞ?キサ」

セレストに言われ、ラキティスが無言で頷く。

「侍従……殿」

背を向けたラキティスの背後から、呆然としたまま呟くフェイスの声が聞こえた。

「フェ……………………」
「黙ってろ…」
「え?」

口を開きかけた僕に、前を見据えたままラキティスが小さく制してきた。

「お前が今声をかければ、奴の罪悪感が深くなるだけだ」
「ぁ……………………」

言われて、開きかけた口を静かに閉じた。
どう、声をかけたら分からないくせに……僕は、、、
上目に見上げるが、ラキティスは僕を見ようとしない。その事に、安堵と寂しさの入り混じる感情を覚えつつ、そっと目を閉じた。








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