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  ノルゼスは村長の家に滞在していたが、食事等は自分で調理していたり、何も教えずとも、普通に酒場に食事をしに行ったりしていたのを知っているので、彼は問題無く生活が出来る。寧ろ、滞在中、村長の依頼で魔物退治に行ったりと、唯一、冒険者らしかった(リーシャの過保護を除けば)

(ノルゼスは城下町出身ですし……今は騎士の隊長という立場を任されていますが、下積み時代もあったでしょうし、そつ無くこなせますよね)

「めっちゃ気になっててんけどな、この村までどーやって来たん?こんな辺境の村、普通の冒険者も中々来ない場所やで?遠いやろし、食事とか、テントとか、魔物とか」

「食事は……食べれる果物とか、調理しない物を食べたり、ここに来るまでに持っていた日持ちする食べ物を食べたりー」
  レナルドも全く同じらしく、リーシャの話に、うんうん。と頷いた。
「テントは使ってない。俺は別に木の上でも寝れるしな」
「私は寝袋がありました!」
  ちなみに、城で用意して貰った寝袋なので、実は大変高価で、機能性抜群で、ふかふか暖かです。
「魔物はーー」
「いや、ルドはんは言わんでも分かるけど」
  出会い頭に強烈な魔法を見せられ、ここら辺一帯の魔物の数を減らしたのだ。強さが超一流なのは充分理解出来る。疑問なのは、リーシャの方。
「私は、運良く魔物と出会いませんでした」
「出会わへんかった?この村に来るには、四季の森通らなあかんかったのに?」
「そうですね……遭遇するかな?とは考えていたのですけど」

  普通、冒険者はパーティを組むのが一般的だが、ノルゼスやレナルドなど、強者であれば、世界が平和になった今、魔物の脅威も薄れ、1人で旅をする事も可能だろう。
  だが、僧侶は違う。どれだけ優秀でも、攻撃をする手段が無い限り、必ずパーティを組まなければならない。

「……リーシャはんって、もしかして僧侶やないの?」
「違いますよ」
「リーシャ、回復魔法使えたのか?!」

  何故か、一緒にパーティを組み冒険していた筈のレナルドから、驚きの声が上がる。
「使えますよ。ほんの少しですけど」
「いや、何でルドはんが驚くねん!てか、貴重な回復魔法の存在を明かさへんって…」
「別に僧侶はいましたからね」

  私より、とても優秀な回復魔法の使い手が何人も。

「じゃあ、お姉ちゃんって一体、前職何だったの?」
「ーーー」

  何も考えずに質問に答えてしまっていましたけど、そうですよね。そうなりますよね。僧侶で押し通すべきだったのでしょうかーー?!

  出来れば、元・聖女である事は知られたく無い。


「えっと……」
「おい、そんなのどうでも良いから、さっさと料理の仕方を教えろ。それか、店を教えてくれるだけで良い。金は腐る程あるんだからな」
  何も答えられず、思考を巡られせていると、横から、ルドが助け舟を出してくれた。
「毎日外食…?それって凄い高くつくんじゃ…」
「金はあるっつてんだろ!」
「ルド…」

  幾ら助け舟を出したと言えど、サクヤを怯えさせるのは許しません。と言いますか、ルドはお金をそんなに持っているのですか?私は本当に少ししか貰え無かったのに?

「そんなにお金持ってますのん?」
「普通に冒険の最中も給金って形で貰ってたぜ。危険な魔物を退治してやってんだから、そりゃあ金くらい弾んで貰わねーとな」

  ……それも初耳ですね。私は1度だってお給金を頂いた事が無いのですが?城にいた時は、お金を使う事は無かったから良いですけど、城から出る時にもう少し渡してくれても良かったのでは?一応、魔王を倒したんですよ?

「まさか、リーシャは貰って無かったのか?!あのクソ耄碌もうろく爺…!もっと痛め付けてやれば良かった!」
「痛め…?!」

  まさか王様の事言ってます?貴方は一体どんな出方をして来たんですか??

「そーゆー事やったら、酒場があるから後で案内するわ。ただ!空気読めん女が1人いるけど、絶対に暴力は振るったらあかんで!口喧嘩はかまへんけど。寧ろ積極的にやってええ」
  喧嘩っぱやいと見越して、予めカリンの事を伝えておく。
「ああ?んなもんーー」
「駄目ですよ、ルド。私、この村が好きなんです」

  取り返しのつかない騒ぎを起こされれば、私の関係者である以上、責任は私にある。

「この村から、私を追い出そうとする事は、しないで下さい」
  本当に、深く深く、お願いする。
  私を心良く迎えいれてくれたこの村が好き。優しいこの村の雰囲気が好き。離れたくない。
「もし、私が責任を感じる事が起きたらーーー絶対に、ルドを許す事は出来なくなります」

「ーーそんなに、この村が好きになったのか」
「はい」

  この村に住む人達が好き。
  初めて出来た友達、初めて出来た、好きな人ーー。

「……リーシャ、もしかして、そいつの事が好きなのか?」
  そう言って、レナルドは睨み付けながら、イマルを指さした。
「へ?!」
  急に予想だにしなかった質問が来て、困惑する。

  (好き?好きですよ?勿論です!)
  何せこの村に来て、出会って2日で恋に落ちたのだ。
  ハッキリと声に出して言える!のだが、今はそれが出来ない。何故なら、イマルがすぐ近くにいるから!

  (好きってしつこければ嫌われる…!嫌われる…!嫌われる…!)
  以前イマルに言われた、執拗い女は嫌われる!を、嫌われたくないリーシャは一生懸命、例え態度でバレバレだろうが、好意に近い言葉を言おうが、好き。の一言は言わないように気を付けていた。

  (嫌われる嫌われる嫌われる……嫌われたくありません!)

「好きじゃありません!私は、イマルを好きではありません!」
  ハッキリと大きな声で、リーシャは否定した。


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