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三人分の食事
#7
しおりを挟む彼は不安そうに人並みを見つめていたけど、俺に気付くと駆け寄ってきた。ホッとした表情で、ちょっと涙目にも見える。
「あぁ~良かった、見つかって! いないからびっくりしたよ」
「ごめんなさい……」
安心したせいで何だか俺まで涙目だ。予想が当たって良かったけど。
考えたら俺と和巳さんはここに来てから一度もトイレに行ってない。だから倖地君に確認することを怠ってしまった。小さい子なら常にトイレは大丈夫か確認した方がいいのに。
「トイレ行きたくなっちゃって……」
「大丈夫大丈夫。今度行きたくなったら遠慮しないで言ってね」
「うん」
もう大丈夫そうだったから、一緒に歩き出した。やっぱりちゃんと見てないと何が起きるか分かんないな。
ていうか俺達が子どもを預かるのは最初から無理があるんだって……。
項垂れてると、彼はぼそっと呟いた。
「……和巳お兄ちゃん、怒ってた?」
「いーや全然。倖地君のことが心配で泣きそうになってたから。泣きはしても怒りはしないよ」
「お兄ちゃんは?」
お兄ちゃん?
ちょっと考えて、俺のことだと分かった。
「はは、怒ってないよ。でも安心したら疲れちゃった。もう帰ろうか」
できる限りのスマイルで、彼を元気づけようとする。多分、この子も不安でしょうがないんだ。
俺の反応をよく見てる。なるほど、こういうところが俺とよく似てるって思ったのかもしれない。……和巳さんは。
「倖地君、今日も俺が夜ご飯作るから一緒に食べようね」
そう言うと、彼は初めて嬉しそうに笑った。
「ありがとう、鈴お兄ちゃん」
「……!」
初めて、兄と呼ばれた。
お兄ちゃん、か。なんて素晴らしい響きなんだ。思わず感激して立ち止まる。
ひとりっ子で親族に子どもが少ないから、年下は後輩ぐらいしか関わることがなかった。小さい子の世話もしたことないし、懐かれた試しもない。
昔、学校の実習で幼稚園に行かされた時は地獄だった。何故か園児から殴られたり蹴られたり、最終的には玩具のブロックを投げつけられたこともあるのに……初めて、俺を兄と呼んでくれる子ができた。
「倖地君。もう一回、俺のことお兄ちゃんって呼んで」
「鈴お兄ちゃん」
「ありがとう。それすごくいい……」
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