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24話 パーティー当日
パーティー当日――女の戦いはパーティーが始める前からだとエナから聞かされていたが、その言葉通り、前日から戦いは始まった。入浴の肌の手入れ髪の手入れ体中のマッサージから始まり、朝早くからの支度――あれ? パーティーって夜からじゃなかったけ?
「言っておきますが、今回はアクト様がドレスやアクセサリーを選んでくれていただけマシですよ。本当はどのドレスにするか、そのドレスに合うアクセサリーはどうするかを選別するところから始まるんですから」
「……そうなんだ」
インテレクト公爵家から派遣されたであろう侍女数人掛かりで、身支度が行われる。
一度も着たことがない高価なドレスを着て、これまた高そうなアクセサリーを身に着ける。これらは全てアクトからの贈り物だが、ブローチだけはその中に無く、ドレスの胸元には、お母様の形見の薔薇のブローチが目立つようにつけられた。
「お綺麗です! セルフィお嬢様!」
身支度の終えた私を見ると、エナは感極まったように、目に涙を浮かべた。
「エナ!? どうしたの!?」
「いえ、セルフィお嬢様のこんな姿が見れるようになって、嬉しいんです! ハミルカ奥様にも、見せてあげたかった……!」
「エナ……ありがとう」
私とお母様を想って流れるエナの涙を、ハンカチで拭う。
「行ってらっしゃいませ、セルフィお嬢様! アクト様と楽しんで来て下さいね!」
「ええ」
緊張していたけど、エナと、お母様のブローチのおかげで少し解れた気がする。
この日に向けてダンスの練習やマナーの勉強を必死に頑張ったし、挨拶だって、エナに付き合ってもらって何回も予行演習した!
大丈夫。
「セルフィ」
「アクト」
だって、私にはアクトがいる。そう思うと不思議と安心出来た。
「綺麗ですね」
「あ、ありがとうございます。アクトも……素敵です」
いつもだけど、正装している姿はまた雰囲気が違って、格好良く見える。
「それは良かった」
笑顔に胸が高鳴るのは何故だろう。いつもより、鼓動が早いのは何故だろう。
「では行きましょうか、お手をどうぞ、俺の婚約者様」
私をエスコートする彼のことを柄にもなく、王子様みたい! なんて、リシャルみたいな乙女なことを思ってしまったのは、内緒です。
――皇室主催のパーティーは、それこそ、上位貴族が中心となって参加するパーティーであり、下位貴族では招待状を受け取ることも難しい催しだ。
豪華な食事や素晴らしい音楽、貴族らしい優雅な時間を過ごせるが、その分、周りの見る目は厳しい。
「まぁ、あの方がインテレクト公爵様!?」
「噂されているよりも、凄い素敵な方だわ!」
「隣にいるのは、まさか婚約者!? 確か、ローズリカ子爵令嬢よね? 社交嫌いで、ローズリカ子爵がいくら嗜めても参加しないって有名な娘よ! それが、インテレクト公爵様の婚約者だなんて……」
皇室の大ホールに足を踏み入れた瞬間、私達が注目されているのは一目瞭然だった。
今ままで社交界の参加を拒んでいたアクトに、その婚約者である私。注目度抜群になることは間違いないと覚悟はしていた――――けど、お父様が嗜めても社交界に参加しない娘って誰!? まさか、私!? お父様ってば、私のことをそんな風に話していたのね……!
お父様に対する怒りは置いておくとして、皆が、子爵令嬢である私がどんな女性か、インテレクト公爵様に相応しいか見定めようとしていると思うと、突き刺さる視線の数に背筋が凍った。
「大丈夫? セルフィ」
「す、少し緊張はしていますけど、大丈夫です。アクトは大丈夫なんですか? 私もですけど、アクトも凄く注目されていますけど」
「視線が鬱陶しいなとは思いますが、他は特に何も思いませんね」
鋼の心臓の持ち主か。いいなぁ、私も欲しい!
「――アクト様、珍しいところでお会いしますね」
皆が遠巻きに見つめる中、最初に声を掛けてきた人物はアクトの知り合いのようで、丁寧に頭を下げると、笑顔をこちらに向けた。
「社交界嫌いがどういった風の吹き回しですか? アクト様の登場に、令嬢達が色めきだっていますよ」
「何だ、お前も来ていたのか、《ノヴァ》」
「そちらが噂の婚約者かな? 初めまして、お会い出来て光栄です、ローズリカ子爵令嬢」
社交界に参加するにあたって、最初に私が頭に叩き込んだのは、貴族達の顔や名前など、まず、貴族名簿を記憶することだった。
「……初めまして、セルフィ=ローズリカと申します。こちらこそお会い出来て光栄です。ノヴァ=レパスト様。先日、お父様の跡を継いで正式に伯爵になる日が決まったとお伺いしました。おめでとうございます」
覚えた情報を頼りに、ドレスの裾をつまみ、何度も何度も練習したお辞儀をする。
ここでしっかりとインテレクト公爵の婚約者として、存在感を占めさなければならない。アクトのためにも、きちんと婚約者として認めてもらわなくては!
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