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和巳の一日
#3
しおりを挟む日差しが弱まり始めた頃、和巳は家を出た。今朝の約束通り、鈴鳴が通う大学へ行く為に。……ただ。
こっちの路線は使うの初めてだなぁ……。
早速乗り換えの主要駅で困惑した。構内が広すぎるし人が多すぎる。高校生の頃は用事がないと来なかったせいか、もうさっぱりだった。駅の中で迷子はちょっと悲しい。
ここさっきも通ったような気がする、というデジャブを何回感じたか分からなかった。
「あのー、すいません。ちょっと道をお訊きしたいんですけど……あ」
もう地図を見ることを諦め、通る人に訊こうとした。しかし皆早足で歩いてるため中々止まってくれない。
────わかった。トイレに行きたくて急いでるんだな。
そう思わないと心が折れそうだった。
広いわりにゴチャゴチャしてて尚さら分かりにくい。あと出口多すぎだ。本当に皆、こんな多くの出口を必要としてるんだろうか。
それでも何とか駅員を見つけ、乗りたい路線までの道のりは教えてもらった。
「えーっと、二番ホームは……」
改札を抜けて、何とか目的の駅に辿り着いた。もうここまででものすごいミッションを果たした気がする。
しかし、ここでまたぶち当たる壁があった。出口だ。出口はたくさんあるのにどこから出るべきか分からない。もっと簡単に行けると思って鈴に全然訊かなかったけど、これはナメてた。
でもここまで来たらスマホで調べて、自分の力で辿りつこう。そうすれば鈴にも胸を張って会いに行ける!
二十四歳で迷子でも大した問題じゃない。友人がいつも言っていた。俺達はいつだって人生という名の迷路をさ迷ってるじゃないか。
うん、大丈夫だ。俺にはこれがある。
いつも使ってるナビのアプリを開く。そこに鈴の通ってる大学名を入力しようとした……瞬間、充電が切れた。
タイミングが良すぎて逆に感動した。もう独力は無理だ。人に訊こう。
自分の不甲斐なさにがっかりして、また疲労が募る。心細さに肩を落としていたけど、ふと誰かに声を掛けられた。
「あの、大丈夫ですか? もしかして道に迷ってます?」
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