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セルフィ レリオーロル5
しおりを挟む「ーーおい、貧乏人」
「!」
前世を思い出し、スッキリしていたが、今現在ピンチである事に変わりは無い。
そんな中、頭上から降ってきた声に、私は顔を見上げた。
「セルフィ?」
そこには、落とし穴の上から、顔を出して下を覗く、不機嫌丸出しの表情を浮かべたセルフィがいた。
「あれ?何でここにいるの?」
予想だにしなかった人物の登場だ。
こいつは、さっきまでの実技の授業で、最高評価を叩き出し、いの一番に授業を終えて、この場から去ったはず。
「それはこっちの台詞ね。何?貧乏人は暗くてジメジメした場所が好きなの?」
何だこいつ。私が好きで落とし穴に落ちたとでも思ってるのか?
「そんな訳無いでしょ。落とされたの」
「落とし穴に?馬鹿なの?こんな乱雑で粗末な落とし穴、普通落ちる前に気付くでしょ」
悪かったな。その落とし穴にまんまと引っ掛かったんです。何?私の危機的状況を察知して、笑い飛ばしにでも来たのか?暇人か!
サクラならーーー大魔法使いだった頃の私なら、回復魔法使って、浮遊魔法使って、穴から脱出すればお終いなんだけど、残念ながら、今のヒナキでは、満足に魔法は使えない。
全体的に魔力が少ない。こんな魔力じゃ、空は飛べないし、傷は癒せない。
「……はぁ。《浮遊魔法(レリオーロル)》」
「!」
そうセルフィが呪文を唱えると、私の体が浮き、落とし穴を抜け、地面まで運ばれた。
ゆっくりと地面に下ろされる。
「どーーーどうしたの?調子でも悪い?」
「は?」
助けられた?いや、落とし穴から救い出したくれたのだから、実際助けられたのだろう。でも、にわかには信じられなくて、思わず本人に体調の是非を聞いてしまった。
だって、今までの態度から見ても、高貴で生意気な意地悪王子様が、貧乏人を普通に助けると思う?頭でも打って、朦朧としてるから、貧乏人を助けたとか?
は!あれか、何か金品を要求してくるとか?貧乏人に?金持ちが?新手の嫌がらせ!?
「そこは素直にありがとうって言えないわけ?」
「……本当に助けてくれたの?」
意外と良い所あるんだ……!性格破綻者の性悪王子だなんて思っててごめん!
「貧乏人がいつまでもグラウンドの穴に埋まってたら迷惑でしょ?間違って野垂れ死にでもされたら、流石に問題になるし、それで学校が休みになったら困るんだよね」
うん、前言撤回しよう。こいつ……マジムカつく。
「じゃ、用は済んだから」
「あ!ちょっと待ってよ!私、足怪我してて動けないんだよ?!」
背を向け、その場から離れようとするセルフィを、慌てて止める。
「だから?」
「だからってーー1度助けたんだから、最後まで責任持って助けてよ」
「何その理屈」
「お願い!このままじゃ授業間に合わなくなっちゃう!」
前世の記憶を呼び戻したことだし、前までは座学の授業ちんぷんかんぷんだったけど、今ならきちんと理解出来るかもしれない!
それに、学校に通うのは、サクラだった頃の夢でもある。あの当時は世界平和の為に冒険ばっかしてて、学校になんか通えなかったし……普通に女子高生してみたかったんだよね。
「君が困ろうが何しようが、俺の知った事じゃ無い」
一刀両断。頼みを冷たく断られる。
そうだよね。そんな奴だよね、お前。分かってはいたけど、ほんと、血も涙もない奴だな。
「先生に欠席するってだけ伝えてあげるよ」
そのまま、一切、振り向きもせずに校舎に向かうセルフィ。
「薄情者め…!」
さて困った。
落とし穴の中にいるよりも状況は改善したけど、足の怪我はそのままだし、痛くて動けない。
「はぁ。もう授業は諦めるしか無いか…」
魔法クラスのグラウンドと言えど、武術クラスのグラウンドは隣にある。穴の中にいる訳じゃ無いから、グラウンドに来た誰かがきっと見付けてくれるだろう。
魔法クラスの貴族連中に期待は出来ないから、他クラスにいる一般の生徒が助けてくれるのを期待するしか無い。
「折角だから皆勤賞とりたかったのに…」
「大丈夫ですよヒナキ。皆勤賞、取りましょう!」
「わぁ!びっくりした!」
見上げた空に向かって独り言を言っていたつもりだったのに、急に返事が返ってきたから、驚いた。
「アル!」
振り向くと、そこにはニコニコ笑顔のアルの姿。
「はい。足、怪我してますね。僕が治しますよ」
直ぐにヒナキの足の腫れに気付いたアルは、スムーズな動きで、ヒナキの足に手をかざし、小さな声で呪文を唱え、回復の魔法をかけた。
キラキラしたオレンジの光が、腫れている足を包み込む。
「はい。終了です。まだ完全に治った訳では無いので、気を付けて下さいね」
「……」
足の腫れは大分引いたけど、まだ痛みは残ってる。アルの言葉通り、完全には治せていない。
「ありがとう」
回復魔法として、初期の初期の魔法しか使えないという事か。と、思った。
アルの魔法の実力もしかり、他クラスメイトの魔法の実力も、まだ私は詳しくは分からない。今までは自分でいっぱいいっぱいだったし、魔法の理解が無かったから。
でも、アルはクラスメイトの中でも、回復魔法の使い手として、優秀だと先生に褒められていた気がする。
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