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「当たり前でしょう……ここは、城では無いんですよ」

   黙っていれば食事が次から次へと用意される城とは違い、ここはただの村の1つで、私も、聖女でもなんでも無いただの村娘。


「そんなー!リーシャがそんなひもじい思いをしているなんてーー!!」
「ひもじい…?」

   別にそこまででは無いんですよ?
   私が祭りの準備に没頭し過ぎた性ですし、完全に自己責任。ひもじいと言っても、今はまだ朝食を抜いただけですし、そこまでオーバーに言われる筋合いは無いのですが……。


「落ち着いて下さい」
「しかしっ!」
「お城でも、私が朝、食べない事なんて多々あったでしょう?」

   お城で過ごしていた時は、空腹を感じる事が無くて、よく朝食を抜いていた。


「それとこれとは意味合いが違うーー!!」
「……」


   どうしましょう……。話が通じなさ過ぎて、どうすれば分かって貰えるのかが分からないです。
   私が食事を1食抜くのが、そんなに駄目な事ですか?お城では抜いていたのに?


「やっぱり駄目だ!リーシャ!」

   頭を抱え悶絶していたノルゼスだが、急にバッ!と顔を上げたと思ったら、リーシャに勢い良く詰め寄った。



「リーシャ!俺と一緒にーーー!」

「わぁーー!!!お姉ちゃん!奇遇だねぇ!!!!」

   ノルゼスの言葉を遮るような大きな声を出しながら、2人の間に突如入るサクヤ。



「サクヤ!」
「お姉ちゃん!会えて嬉しいなぁー!!本当に奇遇だねぇ!!」

   わざとらしさ満開で話すサクヤ。
   その後ろには、イマルの姿もあった。


「イマル」
「どーも、リーシャはん」

   イマルとサクヤの顔を見て、ホッと、安堵する自分がいる。


「良かった。イマルを探していたんです」
「俺?」
「はい。実は、食料が底を尽きてしまったので、村の外に出るのに付き合って欲しいとお願いしたくて」
「底尽きる前に言うてくれたらえーのに。えーよ、行こか」


   すんなりと了承を貰え、一先ず安心。これで今日の食事を心配する必要は無くなりますね。

「山菜集めと狩り、どっちがえーの?」
「どちらでも大丈夫ですよ」
「僕も行くー!」


   ノルゼスを放置し、3人でパッパッと話が進む。

「ノルゼス、私はこれで失礼しますね」

   話し合いの結果。
   所持金も全く無い事を知ったイマルが、狩りの方が効率が良いと言い、狩りに行く事になった。


「ちょっ!ちょっと待ってくれ!!」
   そのまま去ろうとする3人を、ノルゼスは手を伸ばして止めた。



「俺も同行して良いだろうか?狩りならば、足でまといになる事は無い」

 (それはそうでしょう)

   魔王を倒したパーティの騎士ですよ?足でまといになる筈が無いでしょうけど、どうして一緒に?



   冒険者ノルゼスの同行を断る理由も無く、3人はノルゼスの同行を受け入れた。







   四季の森ガーデン。

「リーシャ、足元危ないぞ」
「リーシャ、喉乾いていないか?水分はしっかり取った方が良い」
「リーシャ、疲れていないか?休憩は必要か?それか、俺が抱えようか?」



   凸凹道を歩く時は手を差し伸べ、10分起きに体調の確認を行い、挙句の果てには、お姫様抱っこを提案したりと、甲斐甲斐しくリーシャのお世話をするノルゼス。

「……ノルゼス……」

   1人で歩けると断っても、元気ですと伝えても、まるで話を聞いてくれない……。なんとかお姫様抱っこだけは断り切りましたけど……

   何度断っても断っても世話をやこうとするノルゼスに心折れたリーシャは、エスコートは受けいれ、彼の手を取った。
   普通に山菜集めに来た時よりも疲労感を感じる。



「……」
 (こうしていると……聖女の時に戻ったみたい)

   身の回りの全てを周りの者がして、自分は何もしない。
   冒険をしている最中ですら、馬車が通れる場所は馬車に揺られ、通れない場所も、こうしてエスコートされて、先に進む。
   野宿では豪華なテントを張られ、食事を用意され、暖かい布団に包まり眠る。これを冒険と呼べるのかと問われれば、私は、否。と答える。

   それくらい、私にとっては、物足りないものだった。


「リーシャ、疲れていないか?」

   もう何度目かになる、体調確認。

「……はい。疲れていません」
   もう反論する方が疲れるので、ただ、黙って頷いた。




   そんな2人の様子を、後ろから見ていたイマルとサクヤ。


「……お姉ちゃんが何も出来ない理由、なんか分かった気がする」
「ほんっっまに過保護で育ってんな」

   やり過ぎとも取れるノルゼスの行動に、2人は1歩どころか、2歩引いた。

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