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29話 セントラル侯爵家の集い②
しおりを挟む「……私、ユミエルのお祝いに行ってもいいの?」
「はい、行きましょう」
私は、そんなアンシア様の、健康なら普通に出来るはずの小さな願いを、叶えてあげたい。
「行けるなんて思ってなかったんだけど……もし、行けるなら……嬉しい。ユミエルに、直接会って、おめでとうって、言いたい」
アンシア様はまだ十六歳。本当なら、お友達と楽しく過ごす年代ですものね(私は魔の結婚生活に入った歳ですが)
「ソウカさん、良いんですか?」
心配そうに尋ねるコリー様。
「アンシア様の薬師として付き添うだけで出席はしませんし、目立たないように大人しくしておきます」
平民落ちの私が行くと色々と言われるかもしれませんが、黙って聞き流します。聞き流すスキルは、不本意ながらクレオパス子爵家で鍛えられましたしね。
「クレオパス子爵家にも招待状は出されていると思いますが、本当に大丈夫なんですか?」
「――あ」
すっかり忘れていました! そうですよね、招待されていますよね!? アンシア様のことしか考えていなくてすっかり忘れていました!
「やっぱりソウカさんが行くのは止めておきましょう。アンシア、いいですね?」
「勿論! お姉様の身の安全が第一! お姉様! お姉様のその気持ちだけで嬉しかったから、気にしなくていいからね!」
「で、でも……」
折角アンシア様のお力になれると思ったのに、自分が情けない。でも、ジェイド様にまた何かされて、皆さんに迷惑をかけるわけにはいかないし……
何より、怖い。
出来ることなら、二度と会いたくないくらい、恐怖に怯えている。毎日、悪夢に脅かされるくらい――――
「いや、丁度いい機会だから私と一緒に行こう、ソウカ」
「え?」
二人が私の同行を止めるよう口にする中、フォルク様だけは、笑顔で同行を勧めた。
一緒にって……フォルク様も出席されるってこと?
「兄さん、ソウカさんに何かあったらどうするんですか?」
「そうよ! お姉様に何かあったら、私、クレオパス子爵に何するか分からないからね!」
アンシア様は、ジェイド様に何をされる気ですか?
「させないために、ソウカと一緒に参加するんだ」
「何それ、意味分かんないんだけど」
「心配しなくていい、ソウカは、私が守る」
「!」
また……胸がドキドキする! フォルク様は、私を友人の一人として、守ろうとしてくれているだけなのに!
「……兄さんが守ってくれるなら安心ですね」
「ちゃんとお姉様を守ってよ!」
口では何だかんだ言いながら、アンシア様もフォルク様には絶大な信頼があるようで、フォルク様の発言をすんなりと受け入れた。
「ソウカ、君に悪いようにはしないから、私と一緒に来て欲しい」
「……」
正直、ジェイド様にまた会うと思うと、怖い。怖いけど……私も、フォルク様を信じてる。フォルク様なら、私を守ってくれると。
「はい、行きます」
フォルク様と一緒なら……ジェイド様にも、立ち向かっていけます。
「兄さん! 自分がお姉様を守れるからって調子に乗らないでよね!」
車椅子から身を乗り出し、急に私の体に抱き着くアンシア様。
「調子に乗っているつもりは無いんだが……」
「乗ってるの! お姉様は私のなんだから! 絶対に兄さんには渡さないんだから!」
一体何の話ですか? 私の所有権の話ですか? そう言えば、クレオパス子爵家ではよく物扱いされていましたね。
「はぁ。兄さん、そろそろ仕事では? アンシアも、そろそろ部屋で休みましょう。ソウカさんも、夜あまり休まれていないようですし、アンシアは僕が部屋まで連れて行きますから、ゆっくり休息を取って下さい」
「もうそんな時間か」
「えー」
「分かりました、お気遣いありがとうございます」
コリー様の一声で今日の家族の集いは終了。
アンシア様に声をかけてもらったんだけど、部外者の私まで参加させてもらって申し訳なかったな……今度は、皆さんのお邪魔をしないようにしなきゃ。
庭を抜け、部屋に戻る途中、窓から見えた晴れ渡る空を見上げた。今の私の心境とは似つかわしくない、雲一つない晴天。
思いも寄らずジェイド様と対面することになってしまったけど……いつまでも悪夢に怯えるのは嫌だから、ちゃんと、恐怖と向き合わなきゃ。ただの薬師の私が、貴族であるジェイド様にどう立ち向かえるかは謎だけど。
分かっている。私一人では、ジェイド様に敵わない。
無理矢理連れ戻されて、滅茶苦茶に扱われ、使い物にならなくなったら、ボロ雑巾のように捨てられるか、あの誰も来ない別邸で一人寂しく死んでいくかのどちらかしかない。
(でも大丈夫。だって私には、フォルク様がいるから――)
あの時、ジェイド様に連れ戻されそうになっていた私を救ってくれたフォルク様は、こうして、今もずっとセントラル侯爵家で保護してくれている。
フォルク様は私に感謝していると言うけど、私の方が、感謝してもしきれない。
『ソウカを守る』
その言葉に深い意図はない、分かっているのに、どうしても胸が高鳴ってしまうのは、止められなかった。
(勘違いしないようにしなきゃ。私はただの平民落ちの貴族で、フォルク様とは住む世界が違うんだから)
そう心で思い直し、止まっていた足を再開させた。
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