夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子

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18話 アンシア様と私

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 だからフォルク様は、私にアンシア様を診てもらおうと、私の家を訪れたんですね。そこで、ジェイド様に乱暴にされる私を見て、助けに入った。

「ソウカは、私やコリーに迷惑をかけることを気にしていたが、私達はアンシアを心から心配している。アンシアを診てくれるなら、それは、こちらから頭を下げて、お願いしたいことなんだ」

 フォルク様もコリー様も、心からアンシア様を心配している。その思いは、私が、両親やお義母様を思う気持ちと、同じ。

「……分かりました。私がどれくらいお力になれるかは分かりませんが、私も、アンシア様の病気を治すお手伝いをさせて下さい」

 このまま、アンシア様が孤独のまま亡くなるのは嫌。
 お義母様を治すことが出来なかった私だけど、それでも、諦めたくない。お義母様を救えなかった分も、アンシア様を救いたい。
 絶対に――アンシア様を救ってみせる!


 その日から、私はセントラル侯爵邸に小さな部屋を借り、毎日毎日、アンシア様の部屋を訪ねた。

「アンシア様、見て下さい。お庭で綺麗な花が咲いていたので持って来ました。アンシア様はどんなお花がお好きですか?」

「アンシア様、昨日はどんな夢をご覧になられましたか?」

「アンシア様、最近、雨が続きますね。ここはまだ穏やかですが、地方によっては激しく振っている場所もあるそうですよ」

 返事は一切返ってこなかったが、毎日、決まった時間に顔を出し、数分、会話をして部屋を出る。そんな毎日を送っていた。

「アンシア様、今日は私の得意な香草茶を作って来たんです。ご一緒にいかがですか?」

「……飲めるワケないじゃない、体がしんどくて、起きれないんだから」

「!」

 すると、痺れを切らしたのか、アンシア様はついに私の声に答えて下さった。

「お薬を飲んでいないと聞きました。苦いお薬は苦手ですか?」

「あんなの飲んだって、治らないじゃない! ずっと苦しくてしんどいばっかり! もう嫌なの!」

 悲痛な叫びは、彼女の心の内を現した。
 治らない未知の病に侵されて、アンシア様は、病気を治すことを諦めてしまったんだ。

「……私のお義母様も、アンシア様と同じ、魔力病でした」

「!」

 アンシア様と接していると、自然と、お義母様のことを思い出す。

「お義母様も……ずっと苦しかったですよね。でも、お義母様は私のために、一生懸命頑張って下さいました」

 文句も泣き言も一切言わず、ただ、私のために、一生懸命生きてくれた。

「アンシア様、アンシア様のこと、フォルク様もコリー様も、皆が心配しています。生きていて欲しいと、強く願っています。だから……もう一度だけ、頑張ってみては下さいませんか? 私も、アンシア様のお力になれるよう、頑張ります」

 勝手な思いを口にしているのは分かっている。でも、どうか諦めないで欲しい。

「……出ていって」

「アンシア様……」

「出ていって!」

「……また、明日来ます」

 頑張って欲しいなんて、その苦しみも変わってあげれないのに、なんて身勝手なことを言ってしまったんだろう。

「お義母様を治せなかったくせに……ね」

 自分の無力さを嘆くばかりだけど、嘆いていても、アンシア様をお救いすることは出来ないから。
 私はアンシア様の部屋を出ると、そのまま、セントラル侯爵邸の庭へ向かった。


 ◇◇◇


「――はぁ、はぁ、っ! 痛……い!」

 その夜中、アンシアは、魔力病特有の強い痛みに襲われた。
 今まで、兄や他の薬師が作った色々な薬を飲んだが、どれも、痛みを取り除くどころか、緩和することすら無かった。ずっと痛みに耐え、苦しみ、そんな自分に、兄達はずっと付き添ってくれた。

「ううっ!」

 アンシアはそれが嫌だった。自分が兄達の足枷になっていると思った。それからは兄を拒絶して、誰も助けを呼ばず、一人で苦しむようになった。

(どうせ死ぬんだもの……もう、早く楽になりたい。兄さん達の足枷になっているのは嫌なの)

 そう思って拒絶したのに、こんな風に痛みに耐えて苦しむ夜、誰も来ないのに、自分がそうさせたのに、一人は心細い。寂しい。誰か、助けて欲しい。

(兄さん……ごめんね)

 冷たい態度を取り、傷付けてしまっている兄達に、アンシアは心の中で謝罪した。

「アンシア様」

「はぁっはぁ」

 痛みが強くて、苦しくて、意識が朦朧とする中、誰も来ないはずの部屋で、心配そうに自分の名前を呼ぶ声がした。

「大丈夫ですよアンシア様、傍にいますからね」

 温かい温もりが、手から伝わると、ふと、良い香りが鼻を掠めた。

「柑橘系の香りにしてみたのですが、アンシア様はお好きでしょうか? また、アンシア様の好きな香りを教えて下されば、今度はその香りのする香薬を作ってきますね」

(香り……薬? いい匂い……こんな風に思うの、久しぶり……)

 香りを楽しむ余裕なんて、病気になってから一度も無かった。

「魔力病の痛みは辛いですよね。眠ってしまいましょう。明日には、痛みは引いているはずですから」

(眠れるわけ……ない。ずっと、痛みに耐えて苦しまないと、終わらなかった……のに)

 なのに、何故か瞼が重い。眠気が襲って、今にも意識を失ってしまいそうだった。

(嘘……眠れるの? いつも、ずっと苦しまないといけなかったのに)

「お休みなさいアンシア様、良い夢を」

 そのまま、アンシアは痛みを忘れ、夢の中へ眠りについた。


 ◇◇◇

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