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第二部4章 表裏一体 抱く光は闇 抱く闇は光の章
2.微睡みの光
しおりを挟むサラサラ……水の音がする。澄んだ香りも。
薄っすら目を開けると、薄い紗のかかった、天蓋のベッドにいた。
シーツはしっとり滑らかで、肌に心地いい。
「こ、こは……?」
見覚えがない。柔らかく光を通すこの寝台にも……
「俺…………な、んで」
「あ!起きた~?」
「え……?」
紗を掻き分け、声の主が姿を見せる。
「…………?」
「ちょっと、まだ寝惚けてる?ここは普通、騒がないかな?『何で、こんなとこにお前が!?』みたいな?」
「騒…ぐ?」
「…………調子、狂うんだけど。自分、闇側に…僕たちの手に堕ちた自覚ある?」
「…………ぁ、の…」
目の前の青年が矢継ぎ早に話すが、まったく理解できない。
「あ、の…意味、分か……「イヴァン様。替えの服をお持ちしました」
「あ、そう。あとはやるから、貸せ」
イヴァンと呼ばれた青年が、紗の隙間から差し出された服を取る。
隙間から見えた、黒いローブ姿の青年に、俺の体に言い知れない恐怖と鳥肌が立つ。
「やっ…………!ッッッ!!!」
「アヤ?ちょっ、…?!」
「やだッッッ!!!」
怖い!怖い!!怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!
何がとか分からない!でも、ここは嫌だ!あれを目にしているのが耐えられない!
制止の手と声を振り切り、紗を跳ね上げ寝台を飛び出す。
水の水路に囲まれた寝台。続く通路上の床を裸足で駆ける。
後ろから声が聞こえるが構わず逃げる。
誰か………、助けて!『 』助け、て!!
「?」
ひとしきり走り、急に力が抜け失速。
その場にへたり込んだ。
誰を呼ぼうとしたんだ?助けてって……誰に?
思い出そうとして、ズキンと走った頭の痛みに呻く。
痛い……!頭…痛い!!
ズキズキ痛みに踞り、ようやくマシになり、ノロノロ壁伝いに立ち上がる。
「ここ……、ど、こ…んだ?こ、……は」
ふらふらする。立って歩くのがやっと。
壁に取り縋り歩く。
前方に扉が見える。
必死に歩き、何とか扉に辿り着き、扉にも縋る。
頭が、痛い…………!
断続的に、痛みと緩和を繰り返し、感覚がおかしくなりそうだ。
扉に手を掛ける。鍵はかかっていない。
ふらつく体で中に入ると、明かりが抑えられた部屋は、調度品が整えられ使われてはいるようだ。
「ここ……?」
知ってる?
この場所は、見た事がある?
でも、いつ?どこで?
だ、めだ……
また、ズキンと痛んだ頭に、フラつき側にあったソファに凭れる。
「誰だ?」
不意に声がかかり、俯けていた顔を上げた。
部屋の奥から、人影がゆっくり近づいてくる。
だ、れ?…………誰?
落とされた灯りに、男が映し出された。
黒い、漆黒の髪に、全身黒一色の出で立ち。
が、目を引いたのは……ーーーーーー
紅い。鮮やかな、それ自体が最高級のルビーを彷彿とさせる真紅の瞳。
「貴様は………!」
男の瞳に、驚愕と僅かな怒りが宿る。
男の全身を包む魔導が、苛立ちと怒りと悲哀と……綯い混ぜとなったもので立ち昇った。
威嚇するような男の表情。射殺さんばかりな瞳に、それでも俺は、引き寄せられるように歩み寄っていく。
「やめよ!我に、近づくでない!来るなッッッ!」
「ぁっ………ッ!!」
男が放った衝撃波が、俺の頬を軽く裂く。
チリとした痛みと、衝撃波の余波で、グラリと体が傾ぐ。
「アーシルっっ!!!」
男が叫び駆け寄り、倒れかけた体が抱きとめられた。
軽く、抱きすくめられ、ホッと息をついた俺に、逆に男がハッとなり離れようとした。
咄嗟に服を掴み阻む。
「離せ、アーシル…」
「ア……シル?それ、俺……事?」
苛立ちに睨みつけてくる俺に問う。
「貴様…何を言っておる?」
男の目が、奇異なものを見るかのように揺れた。
ほんと……俺、何言ってんだろ?
でも……ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここ……どこ、なんだ?」
ここが、どこなのか分からないのも本当だ。
「俺…………何で、こんなとこいんの?」
自分が何故こんな場所にいるのかも分からない。
「俺は……誰、なんだ?」
俺が、誰なのかも分からないのも……ーーーーーーー
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