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一月(弟)
#3
しおりを挟む翌日の夜、父から飲み会で遅くなると連絡があった。
「千紘、夜飯カレー作ったから食べよう」
「あ、うん……ありがとう」
麻緋は台所に立ち、チキンカレーをよそってくれた。
俺は洗濯や掃除はするが料理が苦手の為、麻緋が炊事担当になっている。だから千紘は麻緋の作るご飯を食べて育った、と言っても過言じゃない。
麻緋が優しいことは嫌というほど分かっている。だから尚さら、心を掻き乱された。
「……美味しい」
「そ? 良かった、おかわりあるから食えよ。お前はまだ育ち盛りなんだし」
目の前に座り、綺麗な笑顔で見つめてくる兄。
宝物のように輝く自分の理想。大事だからこそ、大好きで、憎くて、グチャグチャに壊したくなる。
────そんなことを考えてる、俺は本気で狂ってる。
「ねぇ、麻緋」
「うん?」
食事が終わった後、千紘はスマホを取り出した。
「麻緋って彼女いるんだもんね。じゃあ女が好き?」
「何だよ急に。当たり前だろ」
「そうなんだ。じゃあこれって、……普通じゃないよね」
フォルダからある画像を開き、麻緋に見せつける。
「それ……」
麻緋が自分の部屋で、男と抱き合っていた写真を。
「この前の休みに部屋でシてたでしょ?無音で撮ったから全然気付いてなかったけど、俺見ちゃったんだ」
麻緋は黙った。
怒っているのか、はたまた動揺しているのかは分からない。ただ無表情で唇を引き結んでいる。
単純に冷静を繕ってる可能性もある。そう思うと最高に気分が良かった。画面の中の、女みたいに蕩けた顔をしてる彼よりはよっぽど男前だ。
「びっくりしたなぁ。彼女と遊んでると思ってたのに、まさか男と部屋でシてるなんて。完璧な兄がホモとか、俺BL漫画でしか見たことないよ!」
ここぞとばかりに煽ってみる。あ、つうかこの煽り方もBLっぽいな。
「……そうか。じゃあそんな写真、持ってるのも気持ち悪いだろ。消せば?」
しかし千紘の煽りも意に介さず、麻緋は呆れた様子でため息をついた。
全然動じてない。その余裕綽々な態度が余計に腹立つ。
「別に。気持ち悪いっていうか、面白いって方が勝つね!麻緋のやばい性癖がわかったわけだし」
ほら、早く。動揺してみろよ。
「……父さんに言ったらどうなっちゃうのかなぁ?」
息が当たりそうなほどの距離で、笑いながら囁く。
直後、手に衝撃が走った。
「……?」
物が落ちた音。一瞬何が起きたのか分からず呆然としたけど、手に持っていたはずのスマホがない。……ゆっくり視線を横へずらすと、それは無残な姿で足元に落ちていた。
「なっ……何すんだよ!?」
スマホを叩き落とされたんだと気づいた時にはさすがに怒鳴った。慌てて拾い上げようとする千紘より先に、横をすり抜けた麻緋が容赦なくスマホを踏み潰す。
「……!!」
自分のスマホを踏み潰される気持ちをどう形容すればいいのか分からない。画面はひび割れて、確実に修理に出す必要があると思った。驚きと怒りに震えながら、麻緋に詰め寄る。
「信じらんねぇ! お前、頭おかしいんじゃねえの!?」
「うるさいな……心配しなくても、新しいスマホなら買ってやるよ」
弁償云々の話だけじゃないのに、麻緋は全く悪びれず、平然とこちらを見返している。
くそっ、何だよこいつ!
「もうムカついた……!証拠がなくても、お前が男とヤッてたことは絶対言ってやるからな!」
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