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第二部3章 皇女降嫁?白き生花で紡がれし花冠の章
1.嫉妬深いパートナーを持つのも考えモノ
しおりを挟むイアンが帰り、ルースが加わり、とりあえず風に向かうため準備に入る。
そうは言っても、何も言わずに「はい、さよなら」というわけにはいかない。
「もう、発つのか?アヤ」
「うん……エティ。やんなきゃならないことがある。だから、いつまでもグズグズしてられない」
「……何が、とは聞くまい。多分だが、僕では聞いたところでどうすることもできない何かがありそうだ」
「また……顔、見にくるからさ」
しょぼんと寂しそうなエティに苦笑が漏れる。
確かに、全部が全部解決したわけじゃないし、サラタータはこれからが大変だろう。エティの事は心配ではあるけど……正直、かまってばかりもいられない。
「そなたが次訪れるまでには、サラタータは僕がきちんと治めていよう。入国も躊躇われるような国には二度とすまい」
「楽しみにしてる」
言うほどには簡単ではないだろう。でも、健気に且つ、精一杯笑顔で気丈に振る舞う年若い次期皇太子に、俺もまた笑顔を返す。
「アヤ。行くぞ?」
「あ、うん。エティ、じゃ行くね?」
「ゲートまでついていく」
扉が開いて、バルドが顔を出す。
荷物って言ってもたいしてないけど持って、バルドに続く。
サラタータは騎竜の使用が未発展だから、離着陸のゲートがない。臨時のゲートは、城の中庭の一角。
「ふわぁ………」
臨時ゲートに悠然と構える騎竜三体に、エティが少し興奮したように息を吐く。
「エティは、騎竜は初めて?」
「見た事はある。でも、こんな近くでは初めてだ」
「黒竜がオーディリア。バルドの騎竜だよ」
「美しいな……黒い鱗がキラキラしてる」
うっとり呟くエティに、俺は小さく笑う。やっぱ、エティだって男の子だから、剣や竜、冒険なんかには憧れるよな。
「触る?」
「え……?…でも…」
チラッとバルドを伺うエティ。全くもって素知らぬ顔のバルド。
もう…大人気ないな~。
しょぼんとするエティに、俺は小さく苦笑する。
「いい?バルド」
「………好きにしろ」
「だって?行こうか、エティ」
「……え、アヤ」
「あまり長くは居らんぞ。さっさとしろ」
素っ気なく言うバルドに小さく頷き、俺はエティを引っ張っていく。
ゲートに悠然と座り構える黒竜姫。
近くに立つと、雌の竜で小柄とはいえそれでも大きい。若干、恐怖を覚えたらしいエティが俺の体の後ろに隠れる。
チラッと、オーディリアが紅いルビーの瞳で横目に俺とエティに視線を寄越す。
俺はニコッと微笑んで、オーディリアに両手を広げてみせる。
「オーデル!エティが姫に触りたいんだってさ。綺麗な体に触らせてやって?」
しばし無言で、やがてグルと小さく鳴き、オーディリアが優雅に首をもたげ、ゆっくりと俺とエティのところに顔を差し出してきた。
「う、わぁ~………アヤ、?」
「触っていいよってさ」
感動し、それでも恐る恐る触るエティ。
「硬いけど、温かい。それに、やっぱり綺麗だ。すごく、美しい」
エティが呟くと、グルルと鳴いたオーディリアが長い舌でエティをベロッと舐める。
「ふへっ?!な、何だ?!」
「褒められて嬉しいってさ。オーデルは女の子だから、綺麗だ美人だって言われんの好きなんだ」
スリッと顔を擦り付けてくるオーディリアに、俺も嬉しくなる。エティと二人、顔を見合わせてふふっと笑いあう。
「アヤ。必ず、また来てくれるか?」
「いいよ。絶対、来る。エティは……大変かもしれないけど、がんばれよ?ヴィクター居るから大丈夫だろうけど」
「それは!いや……その…」
しどろもどろに赤くなるエティ。
可愛い。
こういう素直なところはまだまだ子供だな。
「エティ……うわっ!?ちょっ、なっ?!バルド?!」
「アヤ!えっ!?ヴィクター???」
俺とエティ、それぞれが引き離され、俺はバルドに。エティはヴィクターに引き寄せられた。
「もういいだろ?行くぞ」
「あなたはこちらですよ?エドゥアルト様」
二人して目を白黒させている間に、俺は抱えられたままオーデルの上に引き上げられた。
「何!?まだ、俺エティと……」
「ヴィクター!離さぬか!僕はアヤと話の途中……」
「「もう十分だ!」」
バルドとヴィクターの声がハモり、あっけにとられてる間にオーデルが飛び立つ。
見る間に小さくなるお互いの姿に、今度は俺とエティの声がハモる。
「「ひ、ひどい~~~~~~~~~~~!!!」」
「セレスト……殿下の嫉妬心益々ひどくなってんじゃない?」
「知らん!!」
半笑いのルースと、呆れてもはや諌める気もないセレストの会話もまた置き去りとされていた。
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