夫に用無しと捨てられたので薬師になって幸せになります。

光子

文字の大きさ
29 / 35

29話 セントラル侯爵家の集い②

しおりを挟む
 

「……私、ユミエルのお祝いに行ってもいいの?」

「はい、行きましょう」

 私は、そんなアンシア様の、健康なら普通に出来るはずの小さな願いを、叶えてあげたい。

「行けるなんて思ってなかったんだけど……もし、行けるなら……嬉しい。ユミエルに、直接会って、おめでとうって、言いたい」

 アンシア様はまだ十六歳。本当なら、お友達と楽しく過ごす年代ですものね(私は魔の結婚生活に入った歳ですが)

「ソウカさん、良いんですか?」

 心配そうに尋ねるコリー様。

「アンシア様の薬師として付き添うだけで出席はしませんし、目立たないように大人しくしておきます」

 平民落ちの私が行くと色々と言われるかもしれませんが、黙って聞き流します。聞き流すスキルは、不本意ながらクレオパス子爵家で鍛えられましたしね。

「クレオパス子爵家にも招待状は出されていると思いますが、本当に大丈夫なんですか?」

「――あ」

 すっかり忘れていました! そうですよね、招待されていますよね!? アンシア様のことしか考えていなくてすっかり忘れていました!

「やっぱりソウカさんが行くのは止めておきましょう。アンシア、いいですね?」

「勿論! お姉様の身の安全が第一! お姉様! お姉様のその気持ちだけで嬉しかったから、気にしなくていいからね!」

「で、でも……」

 折角アンシア様のお力になれると思ったのに、自分が情けない。でも、ジェイド様にまた何かされて、皆さんに迷惑をかけるわけにはいかないし……
 何より、怖い。
 出来ることなら、二度と会いたくないくらい、恐怖に怯えている。毎日、悪夢に脅かされるくらい――――

「いや、丁度いい機会だから私と一緒に行こう、ソウカ」

「え?」

 二人が私の同行を止めるよう口にする中、フォルク様だけは、笑顔で同行を勧めた。

 一緒にって……フォルク様も出席されるってこと?

「兄さん、ソウカさんに何かあったらどうするんですか?」

「そうよ! お姉様に何かあったら、私、クレオパス子爵に何するか分からないからね!」

 アンシア様は、ジェイド様に何をされる気ですか?

「させないために、ソウカと一緒に参加するんだ」

「何それ、意味分かんないんだけど」

「心配しなくていい、ソウカは、私が守る」

「!」

 また……胸がドキドキする! フォルク様は、私を友人の一人として、守ろうとしてくれているだけなのに!

「……兄さんが守ってくれるなら安心ですね」

「ちゃんとお姉様を守ってよ!」

 口では何だかんだ言いながら、アンシア様もフォルク様には絶大な信頼があるようで、フォルク様の発言をすんなりと受け入れた。

「ソウカ、君に悪いようにはしないから、私と一緒に来て欲しい」

「……」

 正直、ジェイド様にまた会うと思うと、怖い。怖いけど……私も、フォルク様を信じてる。フォルク様なら、私を守ってくれると。

「はい、行きます」

 フォルク様と一緒なら……ジェイド様にも、立ち向かっていけます。

「兄さん! 自分がお姉様を守れるからって調子に乗らないでよね!」

 車椅子から身を乗り出し、急に私の体に抱き着くアンシア様。

「調子に乗っているつもりは無いんだが……」

「乗ってるの! お姉様は私のなんだから! 絶対に兄さんには渡さないんだから!」

 一体何の話ですか? 私の所有権の話ですか? そう言えば、クレオパス子爵家ではよく物扱いされていましたね。

「はぁ。兄さん、そろそろ仕事では? アンシアも、そろそろ部屋で休みましょう。ソウカさんも、夜あまり休まれていないようですし、アンシアは僕が部屋まで連れて行きますから、ゆっくり休息を取って下さい」

「もうそんな時間か」

「えー」

「分かりました、お気遣いありがとうございます」

 コリー様の一声で今日の家族の集いは終了。
 アンシア様に声をかけてもらったんだけど、部外者の私まで参加させてもらって申し訳なかったな……今度は、皆さんのお邪魔をしないようにしなきゃ。

 庭を抜け、部屋に戻る途中、窓から見えた晴れ渡る空を見上げた。今の私の心境とは似つかわしくない、雲一つない晴天。

 思いも寄らずジェイド様と対面することになってしまったけど……いつまでも悪夢に怯えるのは嫌だから、ちゃんと、恐怖と向き合わなきゃ。ただの薬師の私が、貴族であるジェイド様にどう立ち向かえるかは謎だけど。

 分かっている。私一人では、ジェイド様に敵わない。
 無理矢理連れ戻されて、滅茶苦茶に扱われ、使い物にならなくなったら、ボロ雑巾のように捨てられるか、あの誰も来ない別邸で一人寂しく死んでいくかのどちらかしかない。

(でも大丈夫。だって私には、フォルク様がいるから――)

 あの時、ジェイド様に連れ戻されそうになっていた私を救ってくれたフォルク様は、こうして、今もずっとセントラル侯爵家で保護してくれている。
 フォルク様は私に感謝していると言うけど、私の方が、感謝してもしきれない。

『ソウカを守る』

 その言葉に深い意図はない、分かっているのに、どうしても胸が高鳴ってしまうのは、止められなかった。

(勘違いしないようにしなきゃ。私はただの平民落ちの貴族で、フォルク様とは住む世界が違うんだから)

 そう心で思い直し、止まっていた足を再開させた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

処理中です...