悪魔の家

光子

文字の大きさ
25 / 37

25

しおりを挟む


「まさか、田村さんに毒を仕込んだ日に、こんな事になるとは思っていませんでしたけど」
 ニコニコと、日常会話をしているかのように答える。
「田村さんがいなくなったら、人間関係もっと破綻しそうで、ちょっと見てみたかったんですけどね」
 このメンバーは、ほぼ、けいじがいてこそ成り立つ、細い糸のような関係性で、その糸も、先程解けてしまった。
「……今まで、行動を起こさなかったのは、俺から知識を得る為か……」
「正解です」
 アウトドアの知識が全く無かったから、生き残る為には、どうしてもけいじが必要だった。
 でも、今は火起こしも、毒の知識も、全てを手に入れた。
 だから、必要が無くなった。
「田村さんは良い人だから、せめてーーー苦しまずに殺してあげますね」
「…」
 笑顔で、残忍な言葉を何度も口にするあきとを前に、けいじは、これが彼の本質なのだと理解した。
「…ねぇ、あきと君…もしかしてだけどーーーすぎちゃんは……」
 杉が死んだ時ーーー
 はなと口論になり、杉が飛び出した時、あきとは、杉の後を追いかけた。
 けいじのこの疑問に、あきとはにっこりと微笑むと、けいじの体に強く蹴りを入れた。
「ぐっ!」
 衝撃で背中から壁にぶつかり、そのまま地面にずり落ちる。
「それも正解です、田村さん。すぎちゃんは、俺が殺しましたよ」
 (やっぱり)
 何の確信も無かったが、彼の本質を理解した今、納得した。
「彼女、すぐに立ち止まってたんですよ」
 悪びれも無く言いながら、あきとはけいじのもとへ、ゆっくり一歩一歩足を進める。




 洞穴を出た所、少し離れた場所。

 自分の姿を振り返り見つけると、杉は涙を拭いながら笑顔を見せた。
『ごめんなさい。追いかけて来てくれたんですね』
 あきとは、忍ばせていた手術用のメスを取り出すと、気付かれないように後ろ手に隠す。
『…落ち着いたんだね』
『はい』
 杉は、自身の髪につけていた髪飾りを手に握り締めていた。
『私、昔、虐められていた事があってーー』
 髪飾りを大切そうに見つめる杉。
『でも、ふじちゃんに会って、毎日が楽しくてーー』
 ゆっくりと、距離を詰める。
『ふじちゃんを残して、馬鹿な事しちゃいけないなって。私とふじちゃんは、一緒に、無事に、ここから帰ーー』
 シュッッッッッ
 すぐ傍まで近寄ると、素早く、喉元を、メスで一閃した。
『かっっっ!!!』
 悲鳴ともとれない、小さな濁音が聞こえ、苦痛の表情を浮かべる杉。
『ーーごめんね、その話、僕あんまり興味無いかな』
 無表情で冷たく答える。
『すぎちゃんー!!!あきとくーーん!!!』
『!』
 自分達を探しに来たであろうけいじの声が聞こえ、あきとは杉の体を近くの茂みに引っ張り、身を隠した。
 杉の手から、藤とお揃いの髪飾りが落ちる。
 すぐ至近距離にいるが、この深い霧では、目視出来ないだろう。
『ーーぅーー!!』
 自分の腕の中で、必死に助けを呼ぼうと、逃げようとする杉の体を、力で食い止めた。
 自分達を呼ぶ声が小さくなるにつれ、杉の表情が絶望に染まる。
『あーあ、残念』
 あきとは微笑むと、彼女の前にメスを差し出した。
 涙が溢れ、カタカタと震える体。
『精一杯楽しませてね』
 あきとは、まずは、彼女の腕に、メスを刺した。





「しばらくして、雨で体を洗い流してから、洞穴に戻りました。火が見える位置には注意していたので、火を消されたら、危なかったですけど」
 と、笑う。
「僕は、暗闇には慣れていまして」
「…どうして…」
 彼が根っからの殺人鬼だとして、その時点では、行動を起こすメリットは無かった筈だ。
 なのに、彼は杉を殺す行動に出た。
 けいじの質問に、あきとは心底不思議そうに、首を傾げた。
「だって邪魔でしょう?ただでさえ、はながいて歩くスピードが遅いのに、その上、足を怪我したすぎちゃんがいたら、邪魔じゃないですか」
 彼女は転けて足を負傷していた。
「だから殺しました」
 その治療をしたのは、紛れもない、あきと本人なのに、彼はその手で殺したのだ。
 けいじの前にたどり着き、しゃがみ込むと、彼と目線を合わせながら、再度、決定的な言葉を口にする。
 その言葉を聞く事で、悲痛に歪むけいじの表情を、良く見るためにーーー。
「死体が見つからなければそれで良し。死体が見つかったら、悪魔の森にちなんで、悪魔に罪を被って貰おうと思っていたんですけど、幸運な事に、動物が死体を荒らしてくれていたようで」
 そもそもが人間の仕業だと思われなかった。
「はなが人間関係を乱してくれたお陰です」
 あきとは、顔がぐちゃぐちゃになり、息絶えたはなを見ながら、そう言った。
「君は……最低な人間だ……」
「そうですか?僕は自分の本能のままに生きてるだけなんですけどね」
 あきとは、メスを構えた。
「時間稼ぎはもう良いですか?彼女を逃がす為に話を続けてるみたいですけど、夜明けまではまだまだ時間がありますよ」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...