そちらが私を婚約破棄して国外追放したのですから、もう放っておいて下さいませ

光子

文字の大きさ
2 / 20

2話 特別な力

 

 ◇◇◇

 ヤロン様に婚約破棄と国外追放を告げられてすぐ、私はお父様とお母様、弟の《ウェイド》と緊急家族会議を開き、今後の身の振り方を相談致しました。
 弟のウェイドはまだ十二歳。私のいざこざに巻き込んで国を出て行くことになって申し訳ないですが、当の本人は新しい土地に行くことに乗り気で、ドレスファン国の貴族の肩書も全て失うことになることも、全く気にしていないようでした。

「姉様、隣のおじちゃんが野菜のおすそ分けくれたよ」
「まぁ、ありがたいですねぇ」

 会議の結果、取り敢えずいち早く国を出ようと結論付け、その日の内には必要最低限の荷物をまとめ、ドレスファン国から出発し、ドレスファン国から近い隣国《大和やまと》国で、一時的な仮住まいとして家を借りて過ごしてる最中でございます。
 長年住んだ国や家から離れるのは寂しくないか? と聞かれれば、一切そんなことはございませんと答えます。ドレスファン国にはほとほと愛想がつきかけておりましたし、私達が住んでいた家は、長年住んでいた家ではないからです。
 あの家は私の婚約が決まり王都に呼び出された時に用意された家でして、現在私が十七歳、婚約が決まったのが十二歳で五年は住んでおりましたが、忙しさにかまけて家で過ごす時間はなく、殆どが寝に帰るためだけの家でしたので、なんの愛着もございません。それならば、産まれた時から婚約が決まるまでの幼い間に過ごした家から出る時の方が、寂しかったくらいです。

「姉様や父様、母様と一緒に過ごす時間が増えて、僕、嬉しいな」

 まぁ、なんて可愛い弟なのでしょう。
 でもそう言わせてしまうのは、今まで私やお父様にお母様、家族が家で過ごす時間がなく寂しい思いをさせてきた証拠でしょう。猛省致しますわ。

「カナリア、ウェイド! 帰ったぞ!」
「あー日が落ちるまでに帰れるって素敵ね! ただ今! 可愛い私の娘、息子達!」

 順応力は人一倍強い家族の集まりですので、国が変わろうが生活が変わろうが、平然と受け入れることが出来ました。あんな息苦しい場所で過ごすより、息がしやすくて快適ですねぇ。ヤロン様の婚約者だった時は、朝から晩まで机に張り付いて事務仕事を行っておりました。婚約者とは無限に働かせることが出来る奴隷の意味だったかと、何度も辞書を引いたものです。

「さて、そろそろ移動しようと思うのですが、どの国を目指しましょうか?」
「大和も過ごしやすくて好きなのだけど、ドレスファン国と近すぎるのがお母さん嫌だわー」
「そうだな、まだ陛下は帰ってきていないから大丈夫だと思うが、陛下が帰ってきたら必ずカナリアを連れ戻そうとするだろうからなぁ」
「あっちから国外追放したんだから、止めて欲しいよね」

 家族揃って、小さなテーブルを囲って食事をする。
 王室で用意されていた食事は豪華だったけど、忙しさで流し込むように一人で食べる食事は全く味を感じませんでした。目の前にある食事は決して豪華とは言えない質素なものですが、王室の食事よりも遥かに美味しいですねぇ。味がする食事、家族とお喋りをしながら食事の時間。ああ、とても幸せですわ。

「おーい、カナリアちゃんっと、なんだ、家族全員いるのか」
「あらおじ様、野菜の差し入れありがとうございましたぁ。とても美味しく頂いておりますわぁ」

 この方は近くに住んでいらっしゃるおじ様でございます。
 私達家族にとても親切にして下さって、野菜などの差し入れもして下さるのです。実はこの家を貸して下さっているのも、こちらのおじ様なのです。ドレスファン国を脱出して、取り敢えずの体制を整えるための家を探していた最中でしたので、本当に助かりましたわぁ。

「相変わらずド丁寧な口調だなカナリアちゃん。って、それはいいとして、あんた等ドレスファン国から来たって言ってたよな? ドレスファン国からの旅行客がいるんだけど、大和の国のみたいだから、通訳してやってくんねぇか?」

「――――かしこまりました。お任せ下さいませ」

 席を立ち、スカートの裾を持ち上げ、丁寧に頭を下げる。

「カナリアちゃん、どこぞやの国の貴族みてぇなことすんな」
「まぁ貴族だなんて、私には過ぎた身分でございますわ」

「姉様、僕が行こうか?」
「お母さんが行こうか?」
「父さんでもいいぞ」

「大丈夫ですよ、少し行って参りますねぇ」

 当然のことでございますが、国が変われば、文化も食事も作法も、

「《何かお困りごとですか?》」

「! 《ああ、良かった! やっとドレスファン国の言葉が分かる人に出会えた! 助けて下さい! 道に迷って帰る場所が分からないんです!》」

「《まぁ、それは大変ですねぇ。お任せ下さい、帰る道筋をお教えしますよぉ》」

「《ありがとうございます!》」

 国を渡る最初の難関は、言語の違いでしょう。言葉が分からなければ、意志疎通が出来ません。ですが、私達にその不安はございませんでした。

「凄いなぁカナリアちゃん、大和の言葉もドレスファン国の言葉も喋れるんだもんな。てか、現地人かってくらい上手だもんなぁ」

「恐れ入ります、ですが、大和の言語は私だけではなく父や母、弟も喋ることが出来ますので、私だけが特別優れているわけではございません」

「そーだな、あんた等普通に家族全員ペラペラに話せるもんなぁ」

 そうです、私達家族は、ドレスファン国でとしての役割をこなしておりました。
 お父様は二十ヶ国語、お母様は十五ヶ国語、ウェイドはまだ十二歳で働いてはおりませんでしたが、十ヶ国語話すことが出来ます。自国だけで過ごす方には必要のない能力ですが、沢山の国との交流を必要とするような立場の方には、必要不可欠なものでしょう。

「カナリアちゃんは何か国話せるんだ?」

 私でしょうか? 何か国語、と問われれば、分からないとお答えするしかありません。
 言語は国の中でも色々と形態を変えたりするものですから、私達が知り得ない数存在していると思うのです。それらを全て数として把握することは不可能ではないでしょうか。

「カナリアちゃん?」

 あら、また考え事をしていて返事を忘れていましたねぇ。ヤロン様がいたら、またノロマと罵られるところでした。

「ふふ、秘密ですわ」

 数では表し切れません。だって私は、全ての言葉を理解出来る特別な力を持つ者――――《言語能力者》なのですから。

 外交を私達ミンティア子爵家に頼り切りだったドレスファン国、王家の皆様。
 外交の頼りを失ってしまって、あの国はどうなってしまうのでしょう。ああ、でも国外追放された私ごときが心配することではありませんよね。きっと、真実の愛とやらを見つけたヤロン様とキラリリア様なら、どんな困難でも立ち向かっていくことでしょう。
 願わくば、ドレスファン国の平穏が続くことを遠く離れた場所からお祈りしていますね。



あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※短編です。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4800文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました

er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?

「子守唄なんて歌ってないで働きなさい」と追放された令嬢——彼女がいなくなった孤児院で、子供たちが夜ごと叫び始めた

歩人
ファンタジー
「お話を読むだけの女に給金を払う余裕はない」——王都孤児院の語り部を務めていたイレーナ伯爵令嬢は、新任院長にそう告げられて追放された。三年間、毎晩三十二人の子供に物語を読み聞かせた。同じ話は一度もしなかった。火を怖がるトーマには「竜が友達になる話」を。母の記憶がないリリには「星になったお母さんが見守る話」を。一人ひとりの心の傷に合わせた、イレーナだけの物語。追放から三日後、子供たちが眠れなくなった。一ヶ月後、三人が脱走し、五人が口をきかなくなった。辺境の図書館で読み聞かせを始めたイレーナのもとに、孤児院の子供が一人、二百キロの道を歩いてきた。

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。