死に戻り令嬢は愛ではなく復讐を誓う

光子

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33話 失望

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 ご丁寧に証拠を持ち歩いてるとか、『私はエルビスの専属メイドだから大丈夫!』とか、呑気に考えていたのかしら。

「別にいいでしょ!? ちょっと悪戯しただけじゃない! 本当、イリア様はみみっちい女ね!」

「誰に悪戯したか分かってるの? 私は、グラスウール伯爵夫人なのよ」

「だから何よ! 可愛いメイドの悪戯くらい笑って許しなさいって言ってるの! エルビスなら笑顔で許してくれるわ!」

 食事に石や針を仕込むのが可愛い悪戯とか、神経を疑うわ。もし本当にエルビスが許すというなら、今度、二人の食事に倍以上の数混ぜてやるから。

「私は何も悪くないわ、悪いのは、イリアよ!」

 恐ろしいのは、それが本心であること。自分は何も悪くないと、心から思ってる。悪いのは、愛のない結婚でエルビスを縛り付けている私で、自分の犯した罪の重さに未だに気付いていない。
 いっそ、針や石ではなく毒を仕込んでいたら、目障りな私を殺せたのにね。

「アイラ! なんてことをしてくれたんだ!」
「そうよ、たかがメイドが私達の可愛い娘を傷付けるなんて、許せないわ!」

「お、大旦那様!? 大奥様!? 何で、イリアの味方をするの……!」

 絶対に助けてもらえると思った? 残念ね、離婚して融資を受けられなくなったら、一番困るのは年老いたお義父様とお義母様なのよ。内心はどうあれ、私の目の前でアイラを庇うことは出来ない。

「エルビス! エルビスなら分かってくれるわよね!? 私の味方になってくれるよね!?」

「アイラ……!」

「さっきイリア様に酷いことを言われたの! だから悔しくて悲しくて、ちょっと痛い目に合えばいいと思っただけの、可愛い悪戯なの!」

 目に涙を溜め、正当性を主張する。 
 酷いことって、私は事実しか言っていないわ。事実を述べて、惨めな人生を送らないように忠告してあげただけ。ある意味優しさよ。まぁ、忠告しても無駄だろうな、とは思っていたけど。

 お義父様とお義母様が味方になってくれなかったアイラは、当然のように、エルビスに助けを求めた。
 ここで本当の愛し合う夫婦なら、間違いなく私の味方になってくるし、愛ない政略結婚だとしても、家を守るために、私の味方になる必要があるだろう。

 だけどエルビスは、私の味方にならなかった。

「イリア……今回だけ、アイラを許してやってくれないか?」

「どうして?」

「君も、アイラに酷いことを言ったんだろ? お互い様じゃないか。だから――」

「では離婚しましょう」

「いや、待ってくれ! それは困る! イリアと離婚したら、グラスウール伯爵家が滅茶苦茶になってしまう! 融資を続けてくれるなら、まだ離婚してもいいが……どうせなら、融資じゃなくて直接援助してくれる形の方がありがたいが――」

「話にならないわね」

 この期に及んでまだアイラを庇うとか、しれっと要求を上げるとか、ふざけるのも大概にして。
 貴方達は最初から、何も変わっていない。恋を貫きたいくせに、今持っている地位も暮らしも、何一つ捨てたくない。地位も暮らしも捨てない、でも、恋を捨てることも出来ない。
 全てを手に入れるために他人を犠牲にする。自分が幸せになるためなら、自分以外が地獄に落ちることになっても、どうでもいい。
 恋を貫きたいなら、最初から全てを捨てて、誰も巻き込まずに二人だけで暮らせば良かったのよ。

「エルビスには失望したわ」

「イリア、待て!」
「イリアさん、お願いよ! グラスウール伯爵家を見捨てないで!」
「愛する夫の頼みじゃないか! 頼むから融資を続けてくれ!」

「皆様にはガッカリです。私と離婚して今後グラスウール伯爵家がどうなるか、見物ですね」

 エルビスもお義父様もお義母様も引き留めたが、全てを無視して、ダイニングルームを出た。
 振り向きざまに見た、皆が悲壮な表情を浮かべている中でただ一人、事の重大さに気付かず、エルビスが自分を庇ってくれた優越感からか、それとも私を家から追い出せた喜びか、場違いに勝ち誇った笑顔を浮かべているアイラの顔だけが、異様に癇に障った。

 ◇

 自室に戻って簡単に荷造りをしている傍ら、ヘルシアから新しいハンカチを受け取った。

「大丈夫ですか、イリア様。血が……」

「大丈夫よ」

 ヘルシアが心配する通り、口内の血が止まらず、ぼたぼたと溢れ出して、ハンカチは見る見るうちに赤く染まった。

「ガルドルシア公爵様の所に行きましょう」

「そうね、実家に帰る前に寄ろうかな」

 最近ケント様のところに行くのを避けていたし、そろそろ会いに行かなきゃ、と思っていたところだった。怪我をした証明として診断書も欲しいし、診察も受けて薬も補充しておかなきゃ。

「まさかアイラさんが、こんな卑劣なことをするなんて……! もしイリア様が針を口にしていたらと思うと、恐怖しかありません」

「食事に石と針が入っていたのは気付いていたから大丈夫よ。気付いていて、自分から石を口にしたの」

 突発的な行動なだけあって、雑だったからすぐに気付いた。
 針より石の方がマシだと思って選んだけど、こんなに血が出るとは……中途半端な怪我で怪しまれるのが嫌で、思いっきり噛んだ結果だ。

「ご自分で怪我をすることを選んだんですか!?」

「大したことないから心配しないで」

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