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17話 フォルク様の妹
しおりを挟む応接室に通されると、フォルク様は私に許可を取ってから、コリー様に私の事情をお話した。
「クレオパス子爵ですか。あまり良い噂は聞きませんね」
「……ジェイド様をご存知なのですか?」
「はい、何度か社交界でお見掛けしたことがあります。僕は一応、彼と同じ子爵位なので」
フォルク様はジェイド様の顔もご存知無かったが、コリー様は、親しくは無いが、認識はしているといった様子だった。
「彼は爵位や立場によって態度を変える人物で、同じ子爵位でも、兄にセントラル侯爵がいる僕には、分かりやすくゴマをするような方ですが、他の子爵位、まして男爵位で、お金も持っていないような家には、横柄な態度をとっていましたね」
ジェイド様……社交界でもそんな感じなんですね。
私の生家であるグローリア男爵家は、男爵家にしては裕福でお金があったから、良い顔をして近付いてきたんですね。お父様が私に残した遺産と、無償の家政婦を得るために――
「そういうことでしたら、落ち着くまではどうぞこちらにいて下さい」
「いいんですか!?」
お願いしておいてなんですが、絶対に断られると思っていました。
「事情が事情ですし、クレオパス子爵の手から守るには、ここが一番だと思いますよ」
い、いいの? ただの市民の薬師を、侯爵邸に置いていいの!?
「兄さんのご友人ですし、お断りする理由がありません」
「あ、ありがとうございます」
「良かったな、ソウカ」
コリー様は物腰の丁寧な、眼鏡をかけた知的な人で、フォルク様と同じ、心の優しい人なんだな。っと思った。
崩れ落ちた足元が、ゆっくりと、治っていく。
「ここが、妹の部屋だ」
次に案内されたのは、フォルク様の妹である、アンシア様のお部屋。
「アンシア、入るぞ」
ノックし、部屋に入ると、そこには、絶世の美少女かと思うほど綺麗な顔をした少女が、ベッドで休んでいた。
この方が……アンシア様。フォルク様の妹であり、お義母様達と同じ、魔力病患者。
「……何しに来たのよ」
私達の訪問に気付いたアンシア様は、目を開け、顔だけをこちらに向けた。
フォルク様と違い、ピンクの髪をしたストレートの長い髪、髪と同系色の瞳は、体が弱っていながらも、力強い眼差しだった。
「新しい薬師を紹介しに来たんだ」
「もういいわよ! どうせ私は治らないんだから、放っておいて!」
少し声を出すだけで、アンシア様は辛そうに見えた。
魔力病は、時に強い痛みと苦しみを与え、徐々に体が弱ると、歩くことすら困難になり、ベッドの上から出れなくなってしまう。ベッドの上で、ただひたすら、死に怯える生活は、辛く悲しいものだろう。特に、アンシア様はまだお若い。フォルク様とは年の離れた妹だと聞いていたけど、まだ十五、十六歳に見える。そんな歳で、急に病気になるのは……とても辛いですよね。
「フォルク様、私が、アンシア様とお話しても良いですか?」
「ソウカ、だが……」
「大丈夫ですよ」
病気で苦しんでいる患者が、薬師に強く当たることは、珍しいことじゃない。
コルンでも、強い口調で私を責める患者がいた。『早く治せ!』やら、『苦い薬を飲ますんじゃねぇ!』やら。でも、都度対応してきた。私も駆け出しとは言え、薬師ですから。
「……分かった。では、妹をよろしく頼む」
フォルク様はそう言い残すと、私を残し、部屋から出た。
「初めましてアンシア様。私はソウカと申します」
「帰って。どうせ兄さん目当ての大したことない薬師でしょ? 私には必要ないから」
取り付く島もなく、そっぽを向けられる。
「急に来てしまってごめんなさい。でも、私はどうしても、アンシア様のお力になりたいと思っています」
「……」
「また、明日来ます。いつでも、辛い時は私を呼んで下さいね」
そう言い残して、私も、部屋を出た。
「ソウカ」
部屋を出ると、私を待っていたフォルク様が、心配そうに声をかけた。
「妹がすまない」
「いいえ、いきなり面識のない私が行っても、信頼してもらえないのは当然のことだと思います」
「……妹は、アンシアは、とても努力家で、贔屓目無く、優秀な子だった」
貴族社会の女性は働くことを良しとされず、家に入るのが一般的なメリエルラシア帝国で、誰よりも勉学に励み、いつかは、兄の下でセントラル侯爵家の事業を手伝いたいと話すような、努力家で夢を持つ少女だった。
それが一年前、魔力病を発症し、夢を叶えることも、生きていくことも難しくなった。
体が思うように動かなくなって、いつしかベッドから起き上がれなくなり、激しい痛みと苦しみが、予告なく襲う。それがどれほどの絶望となって、彼女に降りかかったのか。
「ソウカから魔力病の話を聞いて、ソウカは以前、魔力病患者を診たことがあるんだと思った。私は、今まで魔力病患者に接したことが無く、妹が初めてだったから、ソウカなら、少しでも妹の力になれるんじゃないかと思った」
魔力病を治したい。その思いも、一緒だった。
「後は、見て分かるように、妹に嫌われていてね。私ではもう、診せてもくれないんだ。同じ女性であるソウカなら、妹も心を開くんじゃないかって思ったんだ」
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