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シンプル

#4

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夜とはいえ気温が高いせいか蒸し暑い。片手で顔に風を送りながら、隣で歩く彼を見返した。

「抱く方が無知だったり乱暴だったりすると、本当にやばい。下手したら体傷つけて、一生使えなくなる。充分気をつけろよ」
「わかった! ありがとう!」
「その良い返事がな……ホントにわかってんのか心配だわ。……そういや最初っからお前が女役で話進めてるけど、そのー、和巳さんだっけ? 抱きたいと思ったことないの?」

信号を渡って明るい通りに出る。すれ違う人達を横目に見ながら、照れ隠しに笑った。
「そうだね。和巳さんが抱かれる方がいいって言ったら、俺があの人を抱くけど。そうじゃないなら、俺がこっちでいいや。身体の負担はかけたくないから」
「ふぅん。やっぱ無駄に尽くす妻だな、お前」
秋は呆れたように笑って腕を組む。そして思いついたように声を高らかに語った。
「それはそうと、やっぱり俺はタチの素質もあると思う。なぁ鈴鳴、抱かれるより抱く方が性に合ってるよな?」
「うん。秋はかっこいいから、正直タチだと思ってたよ」
「だろ?」
駅に着き、改札口で立ち止まった。互いに使う路線が違うから、ここで別れることになる。

「秋、今日はほんとにありがと。それと、ごめん。今度は普通に……。もう、あんな事は頼まないから」
真剣な気持ちで引き止めると、秋もこちらに向き直った。ちょっと声が震えて、周りの喧騒にかき消されそうになる。

「まだ、俺と……友達でいてもらえるかな」

それでも、そこだけははっきり口にした。
怖々返事を待ってると、秋は拍子抜けした様子で答えた。
「ばっか、当然だろ? 俺らは周りには絶対分かんない、特別な関係だし」
周りが騒々しい為、秋は声を張り上げた。鈴鳴は、それを聞いて嬉しそうに笑う。
「うん! ありがとう、秋!」

まったく……。

そういう所が危機感ないんだって言ってんのに。

秋は定期を取り出して自分の路線に向かおうとしたが、それを鈴鳴は慌てた様子で止めた。
「あ、待って! 今日のお礼というか……いや、本当は最初から渡すつもりだったんだけど。これを受け取ってもらえるかな」
彼は手に持っていたキャリーケースを差し出した。
「え? 何これ」
「俺の宝物。でも、ちょっと家に置いとくことが難しくなっちゃってさ。捨てるのはもったいないし、できれば俺の大事な友達に譲りたくて」





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