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三人分の食事
#8
しおりを挟む感動のあまり前が霞んでよく見えない。三歳から五歳は自分の我儘を貫き通す悪魔の時期だと思ってたけど、それは俺の勝手な偏見と先入観だった。その子によるのかもしれないけど……。
「倖地君、食べたいもの言ってね。何でも作るから」
「ありがとう。お兄ちゃん、何で泣いてるの」
「泣いてないよ。泣いてるように見えるなら、それは君の心が綺麗だから……」
詩人のような返し方をしてると、スマホの着信音が鳴った。誰かと思って画面を見る。今はすっかり見慣れた名前が表示されていた。
「あ、和巳さん」
いかん、すっかり忘れてた。俺が突然猛ダッシュしたからはぐれてしまったんだ。申し訳ないと思いつつ、すぐに電話に出る。
「もしもし、和巳さん? もう心配いらないよ、倖地君見つかったから……」
『鈴! 大変なんだ、今どこ!? 俺が迷子になった! お願い迎えに来て!』
「…………」
和巳さん……。どうもパニックになって、倖地君のことはすっかり忘れてるようだ。
『マップを見ながら歩いてたんだけど全然見つからなくて、どんどん訳わかんなくなったんだ!』
「お、落ち着いて和巳さん。近くに何の動物がいる?」
『え? あ……ゾウガメ!』
「わかった。すぐ行くから絶対そこから動かないでね!」
何だかやるせない気持ちになったけど、電話を切って、不思議そうに見上げてる倖地君に説明する。
「倖地君、和巳さんを迎えに行こうか」
「和巳お兄ちゃんはどこにいるの?」
「ひとりでゾウガメを見てるんだって」
和巳さんのメンツを考えると本当のことは言えない。彼と手を繋いで、苦笑混じりに返した。本当、忙しなくて落ち着かない。そこらで遊んでる子どもより心配になってくる。
いつまで経っても変わらない、俺の好きな人。
懲りずに心配してしまうんだから、俺もやばいな。
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