夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子

文字の大きさ
28 / 35

28話 セントラル侯爵家の集い

しおりを挟む
 

 *****


 薬の効果か、アンシア様の容態はとても安定していて、まだ歩くことは覚束ないが、車椅子でなら、ある程度の時間動くことが出来るようになった。

「どうだアンシア、特製の車椅子を用意したんだが」

「凄っ! 何この車椅子! こんなのあるの!?」

(無いです、普通は)

 アンシア様が歓喜されている車椅子は、フォルク様がアンシア様のために用意した特注の車椅子で、魔道具を組み込み、手元のレバーで動く事が出来る優れもの。
 フォルク様がアンシア様のために考案し、作成したものでしょう。

「まぁ便利ね。兄さんにしては、良い物を用意したじゃない」

「上からだな」

「アンシア、兄さんにちゃんとお礼を言わないと駄目ですよ」

「うるさいな! 私は別に頼んでないし!」

 コリー様に対しても冷たく返事をするアンシア様。
 アンシア様、本当はお兄様達の事が大好きなのに、どうしてそんな態度を取ってしまうのでしょう。反抗期というやつでしょうか?

「アンシア様、感謝を伝えるのは大切ですよ」

「ありがとう兄さん、すっごい感謝してる」

「……どういたしまして」

 素早い変わり身で感謝を伝えるアンシア様を、フォルク様は呆れたように受け入れた。

 本日はアンシア様の車椅子のお披露目を兼ねて、広いセントラル侯爵家の庭、研究所がある方とは違い、お茶が楽しめる素敵なテーブルや椅子が用意されている庭で、兄弟、妹が揃って、家族の時間を過ごされていた。

(そこに私がいるのが完全に違和感でしかないけど……!)

 テーブルに用意されたカップの数は四つ。
 美味しい紅茶を頂きつつ、見目美しい兄弟妹に囲まれ、居心地の悪さが半端ない!

「そう言えば、アンシアにお手紙が沢山来ていましたよ」

「ほんと? 誰からだろう」

 コリー様はそう言うと、テーブルの上にアンシア様宛の手紙の束を置いた。

「ふーん、皆、私がちょっと元気になったからって手紙を送ってきちゃって、馬鹿みたい」

「アンシア」

「だって本当だもの。ほら、この人なんて、私が元気な時は何度もデートに誘って来てたのに、病気になった途端、連絡も寄越さなかった人だし、こちらのご令嬢は、私と仲良くなりたいって言ってたのに、どうせ死ぬなら仲良くなっても無駄だって言った子よ」

「酷い……」

 病で苦しむ人に、どうしてそんな心無いことを言えるのだろう。

「大丈夫ですよお姉様! 私は何も気にしていないから」

 傷つかないはずがないのに、気丈に振る舞うアンシア様のことを、強い人だと思う。

「こんな虫以下の価値しか無い方々に何と思われようと、痛くも痒くもありません」

 ……あれ? まさか本当に傷ついて無いんですか?

「それらの手紙はさておき、アンシア、ユミエル様からも手紙がきていましたよ」

「ユミエルから!? どれ!?」

 コリー様が手紙の束の中から一枚の手紙を抜き取ると、アンシア様は急いで手紙の中身を見た。

「わぁ。ユミエル、婚約するのね!」

 嬉しそう……ユミエル様は、アンシア様の大切なご友人なんですね。

「婚約を祝う宴を開くそうですので、セントラル侯爵家を代表して僕が出席してきますね」

「コリー様が出席されるのですか?」

「はい。兄さんはこういった催しには殆ど出席しませんから」

「人の目に晒されるのは苦手だから、弟に甘えさせてもらってるんだ」

 本当に必要な催し以外、フォルク様は社交界にあまり顔を出さないと聞いたことがありますが、忙しさに合わせて苦手だからと言うのも理由なんですね。
 でも、セントラル候爵家の代表と言うのに、当主が出席しないのは良いのでしょうか?

「ユミエル様の家とは長い付き合いで、兄さんの性質を理解して下さっているので、心配しなくても大丈夫ですよ」

 それなら一安心ですね。

「……いいなぁ、私も、ユミエルをお祝いしてあげたいなぁ」

 口から自然と出てしまったように、ポツリと呟くアンシア様の囁き。

「アンシア様……」

「あ、勿論、私はいつ体調を崩すかも分からないし、車椅子だし、出席出来ないのは分かってるよ! だからコリー兄さん、私の分も、ちゃんとユミエルをお祝いしてきてよね!」

 なんてことないように笑顔を浮かべるアンシア様。

(お友達の婚約、直接お祝いしてあげたいですよね)

 自分の病気を理解し、普通なら出来ることを諦めているアンシア様の姿は、とても悲しくて――諦めさせたくないと、そう思った。

「……アンシア様、行きましょう!」

「え?」

 魔力病だからって全てを諦める必要なんてない! 私は薬師なんだから、アンシア様を傍で支えればいいのよ!

「今はアンシア様の容態も安定されていますし、もし体調が悪くなることがあっても、私が治療します」

「それって……お姉様が、一緒に行ってくれるってこと?」

「はい」

 ずっと寝たきりで、友人にも会えていなかったのだから、久しぶりに会って、お祝いを伝えたいと思うのは、当然のことです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

処理中です...