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お出迎え
#19
しおりを挟むマジか。
あんなことで納得してくれるなんて。いや、それより。
助かった……!
「ありがとうございます、和巳さん」
小声で言うと、彼はにこやかに返した。
「叔父さん、納得してくれて良かったな」
彼の言葉に頷く。でもそれもやっぱり彼のおかげだ。安堵と喜びのため息が出る。
「それで、今日は和巳と鈴鳴君はどうするんだ?」
「あ~、そうそう……おじいちゃん、急に悪いけど今日だけ泊めてもらえませんか? 鈴の車を裏に停めてるから、俺の家に帰るよりこっちのが都合よくて」
和巳さんは何とも正直に、自分の家に帰りたくない旨を祖父に伝えた。
「はっはっは! もちろん良いよ。一日と言わず、一週間でも一ヶ月でもいてくれて構わないよ。久しぶりに孫が二人揃って来てくれたんだから」
「ありがとう、おじいちゃん」
真っ直ぐな優しさが素直に嬉しい。あんな事件の後だということも忘れ、彼にお礼を言った。
「そうと決まれば私もそろそろ失礼しようかな。父さん、和巳と鈴鳴君を頼みますね。いや、逆かな……鈴鳴君達に父さんをお願いするのか」
「何言ってるんだ、私はまだまだ元気だぞ」
「はいはい。血圧上がるから興奮しないでくれよ。じゃあ、和巳……もう少しゆっくりして、それから連絡くれ。入社の手続きがあるから」
「あぁ……。分かった」
和巳さんが頷くと、伯父さんも帰って行った。そして、こそっと俺に耳打ちする。
「あー、良かった。一緒に帰ったら、前の会社の事とかつっこまれる所だったよ。実は退職するときは色々上司と揉めてさあ……」
「あはは。お互い助かりましたね」
そうして笑ってると、おじいちゃんは不思議そうに首を傾げた。
「なんだ、二人でこそこそ話して」
「あ、いやいや。それよりおじいちゃん、救急車で運ばれたんだって? 煙草はやめた方が良いですよ」
和巳さんが正座して言うと、おじいちゃんは笑って否定した。
「煙草はもう六十年吸ってるんだ、今さらやめられないよ。むしろこれのおかげで今まで元気に生きてこれたんだ」
その理屈はいかがなものかと思ったけど、実際彼は一服してるときが一番幸せなのかもしれない。
「私は十五から吸ってたからな。でも鈴鳴、お前は二十歳になるまでは駄目だぞ」
「えぇ……おじいちゃん、俺もう二十歳だよ」
成人式にお祝いくれたことも忘れられてる。何か悲しい。
「おぉ、そういえば……、じゃあ構わん。ほれ、蜜柑だ」
おじいちゃんは俺達にテーブルに置いてあった蜜柑をひとつずつくれた。
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