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しおりを挟む『いやぁあああ!!!助けてーー!!』
『五月蝿いなぁ』
照史は暴れる母親の体を押さえ付け、騒ぐ母親の口にゴミを詰め込むと、ガムテープで塞いだ。
『僕はずっと大人しくしてたでしょう?母さんも大人しくしててよ』
涙で濡れ、絶望に染まる顔。
照史はそのまま、母親を、いつも自分がされていた様に、押し入れの中に放り捨てた。
『んー!!んーーー!!!』
問答無用に扉を閉めると、照史は何事も無かったように、母親がそうしていたように、TVをつけ、戸棚にあったカップ麺を啜った。
悪い事をしている感覚は無かった。
全部自分がされてきた事だし、自分がやってみて、母親の気持ちを理解した。
(五月蝿くされると、耳障りだよね)
黙れ!!と、怒鳴った母親の気持ちをーーー。
それから、普通に生活した。
普通に学校に行き、家に帰り、ご飯を食べて、寝る。
『ーーあ』
3日程経って、母親の存在を思い出した。
母親は家を空ける事も多くて、その感覚でいたから、押し入れに閉じ込めた母親の存在をすっかり忘れていた。
『母さん』
すーっと押し入れを開ける。
『……』
母親は、目を開け、苦しみの表情で、事切れていた。
『……あーあ』
こんな簡単に死ぬんだ。
それが感想だった。
(僕はもう少し生きてたのにな)
正確な日数は覚えていないが、生き延びた気がする。
(暑かったのが駄目だったのかな)
今は真夏。
この家にはクーラーなんてものも、扇風機も無い。
『……母さん』
呼んでも、返事は無い。
照史は、母親の亡骸を、そっと、抱きしめた。
『……殴られない……』
生きていた時は、絶対に許してくれない行為。
照史の頬からは、一筋の涙が流れた。
悲しみの涙では無い。ただーー抱きしめられた事が嬉しくて、涙を流した。
『…ママ…!』
ギュッと、小さい頃に戻った感覚になり、強く抱き締める。
その腕が抱きしめ返す事は無いけれど、その体は、冷たいけれど、ずっと思い焦がれていた、母親だった。
母親は自分を愛してくれなかったけど、照史は無条件で、母親を愛していた。
これが呪いとゆうなら、そうなのだろう。
どんな母親でも、小さな子供だった照史は、母親を愛していた。
照史はそのまま、1晩、母親の腕に包まれながら、夜を過ごした。
こうして、彼は長年の虐待から、解放された。
ただ、彼は、もうーーー普通の感覚は、失っていた。
翌朝、照史はまず、母親の遺体を解体する事から始めた。
遺体がここにあり、殺害する意図が無かったといえ、結果的に殺してしまった今、面倒になる事を理解していた。
『どうしようかな…』
母親の遺体を前に、悩む照史。
照史は、小さい頃から頭が良かった。
決して良い環境では無いのに、覚えが早く、頭の回転も早い。尚且つ運動神経も良かった。
悩んだ末、彼はお風呂場で母親の遺体を解体し、海に捨てる事にした。
血の跡が残らないよう、部屋中にビニールを引き、解体後の風呂場も、万が一を考え、薬品を使用し、痕跡が残らない様に掃除した。
母親の遺体の解体作業、海への放棄。
全てを、照史は、何の感情も持たず、ただの作業として、淡々と行った。
(母さんは育児放棄の実績が多々ある)
例え行方知れずになったとしても、遂に子供を捨てて出ていった母親として、認識される可能性が高い。
家に帰り、照史は電気もつけず、暗闇の中、これからの事を考え深けた。
あれから遺体も発見される事無く、母親は思惑通り、失踪とゆう形で処理され、未成年だった僕は、そのまま養護施設に行き、暮らし初めた。
『ーー君が、照史君だね』
数ヶ月が経った後、祖父と名乗る人物が照史の前に現れた。
(なるほど…僕は、父似。かな)
まさか息子が出生の秘密を知っているとは思っていないのか、目の前の男は、自分が母親の義理の父親で、君の祖父で、ずっと探していた。と、涙ながらに語る。
小さい頃は理解出来なかったけど、大きくなった今なら、母親の言った言葉の意味を知っている。
(この人が母さんを無理矢理犯した、僕の父親ーー)
母親に強い愛着を持っていたから、父親にも何か感情が沸くかと思ったけど、不思議と何もうまれなかった。
『会えて嬉しいです……おじいちゃん』
照史は年相応の笑顔を作ると、歓迎の言葉を吐いた。
父親は照史が想像していたのとは異なり、身なりからしても、お金持ちなのが伺えた。
(生活が楽になりそう)
照史はただ、それだけを思い、父親の引き取りを受け入れる事にした。
父親は母親の事を深く愛していて、照史をすぐに自分の養子にし、自分と母親の血を引く照史の事を、どの自分の子供よりも、孫よりも、可愛がった。
大病院を経営していて、とても優秀な医者の父親。
そんな父親の遺伝子を濃く受け継いだ照史は、良い教育を受けれる様になると、元より頭の良い頭脳が一気に開花した。
それだけで無く、環境の性で不潔だった見た目や身なりは一掃され、元より端麗な顔がより良く目立つようになり、身に付ける物も一流になった事で、周りの自分に対する態度も、極端に変化する。
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