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「い、イマル。あの、その……わ、私達、お付き合いしていたのですか?」

 いつからどのタイミングで付き合いだしたのかは正直分かりませんが、もしかしたら、私が世間知らずなだけで、何か付き合うキッカケがあったのかもしれません。
 何せ、イマルが初恋で、他人の恋バナにも一切関与して来ず、過保護に過保護に育てられた元・聖女。一般常識や恋愛事に疎い事を、本人も自覚している。

 リーシャは期待を込めた目で、イマルを見上げた。

「なっーーーつ、付き合ってへん!」
 (((ーーーは?)))

 イマルの否定の言葉に、リーシャでは無く、周りにいる村人達の方が、心の中で呆気に取られた声を漏らした。

「ノルゼスはんが、ああ言ったら王子はん諦めるんちゃうかって言うから、言っただけや」
「…………そう、ですか」
 目に見えて落ち込むリーシャ。

 そうですよね…。私、もうふられてますし……最近、避けられていましたし……付き合っているはず有りませんよね。ノルゼスがイマルにそう言って貰うよう頼んだんですね。

「ありがとうございます、イマル。私の為に、嘘をついてくれたんですね」
「……いや、別にリーシャはんの為って訳でも……」
「本当にありがとうございます」

 リーシャは笑顔で、お礼を述べた。
 (イマルは優しいから、泣いている私を助ける為に、あんな嘘をついたのでしょう)
 最近、何となく避けられていように感じたが、今は普通に戻っている気がする。それだけで、充分。
 (これからも嫌われないように気をつけないと)


 そんな2人を、傍から見ていた村人達はーーー

「ありゃあかんな」
「ヘタレにも程があるよ!男じゃないねぇ!」
「我が息子ながら、情けない…」

 ーーと、口々にため息を吐いた。



「ーーーイマル兄ちゃん」
 とりあえず騒動は一件落着。広場に集まっていた村人達も解散し、それぞれの生活に戻る中、サクヤは、イマルの横に立っていた。
「僕、ノルゼスさんが来て、イマル兄ちゃんと話してるのずっと聞いてたけど、ノルゼスさん、お姉ちゃんと付き合ってるって言ったら、王子様が諦める。とか、話して無かったよね?」

 サクヤは、川から戻って来てから、ノルゼスが村に来た時もずっと、イマルの隣にいた。
 ノルゼスは確かに、リーシャの情報として、リーシャが聖女の地位を捨てた事などをイマルに話していたのを聞いたが、それ以外は話していない。

「何で嘘つくの?」
「……」

 そっぽを向きながら沈黙するイマルに、サクヤは大きなため息を吐いた。

「イマル兄ちゃん、僕、情けなくて……」
「しゃーないやん!あんな皆に冷やかされるん分かってんのに、認めれるか?!」
「認めたらいーじゃんか!お姉ちゃんが好きで、泣いてるお姉ちゃんを見たら思わず告白すっ飛ばして自分の彼女です!って言っちゃったって!」
「止めて!言葉に出さんといて!」

 耳を塞ぎながら、イマルはサクヤの言葉を止めた。
「もー…。イマル兄ちゃん、格好良かったのに」
「ほんま無理!いや、分かってる!俺があかんな!堪忍な!」
「お姉ちゃんを好きって認めてくれる?」
「ーーー」

 往生際悪く、また沈黙する。
「お兄ちゃん?」
「ーーだぁぁあ!分かった!好きやと思う!絶対!リーシャはんには言うたらあかんで?!」
「それは、ちゃんと自分の口から告白する気があるって捉えていいんだよね?」

 まだ8歳の男の子ながら、しっかり者のサクヤは、逃さず、追撃する。
「そら、いつかはするけど…」
「はぁ。イマル兄ちゃんって、恋愛、奥手なんだね」
「五月蝿いな!サクヤはんもなってみたら分かる!村中からちゃちゃ入れられる気持ちになってみぃ!」

 リーシャは何も気にしないだろうが、イマルは気にする。
 今ですら、付き合っても無いのに結婚を急かされ、周りから冷やかされ、暖かい目を向けられている。

「ーーそりゃあ、嫌。だけど」
「やろ?!ある意味これも過保護やで!過干渉や!」


「イマル、サクヤ」
 村の人達に再度、頭を下げていたリーシャは、最後まで広場に残った2人の元に、ゲンと一緒に来た。
「この度は、本当に多大なご迷惑をーー」
「もう大丈夫だよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんがこの村に残ってくれるだけで、僕は嬉しいもん」

 可愛い…!可愛さの天才です!

「……私が、元・聖女でも、変わらず、お友達でいてくれますか?」
「勿論!お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ!」
 サクヤはリーシャの元まで駆け寄ると、ギュッと抱き着いた。
「サクヤ……ありがとうございます」

 こんなに騒動を起こしたのに、村の人達は、私を責める事も無く、元・聖女であったと知っても、そのまま、私を名前で呼んでくれて、態度が変わる事は無かった。
 ゲンさんも、マルシェも、ジェラードも、サクヤも。
 村長はーー『ねぇ、守護の魔法を使って、行こう!魚釣り体験コーナーとか開催出来ないかな?』ーーちょっとビジネスの話をされましたけど。ある意味いつも通りですね。

「じゃあまたね、お姉ちゃん、イマル兄ちゃん」
 サクヤはそのまま、ゲンと一緒に帰路についた。


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