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32話 嫌がらせ
しおりを挟む「さぁ、頂こう!」
お義父様の合図で、食事が始まる。
お義父様は私の好物ばかり用意したと言ったけど、正直、ここで食べる料理はどれも美味しいと感じないので一緒だし、そもそも用意された料理は一つも好物じゃない。私に興味なさすぎでしょ。
今に始まったことじゃないので、別に構わない。
構わないけど――――幼稚な嫌がらせで料理を無駄にするのは、貧乏男爵令嬢出身としては、許せないかな。
「痛っ!」
「イリア!? どうしたんだ!?」
口から血が滲んでいる私を見て、心配というよりは焦って駆け寄るエルビスとお義父様。お義母様も同じように動揺してその場で立ち竦んでいたから、彼等が仕掛けたんではないんだろう。
明らかに食材とは違う異物を吐き出すと、鋭い石の塊が出てきた。歯が折れていないのは幸いだけど、鋭かった所為か口の中は血塗れで、血の味が全体に広がった。
「な、何でこんな物が食事に入っているの!?」
何で? お義母様達が犯人じゃないなら、残りは一人しかいないでしょ。
こちらを見てニヤニヤと微笑むアイラは、上手く私が傷付き満足している様子で、つくづく馬鹿な女だと思う。私にこんな事をしたらどうなるか、何も理解してない。
「どうやら、私がここにいるのを望まない方がいるようですね」
血を拭い、静かに席を立つ。
「待ってくれ! 違う! これは何かの手違いで!」
「手違いで私の食事にだけ石が? そんなのあり得ないでしょう」
べったりと血がついている舌を覗かせ、他のスープやサラダの食事にも石や針が入っているのを見せつけると、エルビスも黙るしかなかった。
「グレイブ兄様にお話しして、カスターニア子爵家からの融資は打ち切ってもらいますね」
「そんなこと言わないで! お願いよイリアさん! 今カスターニア子爵家からの融資を打ち切られたら、うちは……!」
「愛する家族が路頭に迷うことになってもいいのか!? 口から少し血が出たくらいでグチグチと文句を言いおって、器の小さい女だな!」
愛する家族? 貴方達は本当に図々しいわね、どの口が言うんだか。私をあれだけ家族の厄介者として空気のように扱っていたくせに。勝手に路頭に迷えばいい、私には関係ないし、貴方達が不幸になることこそが、私の望む道よ。
大体、未だにそんな口を叩くお義父様に呆れてしまうわ。
感情の籠っていない冷たい視線を送ると、お義父様は我に返ったようにハッとした。
「いや、これは……違う! すまなかった! こんなことを言うつもりは無かったんだ! つい、口が滑って――」
「私を大切にしてくれないようで残念ですお義父様。ヘルシア、カスターニア子爵家に帰るわ、準備して」
傍に控えていたヘルシアに声をかけると、エルビスは縋るように私の腕に触れた。
「すまないイリア! 本当にっ! 今後二度とこんなことが起こらないようにする! だから、離婚だけは止めてくれ!」
必死に謝罪するエルビスと、その後ろで地面に頭を擦りつけて謝罪するお義父様とお義母様。
触れる手を振り払う私の冷たい表情は、恋に焦がれていた一度目の人生では、貴方に見せたことないでしょう?
「イリア……お願いだ、君を愛しているから……!」
ああ、いい気持ち。私に捨てられないように縋るその姿が、愛していない女に愛を呟く姿が、苦しそうで素敵よ。でもね、もっと苦しんで欲しいの、苦しんで苦しんで苦しみぬいて、地獄に落ちて。
「なら、犯人を見つけて」
「は、犯人探しだなんて、そんなことしなくても、もう二度と起きないようにすれば――」
「どうして? 出来るでしょう? 愛する妻を傷付けた犯人を見逃すとか、夫としてあり得ない醜聞でも晒すつもり?」
「……っ!」
また顔色が変わったね。エルビスも気付いてるんでしょ? 私にこんな真似をする人なんて、一人しかいない。エルビスもお義父様もお義母様も、多少言葉使いを間違えたとしても、前と変化した私との立場を理解している。理解していないのは、貴方が愛しているアイラだけ。
「犯人を見付けて相応しい罰を与えない限り、私は貴方と離婚します」
「それは……!」
「早く犯人を捜しましょう!」
「そうだな! 可愛い娘を傷付けた犯人にお灸を据えなくては!」
私の言葉に真っ先に反応したのは、お義父様とお義母様だった。特にお義父様は、先程の失言も手伝ってやる気で、食事の支度に当たっていた使用人の身体検査を真っ先に命じた。
使用人達は自分の無実を証明しようと率先して身体検査に応じていたが、思った通り、アイラだけは抵抗した。
「止めて、触らないでよ! 何で私まで調べられるのよ! 私は関係ないでしょ!? 私はエルビスの専属メイドなんだから!」
「アイラは関係ない! 彼女に触れるな!」
「いいえ、アイラも調べて下さい」
「イリア……だ、だが、アイラがそんなことをするはずが……」
「違うのなら、無実を証明して下さい」
往生際悪くエルビスがアイラを庇ったけど、一掃して調べさせた。
「ありました!」
メイド服のポケットからは、私の食事に入っていた物と同じ、鋭い石と針。
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