38 / 82
38
しおりを挟む「当たり前でしょう……ここは、城では無いんですよ」
黙っていれば食事が次から次へと用意される城とは違い、ここはただの村の1つで、私も、聖女でもなんでも無いただの村娘。
「そんなー!リーシャがそんなひもじい思いをしているなんてーー!!」
「ひもじい…?」
別にそこまででは無いんですよ?
私が祭りの準備に没頭し過ぎた性ですし、完全に自己責任。ひもじいと言っても、今はまだ朝食を抜いただけですし、そこまでオーバーに言われる筋合いは無いのですが……。
「落ち着いて下さい」
「しかしっ!」
「お城でも、私が朝、食べない事なんて多々あったでしょう?」
お城で過ごしていた時は、空腹を感じる事が無くて、よく朝食を抜いていた。
「それとこれとは意味合いが違うーー!!」
「……」
どうしましょう……。話が通じなさ過ぎて、どうすれば分かって貰えるのかが分からないです。
私が食事を1食抜くのが、そんなに駄目な事ですか?お城では抜いていたのに?
「やっぱり駄目だ!リーシャ!」
頭を抱え悶絶していたノルゼスだが、急にバッ!と顔を上げたと思ったら、リーシャに勢い良く詰め寄った。
「リーシャ!俺と一緒にーーー!」
「わぁーー!!!お姉ちゃん!奇遇だねぇ!!!!」
ノルゼスの言葉を遮るような大きな声を出しながら、2人の間に突如入るサクヤ。
「サクヤ!」
「お姉ちゃん!会えて嬉しいなぁー!!本当に奇遇だねぇ!!」
わざとらしさ満開で話すサクヤ。
その後ろには、イマルの姿もあった。
「イマル」
「どーも、リーシャはん」
イマルとサクヤの顔を見て、ホッと、安堵する自分がいる。
「良かった。イマルを探していたんです」
「俺?」
「はい。実は、食料が底を尽きてしまったので、村の外に出るのに付き合って欲しいとお願いしたくて」
「底尽きる前に言うてくれたらえーのに。えーよ、行こか」
すんなりと了承を貰え、一先ず安心。これで今日の食事を心配する必要は無くなりますね。
「山菜集めと狩り、どっちがえーの?」
「どちらでも大丈夫ですよ」
「僕も行くー!」
ノルゼスを放置し、3人でパッパッと話が進む。
「ノルゼス、私はこれで失礼しますね」
話し合いの結果。
所持金も全く無い事を知ったイマルが、狩りの方が効率が良いと言い、狩りに行く事になった。
「ちょっ!ちょっと待ってくれ!!」
そのまま去ろうとする3人を、ノルゼスは手を伸ばして止めた。
「俺も同行して良いだろうか?狩りならば、足でまといになる事は無い」
(それはそうでしょう)
魔王を倒したパーティの騎士ですよ?足でまといになる筈が無いでしょうけど、どうして一緒に?
冒険者ノルゼスの同行を断る理由も無く、3人はノルゼスの同行を受け入れた。
四季の森ガーデン。
「リーシャ、足元危ないぞ」
「リーシャ、喉乾いていないか?水分はしっかり取った方が良い」
「リーシャ、疲れていないか?休憩は必要か?それか、俺が抱えようか?」
凸凹道を歩く時は手を差し伸べ、10分起きに体調の確認を行い、挙句の果てには、お姫様抱っこを提案したりと、甲斐甲斐しくリーシャのお世話をするノルゼス。
「……ノルゼス……」
1人で歩けると断っても、元気ですと伝えても、まるで話を聞いてくれない……。なんとかお姫様抱っこだけは断り切りましたけど……
何度断っても断っても世話をやこうとするノルゼスに心折れたリーシャは、エスコートは受けいれ、彼の手を取った。
普通に山菜集めに来た時よりも疲労感を感じる。
「……」
(こうしていると……聖女の時に戻ったみたい)
身の回りの全てを周りの者がして、自分は何もしない。
冒険をしている最中ですら、馬車が通れる場所は馬車に揺られ、通れない場所も、こうしてエスコートされて、先に進む。
野宿では豪華なテントを張られ、食事を用意され、暖かい布団に包まり眠る。これを冒険と呼べるのかと問われれば、私は、否。と答える。
それくらい、私にとっては、物足りないものだった。
「リーシャ、疲れていないか?」
もう何度目かになる、体調確認。
「……はい。疲れていません」
もう反論する方が疲れるので、ただ、黙って頷いた。
そんな2人の様子を、後ろから見ていたイマルとサクヤ。
「……お姉ちゃんが何も出来ない理由、なんか分かった気がする」
「ほんっっまに過保護で育ってんな」
やり過ぎとも取れるノルゼスの行動に、2人は1歩どころか、2歩引いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
57
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる