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和巳の一日

#12

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『言いたいことは分かるわ。でも大丈夫。お父さん、貴方に話したい事があるのよ。帰りづらいだろうけど……日曜日、和巳君を連れて帰ってきなさい。そしたら少しは気が楽でしょ?』
「えぇえそんなすぐ!?」
『ん~、今回は早い方がいいわよ。じゃあまたね』
それだけ聞こえて、電話は切れてしまった。

「はぁ……」

ちょっと……いや、ちょっとじゃないな。かなり嫌だ。和巳さんと一緒にあの家に帰るなんて、悪夢の再来じゃないか。気が重いけど、母さんは楽しみにしてる感じだったしどうしよう。
悩みに悩んだ末、家に帰ってから和巳さんに打ち明けた。すると彼は即答で、

「いいじゃん! それなら俺も一緒に行くよ。美味しいお土産でも買って行こう」
「えぇ、行くんですか!?」
「もちろん。大丈夫だから、一日ぐらい帰ろう? 怖がることなんか何もない。だってお前の家じゃんか」

和巳さんは俺を引き寄せると、耳元で優しく囁いた。その優しさは本当に嬉しい。自分のことみたいに心配して、解決しようとしてくれる姿も本当に有難く思う。
けど、やはり気分は浮かなかった。

帰りたくない。母だけならともかく、父と二人きりの空間とか考えただけで気が狂いそうになる。余裕で十時間は無言を貫けそうだ。
……父さんだって、自分の顔に泥を塗った息子の顔なんか見たくないんじゃないか。あの人はいつだって、俺が大人しくしてることを望んでいた。昔からそう。親戚の集まりの時も、聞かれたことしか答えるな、って言われていた。
「顔だけ見せたら、帰ります。十秒見せたら十分だと思うから……挨拶だけしたら、俺は即帰ります」
言ってからやばいと思った。和巳さんが真顔だ。
この人は怒ると黙るタイプだから、絶対に今ちょっと怒ってる。俺が往生際悪いから……あと、多分敬語に戻っちゃったからだ。

「ご、ごめん。10秒はさすがに早すぎるね。一分……いや、五分は家にいるよ」
「鈴」

ぐっ、と顎を持ち上げられて彼の顔を見上げる形になる。少し苦しくて情けない声が出てしまったけど、和巳さんは意に介さず話した。

「叔父さんと叔母さんは、お前のことを待ってる。……心配してるんだよ」
「……っ」

胸の中が熱くなるのを感じる。
ちょっと力を入れて、和巳さんの手を振りほどいた。

「母さんはともかく、父さんは心配なんかしてないよ。和巳さんなら分かるでしょ?」




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