双凶の妖鬼 蒼 ~再逢~

utsuro

文字の大きさ
172 / 266

人の所業 2 ※R15

しおりを挟む
 灼熱の火の玉のような怒りを飲み込んだまま、衣をひるがえし男たちに背をむけた白妙の顔は、胸のうちで燃え盛る業火とは正反対に・・・冷え冷えと色を失い死霊のようだ。

 固く閉ざされた重く厚い扉の向こうに、囚われていた海神わだつみを見つけ、その姿を目にした白妙は、あまりの仕打ちに言葉を失った・・・・・。

 衣は無理やりはぎ取られたのだろう。
 海神の雪のように透き通った美しく白い肌は、かび臭い地下牢の湿った空気の中、むき出しにされている。
 引き裂かれた衣が、申し訳程度にその四肢に絡みついていた・・・・・。

 汚れたまま捨て置かれた身体や顔をみれば、犯されていないとはいっても・・・口にすることをためらうような忌まわしいことを、あの男たちに好き放題にされていたであろうことは、一目瞭然だ。

 ・・・・・・海神わだつみの強靭な肉体に、ただの人が傷をつけることなどできはしない。
 恐らく肉体を傷つけることを諦め、呪いか何かを用いて彼の自由を奪ったのだ。
 淫らな行いでとことん辱め、追い詰め、彼の心に傷をつけることで、溜飲をさげることにしたのだろう・・・・・・。

 頑強なかせで手足を繋がれたまま床に打ち捨てられている海神わだつみを、そっと抱き起こす。
 白妙は袂から繭を一つ取り、中から肌触りのよいまっさらな布を出すと、海神の冷えた身体を素早く包み込んで、きつく抱きしめた。

 意識を取り戻したのだろうか、海神がわずかにみじろいだ。

 「白・・・妙・・・・・?」

 うっすらと瞼を上げ朦朧としたまま白妙を見つめる彼の目は、白妙が今確かにここに存在しているのだと気づいた途端、衝撃で大きく見開かれていく。
 深い哀しみと絶望的な羞恥に瞬く間に染まりながら、それでもなお、海神の美しく澄んだ瞳の奥は光を失わずにいた。

 白妙しろたえは、何も言葉にできなかった・・・・。

 海神の冷え冷えとした表情かおの陰に隠された温かすぎる心を想うと、彼に今涙をみせることは間違っているのだと感じ、溢れそうになる涙を震えながら喉の奥へと飲み込んだ。

 海神わだつみが、甘んじて人の制裁を受け入れたことは、火を見るよりも明らかだ。
 彼ほどの者が、切り抜けることができないわけはないし、捕えられる前にここを破壊して逃げることなど、赤子の手をひねるよりたやすいことなのだから・・・・・・。

 力の入らない身体で自分を押しのけて立ち上がろうとする海神わだつみを、無理やり腕の中に閉じ込めながら、白妙は耐えきれずに邪な手段を選んだ。

 「暴れるな、海神わだつみ。・・・・・・お前は、大丈夫だ。」

 白妙しろたえは哀しく微笑むと、呼吸を乱し震え始めた海神わだつみの優しい色の瞳を覗きこんだまま、二つの額を静かに合わせ、彼の心にえぐる様に刻まれた暴行の記憶を、綺麗に消し去っていった・・・・・・。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...