悪魔の家

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『お母さん、照史君のこの頬の怪我、どうしたんですか?』
『はぁ?怪我?知らないわよ、どこかで勝手にぶつけたんじゃない?』
 ふぅーと、煙草の煙を吐き出す。
『照史君にちゃんとご飯を与えてますか?』
 照史の体型はガリガリで、細い。
『あんたに関係ある?』
『っ!貴女は照史君の母親でしょう!?』
 声を荒らげる敬二の表情には、怒りが見えた。
『どうしてこんな酷い事が出来るんですか?!照史君が、貴女に何かしましたか?!』
 こんなに酷い扱いをされているのに、照史は、母親の事を、好きだと、迷い無く答えた!!!
『照史君はーーー貴女に、こんなにも、愛して欲しいと願ってるのにーーっ!貴女は母親失格です!!』
 敬二の真剣な表情を、自分の為に、真摯に怒ってくれる姿を、照史はジッと、目に焼き付けた。
『愛して欲しい…?』
 母親の表情が一瞬で険しくなり、ガタガタと、体も震える。
『……?』
 母親の異変に、敬二も気付いた。
『私が、その子を、愛す?』
 照史を睨み付ける母親の表情は、愛する子供に向けるものとは、明らかに違う。
『愛する訳無いでしょ!!嫌いよ!憎いわ!出来るなら、殺してやりたい!!!』
 凡そ、母親とは思えない台詞を口にする。
『ちょっと、止めーー』
 照史に聞かせる事では無いと、敬二は制止を求める為口を開こうとするが、母親は止まらなかった。
『あんたに何が分かるの?!私の苦しみも知らないで!』
 ガンッ!!と、テーブルの上に置いてあった灰皿やゴミを投げつける。
『産みたくなんか無かった!あんな奴の子供なんか、欲しく無かった!!!』
 母親には、ハッキリした憎悪の対象があって、その感情は、睨み付けている照史にも向かっている。


 僕はずっと知りたかった。
             母親に愛されない理由を。


 照史は、呆然としたような、無表情で、そんな母親の姿を、言葉を、感じた。
『この子が育てば育つ程!父親に似てくる!!気持ち悪い!!』


 父親は物心ついた時にはいなくて
 その事をママに聞くと、ママは凄く怒るから、僕にはいないものだ。って思ってたーーー。


 そこら辺の物を次から次へと投げ付ける母親。
『止めて下さい!』
 これ以上、照史に何も聞かせたくなくて、敬二は母親の元まで行くと、暴れる母親の体を押さえ付けた。


 パパはいないけど

 ママさえいれば、僕にはそれで良かったーーー。

 僕は、ママが大好きだからーーー。




『教えてあげるわよ!こいつは、
 こいつの父親はーー

 私の義理の父親!!あいつは、私を犯して!こいつが産まれたのよ!!!』



『ーーー』
 話の内容は、幼い僕にはハッキリと理解出来なかったけど、これだけは分かった。
 (ママは絶対……僕を好きになってくれないんだ……)
『ぅ…ぅ…うわーーーん』
 堰を切ったように、照史は声を出して泣きじゃくった。
 母親の前で、こんなに声を上げて泣いたのは本当に久しぶりだった。
『うわーーーーん!!』
 涙が次から次へと止まらなかった。
 泣きじゃくる僕を見て、ほんの少し、ママが、僕の方に来て、優しく抱き締めて、泣き止ませてくれないかな。って、期待した。
 でも、ママはずっと、怒っていて、それを、けーじさんが必死に止めてた。
 それがまた悲しくて、僕はずっと、泣いていた。

 この日が、母親の前で素直に感情を出せた、最後の日に、なった。




 数日後ーーー
 敬二は、また照史のアパートの部屋の前にいた。
 ふぅー。と、大きく深呼吸する。
 手には中身が沢山入ったコンビニの袋。
 (前は、感情的になり過ぎてしまった……)
 照史君を助けなくてはと、気持ちが先走り過ぎて、熱くなりすぎた。
 あの後、アパートの住人の誰かが警察に通報して、騒ぎになり、警察官の敬二はそのまま連行され、上司にこっぴどく怒られた。
 人様の家庭の事情に深く突っ込むな!
 ほっとけ!
 〇△×□等など。
 確かに。
 どこまでおいそれと踏み入って良いものなか、分からない。
 (でもーーーこのまま放っておく事は出来ない)
 上司にはもう行くなと言われたが、虐待が起きているのは事実で、それを無視する事は、敬二には出来なかった。
 (それに……話が事実なら、彼女もまた、被害者とゆう事になる)
 義理の父親に性的虐待をされ、子供まで孕まされたのだ。
 そして、誰にも頼れず、子供を1人で育てている。
 敬二の持ってきたコンビニの袋の中身は、自分の分を含めた3人分のパンやお菓子に、ジュース。
 (少しでも、2人の力になれればーー!!)
 思いを改めて、敬二は部屋の呼び鈴を鳴らした。
『……』
 応答が無い。
 少し迷った後、前とは違い、控えめに扉をノックする。
 トントン
『内村さーん、いませんかー?』
 照史は公園に居なかった。
 トントン
『あっ君ー?』
 公園にいない日は、他に行き場の無い彼は必ず家にいる。
『ーーーその家の人なら、もういないよ』



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