67 / 156
和巳の一日
#4
しおりを挟む「違ったらすみません。ちょっと気になってしまって」
「……!」
声を掛けてきたのは背の高い青年。正確な歳は分からないが、まだ若い。端整な顔立ちで気品があった。
立ち振る舞いや落ち着いた雰囲気から余計な推測までしそうになったが、我に返って頷いた。
「……迷ってます! 実は行きたい大学があるんですけど、どこから出れば良いのか分からなくて」
スマホの充電が切れたことも合わせて話すと、彼は自分のことのように親身に聴いてくれていた。ここに来て初めて人の優しさに触れたから、嬉しいあまりどうでもいい心情まで吐露してしまった気がする。
目的地を伝えると、彼は一層爽やかな笑顔を浮かべた。
「あぁ、その大学ならこっちの道から行くのが早いですよ。……時間あるし、近くまで一緒に行きましょうか」
「え、そんな。いいんですか?」
「もちろん。この駅大きくて迷ってしまいますよね。俺も初めて来た時はそうでした」
本当に、親切すぎて戸惑いさえ覚える。でもここは彼の好意に甘えて、近くまで案内してもらうことにした。
真面目そうに見えたけど案外気さくな人で、軽い冗談も言う。話し上手なことは確かだった。
駅から離れ、夕陽に照らされる並木道を歩く。鈴も毎日ここを歩いて行ってるのか。想像したら嬉しくなった。
一緒にいられなかった時間をこうして埋めていきたい。彼が辿った道の後を歩いて、何か一つでも発見して。……そして、共有したいんだ。
「ところで、学生さんですか?」
ワクワクしながら考えていると、彼は不思議そうにこちらを見た。
「あぁ、一応社会人です。その大学の子と待ち合わせしていて」
「そうだったんですね。……実は俺も、そこに知り合いがいるんですよ」
「え、ほんとに! 奇遇ですね!」
それには驚いて、ちょっと声が大きくなる。けど彼は小さく頷いたあと脚を止め、前方を指さした。
「ほら、もう見えてきた」
「わぁ、ここが……」
鈴の通ってる大学か。建物は綺麗でかなり規模が大きい。自然に囲まれてる外観が素敵だ。あれ、でも。
「あ。目の前まで案内してもらっちゃいましたね……!」
「あはは、いいんですよ。案外、話してると近かったでしょう?」
彼はまた優しく微笑んで、来た道を戻ろうとした。
「あっ……貴方は知り合いの方に会っていかなくていいんですか?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる