死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

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3話 二度目の人生

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 ◇ 

 一度目の人生と同様、エルビス様はカスターニア男爵邸まで来ると、一度目の人生と同じ言葉で私にプロポーズした。

「イリア嬢、愛しています、俺と結婚して下さい。社交界で貴女を一目見た時から一目惚れしました。俺にはもう、貴女以外考えられない」

「……はい、喜んで」

 一度目の人生と同様、プロポーズの返事を了承すると、エルビス様は満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうイリア嬢! 本当に嬉しいよ!」

「……どういたしまして」

 嬉しいのは、私がまんまと罠にかかったからでしょう? 今思えば、貧乏であまり社交界に参加していなかった私をどこで見染めたのかも謎だし、冷静に考えれば、初めからおかしかったんだ。この笑顔の意味を死ぬまで気付かなかったことが、私の落ち度だ。

「今日はこれで失礼するけど、また改めて婚約の話で伺うよ」

「はい、お待ちしております」

 エルビス様がお帰りになるのを、家の前で見送る。
 エルビス様は周りをキョロキョロと見渡したと思ったら、私の腰を引き、顎を掴んだ。

「イリア嬢」

 口付けされるとすぐに理解した。だって、一度目の人生と全く同じだもの。

「んっ」

(気持ち悪い)

 全身に悪寒が走って、鳥肌が立つ。

「ごめんイリア嬢、貴女が可愛くて、つい」

(嘘つき)

「いいえ……嬉しいです」

 恋愛初心者の私を操るのは、エルビス様にはさぞ簡単だったんでしょうね。こんな愛のない口付けを、私は王子様の口付けだと、喜んでいたんだから。

「じゃあ別れるのは惜しいけど、またね」

「……はい、本日はありがとうございました」

 馬車に乗り込み、去って行くエルビス様を見送る。
 きっとエルビス様も、今の私と同じように、唇を強く拭っていることでしょう。

(結婚するって決めたのは私だし、この程度覚悟していたけど、やっぱり嫌なものは嫌ね)

 将来、自分を裏切って毒殺する相手との口付けなんて、心から嫌に決まってる。

(でもエルビス様を地獄に叩き落とすためなら、我慢出来る。我慢してみせる)

「――イリア? 大丈夫か?」

「……グレイブ兄様」

 私に声をかけたのは、カスターニア男爵家の長男、《グレイブ》兄様だ。

「エルビス様と何かあったのか?」

 頼り甲斐のあるカスターニア男爵家の跡継ぎである兄は、私の些細な変化にも気付く妹想いの自慢のお兄様だ。

「何も無いよ、別れるのが惜しくて、寂しくなっちゃっただけ」

「イリア……本当にエルビス様と結婚していいのか?」

「……どうしてそんなこと聞くの?」

「今まで接点が無かったのに急に縁談を申し込むとか、何かおかしいと思ってな」

「一目惚れだってエルビス様も言っていたじゃない。エルビス様は私の家の経済状況も心配されて多額の結納金も用意するって言ってくれたし、あんなに素敵な人に結婚を申し込まれるなんて、幸せだわ」

 心にもない言葉ばかりを並べて会話をする。
 多額の結納金を申し出たのは、私が逃げられないようにするためだろう。それを彼の優しさだと信じていた。上手い話には裏があるものなのにね。

「イリアがいいならいいんだが……」

「何?」

「イリアがちっとも幸せそうに見えないから」

「――」

 一度目の人生の私は、お伽噺のような王子様のプロポーズに胸が踊って、何度も何度もグレイブ兄様に惚気けた。幸せへの入り口がすぐ近くにあると信じていた。それが地獄への入口だとも知らずに。

「そんなことないわ、私、幸せよ」

 張り付けた笑顔で、精一杯強がってみせる。
 今度は自分から地獄に行く。でも、ただでは地獄に落ちてあげない。あの人達を全員道連れにする。私の全てをかけて――

 ◇

 エルビス様との縁談はそれはそれはスムーズに、まるであちらが急かすように進んでいった。
 あれよあれよと式の日取りが決まり、結納金の名をしたが払われ、両家の顔合わせも行われた。

「こんなに可愛らしい娘さんが私達の義理の娘になるなんて、嬉しいわ」
「ああ、イリア嬢なら、立派な跡取り息子を産んでくれそうだ」
「まぁ、あなたったら、気が早いわ」

「……これからよろしくお願い致します、お義父様、お義母様」

(嘘つき、私を、恋に溺れている息子の願いを叶えるための道具としか思ってないくせに)

 子供が産まれるまでは、お義父様もお義母様も私を本当の娘のように可愛がってくれた。あれが全て跡継ぎを産む道具に対するものだったなんて、吐き気がするわ。

 地獄に落としてやる。

 貴方達が望む孫は一生抱かせてあげない。
 一度も私に子供を抱かせることなく取り上げたお義父様とお義母様。二度と私から子供を取り上げさせたりしない!

(結婚式まであと少し……それまでに対策をたてなきゃ)

 子供が産まれたら、用済みとばかりに私は殺される。まずはそれを避けなくちゃいけない。

 手は打ってある。

 今日の朝、私宛に届いた手紙。
 差出人には《ケント=ギルバレド公爵》と、封書の中身には、日時と場所、そして『会いましょう』の文字が並んでいた。

「イリア、君と早く結婚したいよ、結婚式が待ち遠しいな」

「本当ねエルビス。イリアさんがうちにお嫁に来てくれるのを、首を長くして待っているわね」
「ああ! グラスウール伯爵家総出で楽しみにしているぞ!」

「……ええ、私も、早くエルビス様と結婚したいです」

(早くこのくだらない顔合わせを終わらせて、ギルバレド公爵様のところに行かなきゃ)

 顔合わせの最中、頭の中はそれしか考えられなかった。
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