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第3章 ラシルフ 騒風と騒乱の風編
13.氷結 水と氷の乱舞
しおりを挟む結局逃げ出せないまま時間になり、俺とタータは厳重に兵に囲まれて部屋から連れ出された。
周りをちらりと横目に見て、ソッと溜息をつく。
だって、どう考えても無理だ。
筋肉ムキムキ、体鍛えることしか興味ありません的なお兄さんたちの集団。そんなのに部屋を見張られ、今は囲まれ、逃げられるワケがない。
「タータ……」
「勝手に口を開くな。その権利はお前にはないし、余計なことを言えば、タータが困る事になるぞ?」
前方、同じく兵に守られたサーリヤが俺に言い放つ。
くっ!卑怯者!
俺とタータは人質だが、今の俺にはタータが人質みたいになってる。
タータに危害を加える的な事言われたら、俺には成す術がない。
ちらりとタータに視線だけ向けると、悲しそうに眉を下げ、小さく顔を横に振り瞳を伏せる。
打つ手なしか……
サーリヤの思惑通りにだけ事が運んでるのがムカつく!
それに、絶対、何かある。
ここまで狡猾な真似する奴が、婚約破棄やクレイドルへの助勢禁止などという条件だけで終わるとは思えない。
いざとなったら、タータだけでも何とか逃がし……
「着いたぞ。決して口を開くな」
サーリヤに言われ、ハッと顔を上げる。
コロッセオというやつだろうか?闘技場みたいな場所についた。
連れ立って薄暗い通路を通り抜けると、光が眩しく照らされる。
屋根のない開けた場所。
俺達とは反対側に、カーティスとアッディーンが立っている。
「…………ッっ」
何かある。そう言いたいのに言えない。必死に目で訴えるが、カーティスは俺には一度も視線を合わせない。
「これはこれは、我が兄上。このような場所にご足労いただき恐縮にございます」
「ふん!書状など使い、呼びつけておいて白々しい」
「呼びつけた?これは異な事を。僕はただ、大切なものをお返しするためにも、話をしましょうと書いただけですよ」
厚顔無恥。人質とっておいて、話もクソもあるか!
あぁ~、こいつマジ腹立つ!殴りてぇ!
怒りにキリキリ目を吊り上げる俺とは違い、カーティスは冷静。
「無駄話はいい。サーリヤ、条件を呑む。書状があるなら、印もしよう。二人を離せ」
「あっさりしたものだな、カーティス=ユファサ。いいだろう。おい、書状を持って行け」
取り繕う事をやめたサーリヤが、兵の一人に指示し、カーティスの元へ書状を持って行く。
書状を受け取ったカーティスが目を通し、印をし、兵に渡した。
兵から書状を受け取り、サーリヤがクックッと笑い出す。
「ハッハッハッハッ!温い、温いな!カーティス=ユファサ。だがな、こんな書状だけでは、僕は満足できないんだ。継承権を僕一人にするため、お前には消えてもらう、カーティス=ユファサ!」
うわーーーーーーーーーーーーー!!やっぱり⁈
絶対何かあると思ったけど、お約束すぎね?
コロッセオのあちこちから、サーリヤの兵が姿をあらわす。
仕込み済みってワケね。
「アヤ………」
「タータ、大丈夫だ」
俺の腰あたりに抱きつき震えるタータを引き寄せる。
大丈夫とは言ったけど、こう囲まれてちゃどうしようもない。
「姫をしっかり抱きしめてなるべく小さくなれ」
「え?」
兵の一人が俺とタータにそっと寄り、耳打ちされる。
この声……
「ウォードラッシュ!」
「何だっ?!」
「ぎゃあ!!」
「うわぁっ!!」
俺に耳打ちした兵と、俺、タータを中心に水の刃が波紋のように広がり周りの兵をなぎ倒す。
その兵が被っていたフードが風圧で外れる。
淡いスミレ色の髪。
「セレスト!!」
バルドの側近、セレスト。
「セレスト、どうしてここに?」
「話は後だ。構えてろ、くるぞ」
「え?わっ!?つ、めた…ッっ!?」
周りの空気がどんどん冷たくなる。
「アヤ………」
怯えるタータを抱きしめてやり、だが、俺は………
俺は期待と希望に、胸が高鳴っていた。
この波動。凍てつく澄み切った、でも、どこまでも強くて綺麗で優しい。
静かに目を閉じる。恐怖はすでにない。
冷たい氷の魔導が一気に弾けると同時に体が抱きすくめられる。
覚えのある感触と熱。
閉じていた目を開く。
口元は自然と笑みをつくった。
言葉は自然に…その名を。
「バルド……」
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