悪魔の家

かな

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 どれ程時間が経っただろう。
 実際、30分程だが、体感的には、とても長く感じた。
 あかりもはなも何が起きたか話さなかったが、洞穴に杉とあきとの姿が無い。
 それだけで、濱田も藤も、最悪な事が起きていることが理解出来た。
 ザァーーーー!!
 強まった雨音と風の音だけが、洞穴に響く。
「…………!田村さん!」
「「!」」
 そこに、雨に打たれずぶ濡れになったけいじが、ロープをつたって戻ってきたのを、藤が迎えた。
「あのっっ!すぎちゃんはーー?!面堂さんはーー!」
 藤の顔色は悪く、今にも泣き出しそうなのを抑えて、けいじに詰め寄った。
「………………ごめん」
 けいじは、一言、そう答え、
「辺りを探したんだけど……2人を見つける事がーー出来なくて……」
 絞り出すように、言葉を続けた。
「やだ!たぁ君!何でよ!本当にちゃんと探したの?!」
「……」
 はなも続けてけいじに詰め寄ったが、今度は、けいじは何も答えないーー答えれなかった。




 雨も止み、風も止まった。
 だが、霧は深いまま、辺りは夜になり暗くなった。
 パチパチパチ
 火の音と、時折、泣き声と、鼻のすする音が洞穴に響く。
 誰も、何も話そうとしなかった。
 (…このまま…皆…死ぬのかな…)
 あかりはうずくまりながら、そんな事を考えていた。
 ガザッッ!!!ザッッ!!!!
「!」
 洞穴の外から聞こえた音に、驚き、振り向く。
 あかりだけでは無い、全員が、音の方を見た。
「ーー良かった……ここで、合ってましたね…」
「!たぁ君!!!」
 息も絶え絶えの状態のあきとが、洞穴の入口まで来、力尽きたのか、その場で膝をついた。
 はながいち早く駆け付け、抱きつく。
 けいじも、後を追った。
「あきと君ーー!良かった…無事で!」
 心底安堵した表情を浮かべ、けいじは言った。
「焚き火の灯りが、目印になりました……。すみません……すぎちゃんを見つける事が、出来なくて……」
 あきとは、抱きついているはなの体を、目も合わせず引き離した。
「たぁ君?」
「…本当に…すみません」
 はなの呼びかけに答えず、深く深く、皆に謝罪し、頭を下げる。
「たぁ君がそんな謝る事ないじゃない!勝手に飛び出して行ったのはあの女なんだがら、たぁ君が無事に帰ってきてくれただけでーー」
「いい加減にしなよ!はな!」
 あきとに怒られ、ビクッと体を揺らす。
「た、たぁ…君?」
「……」
 あきとはそれ以上、何も答えなかった。
「何にせよ、あきと君が無事で良かったよ。暖かいものでも飲もう」
「はい…ありがとうございます」
 けいじの気遣いにお礼を言うと、けいじに促されるまま、あきとは焚き火の近くに腰掛けた。
 そんな、自分の存在を無視するあきとを、はなはぎゅっと唇を噛み締めながら、睨んだ。




 朝。
 昨日よりも、霧は晴れた。
 まだ少し薄暗いが、辺りを見渡せる事が出来る。
 けいじの発案で、今日はロープを洞穴に残し、辺りを探索する事にした。
 雨が降る前の計画は、川や水が流れる場所への移動が目的だったが、誰も反対しなかった。
「ここに戻ってくるんでしょ?ならはなは行かなーい。足痛いもん」
 ただ、はなだけは探索を拒否し、洞穴に残る選択をした。
 けいじだけは、団体行動を推奨したが、はなは行くのを最後まで拒否し、誰もはなと一緒にその場に残る選択を選ばなかった。
 普段なら、はなはあきとに一緒に残るよう声をかけていただろうが、今日は何も言わなかった。
 昨晩、はなに怒鳴ってから、あきとは何度もはなに甘えた声をかけられたが、1度も目を合わせず、応えなかった。
「…」
「藤さん…」
 あかりは、憔悴しきっている藤の体に優しく触れ、声をかけるが、藤から返答は無かった
 泣き腫らした目は腫れ、赤い。
 夜中、声を押し殺してすすり泣く音が聞こえていて、1晩も寝ていない事が伺えた。
「じゃあ行こうか」
 けいじが笑顔で言う。
 ロープはけいじが持っているが、昨日とは違い、霧は少し残ってはいるが、遠くに離れなければ、ロープを持たずとも移動する事が出来た。
「……」
 前までと違い、道中、一切の会話は無い。
 ただ、歩き、食べれる山菜やきのこを集めたり、周りを、捜すーーー彼女、杉の姿を捜してーー
 あの深い霧の中、途中で止んだとはいえ、雨の中、1人で、この山の中の生存率が低いのも、迷えば合流が難しい事も、理解している。
 でも、まだ1晩。
 遠くに行っていなければ、その場に留まっていれば、助かる可能性はあるかもしれない。
 現に、あきとは自力で火の光を頼りに戻ってくる事が出来た。
 諦めたく無い。
 そんな気持ちを、けいじにも藤にも、強く感じる。
 勿論、あかりにも。
 (…お願い…無事でいて…)
 願いにも似た強い気持ち。
 ただ、願いは虚しく、すぎの姿を見つけられないまま、時間だけが過ぎた。
「ーーおい、もう戻ろーぜ」
 濱田は、息を吐きながら言った。
「……そうだね」
 けいじも、それに同調する。
 何時までも捜す訳には行かない。
 日が暮れたり、疲労が溜まり、自分達も迷えば、元も子も無い。
「戻ろう」
 悲しい表情で、けいじは言った。



 ロープを頼りに、洞穴まで戻る。
「!…これ…」
 その途中、あかりは、キラリと光る物に気付くと、それを拾った。
「!これ!すぎちゃんの!」
「どうした?!何か見つかったのか?!」
 すぐに藤もけいじも反応し、駆け寄る。
 あかりが拾ったのは、藤の髪にもついている、2人のお揃いの髪飾り。
「すぎちゃん…!」
 あかりからそれを受け取ると、藤は涙を流した。
「ここら辺を捜そう!」
 けいじの声に、あきとも濱田も頷き、辺りを捜す。

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