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14話、討伐隊(1)
しおりを挟むサウエム荒原には、スカイロックと呼ばれる大きな岩山がある。
天を突き抜けるほどの大きな岩山だ。
登っている五つの人影がある、中腹はだいぶ先に通り過ぎたのであろうか? 人が二人程度なら通れるほどの道なき道を進む一行は足場を確認しながら確実に歩みを進めていた。
ハァ、ハァ、ハァ……
メンバーはラーナ、イヴァ、クラウディア、クリスタ、アンの五人。
珍しい組み合わせ、やはり誰が行くかを選ぶ際も一悶着あったのだった……
(目的地は岩山の上、敵は動きも多少は掴めてる必要なのは……)
ラーナは少しだけ悩む。
一人ではロック鳥を相手取ることはできないのは、分かっている。
幸いアンの説得によって、クラウディア達も手助けをしてくれることになったのだが、いかんせん戦闘能力が未知数なのだ。
「ソフィアは留守番、イヴァは連れて行くからそのつもりで」
「っえー、ラーナ嘘じゃろ? 妾は行きたくないのじゃー、岩山を妾が登れるわけ無いじゃろー、妾は運動は苦手なのじゃ」
「ダメ、テレポートでいいからついてきて!」
ラーナの中ではイヴァの参加は決まったことらしく、譲る気は微塵もなさそうだ。
(イヴァがいないと、持っていける荷物が限られる)
「いやじゃー、またロック鳥に会うなんて怖いのじゃ!」
「リリを助けるためにだから、お願いイヴァ」
珍しく命令口調ではなく、しおらしく頼んでいるように見えるラーナ。
それを見てイヴァも反論の言葉をつまらせた。
「……それでも無理じゃ、妾はあの鳥に刃向かえる実力はない……それどころか立ち向かう勇気もない、正直に言えば怖いのじゃ」
「……」
(完全に腰が引けちゃってる、試しに物で釣ってみるかなぁ?)
「付いてきてくれるなら、ファイアフラワーの実、あげようか?」
「っえ!! そんな珍しいもの……いやっ、持ってるわけがなかろう」
一瞬イヴァの声が上ずったが、直ぐに俯き元のトーンに戻る。
「ルベルンダなら珍しくもないし、そこそこ取れるよ? カバンの中にあるんだけどなぁ……ダメ?」
長寿の種族として知られるダークエルフ。
暇つぶしもできないない環境、その中でも特に箱入りに育てられたイヴァは、密かに植物を集めてはニヤけるという変わった趣味があった。
もちろんイヴァに興味を持っていないラーナは知る由もない。
「ファイヤーリーフの種……は、欲しい……」
ラーナは手持ちの中で、一番高価で珍しいものを提示しただけに過ぎないのだが、交流の一切ないルベルンダで自生する植物は、本土ではとても珍しい部類に入っていた。
「はいはーい、そんな珍しいもの、私もほしいー」
ソフィアが急に手を上げて口を挟む。
彼女も錬金術師として、珍しいものには目が無かったのだ。
「ソフィアは黙ってて、あげないし」
「そんなー、酷いじゃないかぁ」
しかしラーナに一蹴されてしまった。
そんなやり取りを気にも留めずにまだ悩むイヴァ。
「うーん……じゃが……」
(……あー考えるのも説得するの面倒くさくなってきたー)
ラーナは人との付き合いの経験が少なく、元々の性格が真っすぐで素直なのも相まって、交渉事が苦手だった。
なので早々と諦めて、投げやりに言う。
「わかった、もういい」
「っえ!」
ラーナの言葉に、イヴァの声が少し明るくなる。
「そこまで嫌なら、麻酔で眠ってるうちにボクが抱えて連れてく」
ラーナの頑なな意志と滅茶苦茶な提案、イヴァは逃げられないと悟ったのか
「……ついてく、付いて行けばいいんじゃろ? ただファイアフラワーは貰うでの!」
そう自暴自棄に答えた。
「それで? ラーナちゃん残りのメンツはどうするんだい? この馬車6人乗りだろう?」
話の流れから、自分は行かなくて済むことが分かったソフィアは、強気に話を進めだした。
そこにクラウディアが、割り込むように口を出す。
「わたくし達は付いていきますわよ」
「っん? っえ、お主ら馬鹿なのかや? 自分から好んでロック鳥に会いに行くなんて……馬鹿なのかや?」
(イヴァ二回言った、本気で行きたくなかったんだなぁ)
「別に無理してまでクラウディア達は来なくていいよ?」
ラーナは優しさ半分、揉め事を避けたい半分でクラウディアに提案をした。
「あなた達は、わたくしに無理やり馬車を出させておいて、いまさらそれは無いんじゃありませんの? わたくし達も行きます!!」
しかしクラウディアは、ラーナの提案を正論で返した。
「見たことないからそんなことが言えるんじゃ、ラーナでも太刀打ち出来んのにお主らじゃ無理に決まっておろうに」
「因みに、危険なのになんでついてきたいの?」
(クラウディアがそんなに戦い好きなイメージは……ないこともないけど、普通は怖いし嫌なんじゃないの?)
率直に素直に聞くラーナに、クラウディアはジッと押し黙る。
そして少し考え口を開く。
「伝説のロック鳥を万が一にでも討伐なんてしたら、その功績は計り知れないのよ」
「なるほどね」
「そんな栄誉を亜人だけに任せるわけには行きませんの、ましてやハイ・オークとダークエルフだけなんて、貴族として高みで見物など出来ませんわ」
(貴族の矜持ってやつ? ボクはその考え嫌いじゃないけど)
「何を言っとるのじゃ? 高いところに登るのは妾たちじゃぞ?」
「イヴァは物覚えはいいのに、バカだなぁ……クラウディアは一人でいいの?」
ラーナの質問にエマがいやいやと、大きく手を振り、口を挟んで来る。
「はぁーなにを言っているのですか、この子鬼は? もちろんお嬢様をお一人で向かわせるわけないでしょ? 私達四人にそっちが二人、これで丁度じゃない、あんたは数の計算もできないの?」
一同が話し合いをしている最中。
後ろからガチャガチャと音を立て、アンが近づいてくる。
「遅れて悪いな、久々だったからこの盾を探すのに手間取っちまってな」
「アンも行くの?」
「もちろんさ、この中で前衛で盾役を張れるのは、アタシぐらいだろうからな」
プレートアーマーに身を包み、身の丈ほどの大きな剣とラーナが隠れるほどの大盾を持っている。
同じ前衛のラーナやエマと比べて、かなりの重装備だ。
確かにこれほどの装備は、体格のいいアンにしか無理なのだろう、エマも絶句していた。
「だってさ、あれは重さ的に二人分だね」
ラーナがエマの顔を覗き込み、からかうように言い放つ。
エマはアンの言い分に反論もできず、ただ黙りながらラーナを睨みつけている。
それを見ていたクラウディアが、止めもせず淡々と冷静に話しだした。
「では、わたくしとクリスタが同行しますわ」
「足手まといになるなら置いてくから」
「大丈夫ですわ、わたくしは天才ですもの、魔法もそれなりに使えましてよ」
胸を張り答えるクラウディア、口を出さず後ろでずっと控えるクリスタ。
急にラーナが二人に向かって、目にも留まらぬ速さで投げナイフを投げた。
キンッ! キンッ! シュバ!
クリスタは投げられた二つのナイフを上へ弾くと、宙に舞い上がるナイフを手に取る。
同時にクラウディアが腰のレイピアを突き、文字通りラーナの目の前で寸止めした。
「この鬼! なにをしてますの!」
「やはり醜悪な本性を出しましたわね!」
一連の動きを追えずに見ていた、エマとディアナがラーナに向かって激怒する。
「二人ともお黙り! テストは合格でよろしいですわね?」
二人を武器を持たない左手で制し一喝したクラウディアは、得意げにラーナに聞く。
対してラーナは、目の前にあるレイピアの切っ先に微動だにせず答えた。
「最低限は動けるみたいだね、オーケー5人で行こう!」
(これなら大丈夫かな、まぁいないよりはマシかなぁ)
クラウディアに異論を唱え、ラーナに怒声と罵倒を言うエマとディアナ、二人を無視してラーナは馬車へと向かう。
その足取りはゆっくりとしていながらも決して重々しくはなかった。
その小さな後ろ姿を見ながら、クラウディアはホッと溜息を付き、胸を撫で下ろすとレイピアを腰に戻した。
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